ドリス
カフェでのひと時。
セリオンとエスカローネはあるカフェを訪れていた。
「カフェ・モカ(Café Mocha)」であった。
セリオンとエスカローネはコーヒーとチーズケーキを注文した。
「やはりここのコーヒーはうまいな。ケーキともぴったり合っている」
「このチーズケーキもおいしいわね。絶品だわ」
「失礼します」
「? あなたは?」
「私はドリス(Doris)。赤の魔法使いです」
そこに赤い髪に、赤い瞳をして深紅の女性用スーツを着た女性がいた。
「あなたがセリオン様。セリオン・シベルスク様でございますね?」
「ああ、そうだが?」
「私も会話に入ってよろしいでしょうか?」
「ええ、いいですよ。どうぞ」
「ありがとうございます。私も同じものを注文しましょう」
ドリスがセリオンの前に座った。
「セリオン様、あなたによって暴竜ファーブニルは倒され、ツヴェーデンに平和が到来しました。ほかのみなを代表して、私がお礼を申し上げます」
「そんな礼を言われることでは……あくまで俺個人の戦いでしたから」
「ウフフフ、ご謙遜なさらずともよろしいのですよ? 実際、セリオン様があの暴竜を倒してくださらなかったら、気の遠くなるような人的、物的被害をツヴェーデンは被ったでしょう。私はツヴェーデンを愛しております。そのツヴェーデンが救われたことは、あなたの武勇によるところが大きかったと思います。あなた様がいなかったら、ツヴェーデンは滅びていたかもしれないのですから」
「……」
「? 何か気に障ることでも?」
「いえ、そうでは……」
「ドリスさん、彼はあまり自分の名誉を語らない傾向にあるんです」
エスカローネがフォローした。
「まあ、それは失礼いたしました。ウフフ、謙虚な方なのですね」
「俺がファーブニルを倒したと吹聴しては嫌みにすぎませんからね」
「ですが、あなたは暴竜ファーブニルを倒した。むしろ「英雄」と呼ばれるにふさわしい……私はそう思います」
「俺も自分のことは英雄と思っていますよ。けれど、自分から英雄とは言いはしませんね。青き狼とは自称しますが」
その時、テーブルにドリスが注文したコーヒーとケーキが来た。
「コーヒーの香りは落ち着きますね」
ドリスは口にコーヒーをつけた。
「それにしても、セリオン様はコーヒーがお好きなんですか?」
「ああ、俺はコーヒーが大好きだ。だからよくこの店にやってくるんだ。この店はコーヒーがシュヴェーデ一と評判だからな。ドリスさんはコーヒーが好きか?」
「ウフフ……私も好きですよ。この独特な風味がいいんですよね」
ドリスがコーヒーのにおいをかんだ。
「確か、セリオン様はテンペルの騎士でしたよね?」
「そうだが?」
「テンペルは訓練が厳しいことで有名ですから。実戦と演習の違いは血が流れるか流れないかだと言われるくらいですからね」
「それだけじゃない。テンペルの訓練や演習では武器の重さを二倍にするんだ」
「まあ、そんなことまで! わたくし感嘆いたしました。ウフフ、テンペルと言えば聖堂騎士団(Tempelorden)……テンペルが保有する軍事力……ツヴェーデン軍とはもめないのですか?」
「テンペルはツヴェーデン軍と同盟を結んでいる。演習も共同で行うことが多い。それに一般信徒もただ守られているわけじゃない。武術や後方支援業務を学ばされる。テンペルでは誰でも戦いにかかわっているんだ。小さな子供だけが例外なくらいさ」
「そうですか……ウフフ。聖堂騎士団……さぞ精強な部隊なのでしょうね」
ドリスはケーキに口をつけた。
「さて、もう少しお話したかったんですが、私にも予定がありまして。ここいらで失礼させてもらいます。それにしても、有意義な時間でした。ありがとうございます。それでは……Zahlen bitte!」
「Zusammenn oder Getrennt?」
「Getrennt bitte.」
ドリスは支払いを済ませると、セリオンたちに一礼して去っていった。
「ドリスさん、か。赤が好きなのだろうか?」
「そうね。あそこまで赤一色だと少し怖いわ。まるで血を見ているようで……」




