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Das Heldenlied Neu ヘルデンリート・ノイ  作者: Siberius
Neu Vier Aschtoreth
101/196

ユグルタ戦争

彼女は女主人だった。

彼女は自らの意思を行わせる配下を持っていた。

「さて……地上侵攻は間近だ。地上は我らによって支配されるべきなのだ。どうやら、人間どもは真の支配というものを知らないようだな。それは闇だ。闇によって地上は支配されるべきなのだ。人間どもはこの城についてはまだ知らない。知っていたら今ごろパニックになっていただろうな。この城は光学迷彩でその姿を隠している。こんな城が浮いているとわかれば、混乱が支配するであろう。我らサタンの使徒たちがこの世界に闇をもたらす。サタン様は我らが盟主。サタン様の支配こそ、真なる支配なのだ。我らはその道具として活動するのみ。ああ、いつその美しい支配が到来するのであろうか……」

彼女はうっとりした。

恍惚こうこつしている。

彼女にとって闇の支配とはただ漠然と支配すればいいものではなかった。

それは彼女のあるじ、盟主サタンが支配する秩序でなくてはならない。

サタンこそ、支配者の中の支配者。

サタンこそ『神』の支配を打ち破る存在。

「フフフ……偉大なるサタン様が降臨なされば、神の支配など葬り去ってくれるわ。そして人に代わり我ら悪魔が地上を支配するのだ! フフフ……天使どもにこの計画は止められぬ。地上の勢力地図から人間は一掃される。地上は我ら悪魔の家となる!」


これは後世より『ユグルタ戦争(Bellum Jugurthinum)』と呼ばれることになる戦争であった。

地中海南沿岸の国家ヌミディア(Numidia)――この国での政変がユグルタ戦争のきっかけだった。

それは国王ミキプサ(Micipsa)をおいのユグルタ(Jugurtha)が殺害し、王位を我がものとしたのである。

ユグルタは自ら王位についた。

ユグルタは『王』と名乗った。

ところが、このユグルタの政権をエウロピア(Europia)地方の国々はどこも承認しなかった。

ヌミディアの隣国で西にあるマウレタニア(Mauretania)が唯一ユグルタの義理の父ということで承認したくらいである。

他の国々はことごとくユグルタ政権を逆賊、反徒と見なした。

ユグルタは僭称王とまで呼ばれた。

ヌミディアは国際的に孤立し、さらに諸国の経済制裁が連発された。

ヌミディアからマシニッサ(Masinissa)王子がツヴェーデンに脱出し、亡命政府を樹立した。

マシニッサ王子には王位の正統性と国民からの人気にんきがあった。

ヌミディアからは次々と有力者が脱出し、覇権国ツヴェーデンに向かっていた。

マシニッサ王子はツヴェーデンで対ユグルタ包囲網を作ろうと考えていた。

それに対し、ユグルタは自らに従わない有力者たちを処刑し、火に油を注いだ。

そもそもユグルタの考えでは自分こそ正統な王なのであって、ミキプサは簒奪者さんだつしゃにすぎなかった。

ユグルタはツヴェーデン政府に連なる者たちを賄賂わいろ篭絡ろうらくしようとした。

しかし、ユグルタの計略は失敗し、ツヴェーデン政府はユグルタの手の者たちを捕らえた。

賄賂がうまくいかないと知ると、ユグルタはマシニッサの暗殺をもくろんだ。

だが、これも失敗した。

ツヴェーデンはこのヌミディアに正統な王権を樹立すべく軍備を整えた。

ツヴェーデンの大義はマシニッサ王子を新しい王としてヌミディアに即位させるための戦争というものった。

かくして『ユグルタ戦争』が勃発した。


スルト、セリオン、アラゴンの三人はツヴェーデン大統領――テオドール・ベートホーフェン(Theodor Beethoven)から大統領府に招かれた。

その理由は政治的なものだった。

「ベートホーフェン大統領、本日はお招きいただき、我らは大変感謝している。ところで、我ら三人をどのような理由で招待したのか?」

スルトはベートホーフェン大統領とは腹を割って話せる仲だった。

「そのことですが……私たちツヴェーデン政府はヌミディアのマシニッサ王子を保護してます。あなたがたはヌミディアでの一件をご存じですな?」

「我々テンペルの者たちはヌミディアとは外交関係を持っていないので、ニュースで知っている程度の知識しかない。もちろん、情報は収集中だが……」

「ツヴェーデン政府はヌミディアに軍事介入することに決定いたしました。派遣軍を組織するつもりです」

ベートホーフェン大統領の言葉を受け、スルトが軽く驚いた。

「なんと、それではヌミディアに攻め込むつもりか?」

スルトの後ろに控えるセリオンとアラゴンも驚きの表情を浮かべる。

「ヌミディアは農業国でもありますが、騎兵の産地でもあります。少数の敵がゲリラ戦をするようなところではありません」

「確かに地図でヌミディアの領土を見ると、荒涼な大地が続いているようだ。ツヴェーデンのような文明が発達するような条件が欠けている」

スルトが大統領に同意した。

ベートホーフェン大統領は真剣な顔をして。

「そこでですが、セリオン殿とアラゴン殿を我らの軍に貸していただけないでしょうか?」

これは大統領の本音だろう。

「何と……それはどういうことか、ベートホーフェン大統領?」

スルトが質問して追求する。

「セリオン殿とアラゴン殿の武勇は響き渡っております。そこで、両者をツヴェーデン軍の指揮下で働かせてもらえないでしょうか? もちろん契約を交わしますし、従軍中の給料は支給、衣食住とも保障しましょう。軍内でも特別な身分を与えましょう。その条件でお二人を貸していただきたい」

スルトはセリオンとアラゴンのほうに顔を向けた。

「セリオン、アラゴン、どう考える? 私はおまえたちの考えを尊重するつもりだ」

まず先に答えたのはアラゴンだった。

「私はかまいません。ニュースで見ましたがユグルタの行いは許しがたい。ここはツヴェーデン軍に協力するのが得策かと。私個人としては自ら参加を望みます」

アラゴンが自らの意見を述べた。

続いてセリオンが。

「俺はスルトの判断に従う」

「それでいいのか、若き狼よ? エスカローネとしばらく会えなくなるかもしれぬぞ?」

「ああ、わかってる」

「……いいだろう。ベートホーフェン大統領、私はテンペルを代表して二人を派遣しよう。ツヴェーデン軍で使ってやってくれ。それにこのような経験は何にもまして代えがたいだろうからな」

「ありがたい、スルト総長。それではさっそく明日からツヴェーデン軍に出頭を願いたい」

ベートホーフェン大統領は心から感謝したようにセリオンには見えた。

セリオンは己の居場所を知っている。

それは戦場だ。

戦場こそセリオンが最大限に輝く場所なのだ。

戦いこそがセリオンの存在意義なのだから。

「二人には良い実戦経験となるだろう。二人とも、今日中に近親者とのあいさつを済ませておけ」

「わかりました」

「わかった」


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