リナシメント
セリオンとエスカローネは夜、高級パスタの店を訪れた。
服装は二人ともフォーマルなスーツであった。
セリオンはエスカローネをこの店リナシメント(Rinascimento)に誘った。
「ねえ、セリオン?」
「何だ、エスカローネ?」
「こんな高級なところに来て私たちは大丈夫なの?」
エスカローネはセリオンのサイフを心配しているのだ。
「ああ、安心してくれ。俺のサイフは痛くないよ」
セリオンはにこやかに語った。
「そう……でも、この店は高いんでしょう? 何なら、私も払いましょうか?」
「いいや、ここは俺におごらせてくれ」
「セリオンがそういうならいいけど……あっ、料理が運ばれてきたわ」
運ばれてきたのはカルボナーラだ。
チーズのにおいが香ばしい。
「速いな。もっと時間がかかるのかと思ったいた」
「料理が冷めないうちにいただきましょう」
セリオンとエスカローネはフォークを食べた。
チーズの甘さが舌全体に広がる。
「おいしい! さすが高級パスタの店だけああるわね。私の手じゃ、これほどのものは作れないわ」
「そうだな。この店はカルボナーラがおいしいと騎士の一人に聞いたんだ。それでエスカローネといっしょに来たくなったのさ」
セリオンはワインにも口につける。
ワインは水割りでストレートではない。
セリオンはエスカローネのワイングラスに自分のグラスを触れさせた。
カチンと音が鳴る。
中に入っていたワインが揺れた。
「パスタも柔らかいな……それにしても、エスカローネ?」
「どうしたの、セリオン?」
「最近、エスカローネはどんな訓練をしているんだ?」
「そうね……最近は回復魔法の訓練が多いわね。私はヴァルキューレ隊の中でも回復魔法が使えるから、医療班に配属されたわ」
「そうか……訓練は大変か?」
「そうね。アンシャルさんが的確な判断をして指示を出すからやりやすいわ。私たちは回復魔法の精度を上げるよう指導を受けたわ。それにしても、騎士も大変なんでしょう?」
エスカローネはセリオンに尋ねた。
セリオンは遠い目をしながら。
「まあ、そうだな。特に聖騎士となると危険な任務を任せられることも多くなる。前線に行って戦うことも多い。ただ、俺にはとてもやりがいがあるように思うんだ。俺は自ら望んで聖騎士になった。多くの人たちの前に立ちたいと思ったからだ。俺にとって戦いは生きがいだよ」
「やっぱり、セリオンはすごいわ……でも、そうだからこそ、私は陰口をたたかれているのかもしれないわね」
エスカローネが顔をそむけた。
セリオンはエスカローネの言った言葉が気になった。
「陰口?」
セリオンはエスカローネのいう「陰口」に注目した。
「それはどんな陰口なんだ?」
「それは……」
エスカローネは顔を赤く染めた。
そんなに話しにくいことなんだろうか?
「? どうしたんだ?」
「えっと……いいやらしい体で、セリオン様を誘惑したって……」
「はあ、どうしてそういうことになるんだ? エスカローネは武器の扱いや、戦いの訓練、回復魔法による治療と、活躍しているからだろうか?」
エスカローネは顔を赤く染めながら。
「私も耳に挟んだだけだから……」
エスカローネが歯切れが悪いのは、エスカローネ自身に蠱惑的な体をしているという自覚があるからだ。
「そんな奴らの言うことなんて気にすることはないさ。俺はエスカローネの心を愛している。でも、さっきのもあながち間違いとは言えないな。俺はエスカローネの体に魅力を感じる。それは本当だ。俺はエスカローネの髪も、顔も、体も、みんな好きだよ」
「セリオン……」
エスカローネは赤面した。
「うわーい! 緑がきれーい!」
とシエルがはしゃいだ。
「ノエルちゃん、あの木まで競争しない?」
「ええ!? 待ってよ、シエルちゃーん!」
シエルはすぐさま木に向かってダッシュした。
ノエルがそんなシエルを追いかけていく。
この二人の関係はシエルが主、ノエルが従のようなところがあった。
「二人ともー! 走って転ぶなよー!」
セリオンが二人に声をかける。
セリオンは今日、シエルとノエルを連れて、自然公園にまで来ていた。
いそがしい、業務の合間に、セリオンはシエルとノエルをこの公園に連れてきたかったのだ。
今日は三人とも休日であった。
セリオンにはシエルとノエルの兄だと思っている。
だから、兄らしいことをしたかったのだ。
シエルとノエルはセリオンによって外国からテンペルにやって来た。
二人はテンペル修道会のメンバーでもあるが、同時に後方支援部隊――糧食隊に所属しており、平時の訓練では主に食事を作る部隊に配属されている。
あのアルテミドラとの戦いでは騎士たちの食事をまかなった。
シエルとノエルは平日はシベリア学校に行って学んでいる。
この二人はAクラスであって、非常に優秀であった。
シベリア学校は年連別ではなく、成績別にクラスが構成される。
クラスはA、B、C、D、と四つある。
ただし、この二人はアリオンをライバル視しており、アリオンとは仲が良いとは言えない。二人は語学の才能にも恵まれていたので、元外国人でもシベリア語とツヴェーデン語をうまく話すことができた。
「ねえ、ノエルちゃん、この木はつぼみができているね」
「そうだね。つぼみの色は紅色だね。とういことは紅色の花が咲くのかなあ?」
「お兄ちゃーん! こっち、こっち!」
シエルが手を振ってくる。
「そんなあわてるな! ケガでもしたらどうするんだ!」
セリオンのほおが自然に緩む。
二人はセリオンをしたっていた。
その想いがよく伝わってくる。
そのため、セリオンは優しい気持ちになるのであった。
セリオンはゆっくり歩いて木のもとにたどり着いた。
セリオンには責任感があった。
セリオンは自分の判断でこの二人を異国ツヴェーデンに連れてきた。
セリオンは二人がテンペルになじめるか、当初は不安があった。
二人はアリオンともよい?関係を持っており、セリオンの不安は払しょくされた。
セリオンの不安とは二人がテンペルに適応できるかということだった。
本人たちの自発的な意思があった。
とはいえ連れてきたのはセリオンだ。
シエルはヴェルテ共和国の、ノエルはノヴァ―ル王国の出身である。
二人ともそれぞれの国では死亡したとされている。
シエルは科学者の家に育った。
そのため、宗教のことが最初はわかっていなかった。
ノエルはノヴァ―ル人の貴族に家に生まれた。
ノヴァ―ルには土着宗教があり、それが豊穣と多産を勧めていた。
二人は育った環境が違ったものの、出会った瞬間に友人になった。
「二人ともはしゃぎすぎだぞ」
セリオンが二人をたしなめる。
「だって、お兄ちゃんといっしょに遊びに来るなんて久しぶりなんだもん!」
「そうだよ。お兄ちゃんはエスカローネさんか、アリオンか、アンシャル隊長かといっしょだよね?」
この二人はセリオンのことを「お兄ちゃん」と呼ぶ。
「二人とも、いくら花がきれいだからって、枝を折ってはだめだぞ? ツヴェーデンの法律では禁じられているからな?」
「うん、わかってるよ」
「お兄ちゃん、いくら私たちだってそんなことはしないって。アリオンじゃないんだから……」
「このつぼみを見るとあと一週間もすれば咲きそうだな。一週間後にまたこの公園に来ようか? そうすれば満開の花を見ることできるだろう」
「わーい! やったー! またお兄ちゃんと遊びに来れるよ!」
「よかった! じゃあ、一週間後を楽しみにしているね!」
「ははは、そうしよう」
セリオンはシエルとノエルの頭をなでた。
セリオンには二人がかわいく映った。




