砂の王と、目を失ったドラゴン
※これは、アジール地方につたわるおとぎ話です
むかしむかし、砂ばかりの土地に、ひとりの貧しい男が住んでいました。
男は毎日、遠い泉まで水をくみに行きました。
暑い日も、風の強い日も、休まず働きました。
その姿を、一頭のドラゴンが、空からずっと見ていました。
ある日、ドラゴンは男の前におりてきて言いました。
「おまえに、三つの願いをかなえてやろう。ただし、願いには、ひとつずつ代償がいる」
男は少し考えてから言いました。
「では、水をください。毎日、遠くまで水をくみに行かなくてもよいように」
けれど、男には差し出せるものがありませんでした。
するとドラゴンは、自分の右目を差し出しました。
「これを代償にしよう」
すると、乾いた砂の中から、きれいな水がわき出しました。
水のまわりには草が生え、木が育ち、やがて果物や野菜が実るようになりました。
男は、できたばかりの果物をドラゴンのところへ持っていきました。
「これは、お礼です」
ドラゴンは、だまって受け取りました。
やがて、水のある場所へ人々が集まりました。
小さな村ができました。
村は町になりました。
町は、ひとつの国になりました。
そして、貧しかった男は、いつしか王さまと呼ばれるようになりました。
王さまは、もう一度ドラゴンのところへ行きました。
「二つ目の願いです。この国を守る兵をください」
けれど、王さまには、やはり差し出せるものがありませんでした。
するとドラゴンは、自分の左目を差し出しました。
「これを代償にしよう」
すると砂の中から、石でできた兵士たちがあらわれました。
石の兵士たちは眠ることなく、国を守りました。
王さまは、砂漠でとれた金をドラゴンのところへ持っていきました。
「これも、お礼です」
けれど、両目を失ったドラゴンには、もう王さまの姿を見ることができませんでした。
それから長い時がたちました。
ある年、国におそろしい病が広がりました。
たくさんの人が病にたおれました。
石の兵士たちにも、病を追い払うことはできませんでした。
王さまは、三度目にドラゴンのところへ行きました。
「三つ目の願いです。どうか、みんなを助けてください」
ドラゴンは言いました。
「願いはかなえられる。けれど、わたしには、もう代わりに差し出せるものがない」
王さまは、しばらく考えました。
一つ目の願いには、右目。
二つ目の願いには、左目。
ドラゴンは、ずっと王さまの代わりに代償を払ってくれていたのです。
王さまは言いました。
「では、三つ目は、わたしが払います」
そのとたん、王さまのからだは、きらきら光る石になりました。
風が吹くと、石は少しずつ細かな粒になり、国じゅうへ飛んでいきました。
光の粒にふれた人々は、少しずつ元気になりました。
やがて病はなくなりました。
けれど、王さまはもう帰ってきませんでした。
人々は、王さまのために泣きました。
王さまの妻も泣きました。
子どもたちも泣きました。
たくさんの涙は砂へ落ち、やがてオアシスの水へ流れこみました。
それから長い年月がたちました。
今でも、その国のオアシスの水は、どこよりも澄んでいて、どこよりも甘いといわれています。
人々は、その水を飲むたびに、こう言うのだそうです。
――これは、だれかを想って流された涙の味なのだ、と。
おしまい。




