ドラゴンと、境の川
※サルヴィア地方に伝わる、ドラゴンにまつわるおとぎ話です
むかしむかし、冬の長い北の山奥に、たった一人で暮らす男がいました。
男には、友達がいませんでした。
だから男は、いつも友達がほしいと思っていました。
ある日、山を歩いていると、男は大きな卵を見つけました。
そっと耳を寄せると、中から、小さな心臓の音が聞こえてきます。
「きっと、何かが生まれるにちがいない」
卵が寒そうにしていたので、男は家へ持ち帰り、毎日大切に暖めました。
何日かたったある朝。
卵から、小さなドラゴンが生まれました。
友達のいなかった男は、そのドラゴンを、我が子のように、友のように、大切に育てました。
月日が流れ、ドラゴンは男の家には入りきらないほど大きくなりました。
そこで男は、山に穴を掘りドラゴンのための巣穴をつくりました。
それからというもの、男は毎日、自分の家とドラゴンの巣穴を行き来して暮らしました。
ある日、国に戦のおふれが出ました。
若く元気な男たちは、みな戦へ出るようにと王さまから命じられました。
けれど男は、戦いたくありませんでした。
そこで男は、ドラゴンの巣穴へ身を隠し、戦が終わるのを待つことにしました。
ところが、戦が始まってまもなく、敵の兵士たちが山の奥でドラゴンを見つけました。
兵士たちは、大きなドラゴンを見て考えました。
「これを戦に使えば、きっと役に立つ」
兵士たちは、ドラゴンを巣穴から連れ出そうとしました。
巣穴の奥では、男が深く眠っていました。
ドラゴンは、逆らえば男まで見つかってしまうかもしれないと思いました。
だから、抵抗しませんでした。
兵士たちはドラゴンの身体へ大きな鎖をかけ、山の外へ連れ出しました。
そのときドラゴンは、尻尾でそっと土を寄せ、男の姿が外から見えないようにしました。
しばらくして目を覚ました男は、ドラゴンがいないことに気づきました。
あわてて巣穴を飛び出すと、遠くではすでに大きな戦が始まっていました。
男が戦場へ駆けつけると、そこには鎖につながれたドラゴンがいました。
敵軍のいちばん前へ立たされていたのです。
男の国の兵士たちは、ドラゴンを敵だと思いました。
矢が飛びました。
槍が向けられました。
男は、ドラゴンの前へ走り出ました。
「このドラゴンは、敵ではない!」
けれど、戦の中では、男の声は誰にも届きませんでした。
やがて男は、ドラゴンの足もとへ倒れました。
ドラゴンは、倒れた男を、大きな身体でそっと包みました。
そして、静かに涙を流しました。
涙は一粒、また一粒と地面へ落ちました。
けれど、それでも止まりませんでした。
涙は細い流れになり、やがて大きな川となりました。
川は戦場を横切り、二つの国のあいだを静かに分けました。
それから長い年月がたちました。
戦のことも、男の名前も、いつしか忘れられていきました。
川は、二つの国のあいだを、静かに分け隔てました。
それから長い年月が過ぎた今も、その川は寒い国に恵みをもたらす川として、凍ることなくそこに流れ続けているということです。
おしまい。




