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ROAR OF DRAGONS  作者: 紫鷹丸
28/31

ナイツ結成

 夏が深まるにつれて、四人の日課が固まっていった。

 朝起きたらログイン。テントを張ってレベリング。昼はセレスティアに戻って装備を整えて、午後はクエストやミッションをこなす。


 夜は達也が見つけてきた情報を元に、翌日の計画を立てる。単純な繰り返しだった。でも、確実に積み上がっていくのがわかった。

 レベルが上がり、ランクポイントが入り、ロドーが貯まっていく。

 

 セラが言葉を喋る事は、葵には話した。今後一緒にやっていく仲間なのだから当然といえば当然の事だったが、少しの躊躇があった。

 だが葵は意外とあっけらかんと受け入れた。自分の竜と話せることを羨ましいと言い、セラちゃんと親しみを込めて呼ぶほどだった。

  

「あと少しだな」とヒロが言った。

 

 ある夜、宿屋の部屋でウィンドウを確認しながらヒロが続けた。

 

「俺と陽のレベルが30まであと1。ランクは3まであと少し。ロドーは——」

 

「もう少しや」と達也さんが笑った。


「見えてきたね」と陽が言った。

 

「うん」と葵が頷いた。 

「私も、もう少しでランク3になりそう」

 

「葵が一番近いかもしれない」とヒロが言った。


◆ 

 

 翌日の昼頃だった。

 四人がセレスティアの広場を歩いていると、視界の中央に大きなウィンドウが突然開いた。

 全員のウィンドウが、同時に光った。

 

 ――《運営からのお知らせ》

 ――《聖竜祭開催》

 ――《開催期間:8月14日〜8月20日(7日間)》

 ――《詳細は各街の掲示板または案内NPCへ》

 

「うおっ、マジか!」と達也さんが声を上げた。

「初のイベントや!!」

 

「聖竜祭……。なんだろう?」と陽が呟く。

 

「案内NPCに聞いてみるか」

 

 広場を見渡すと、いつもと違う格好のNPCが立っていた。祭りの衣装のような、華やかな服を着ている。近づくと、向こうから話しかけてきた。

 

「旅の方、聖竜祭についてご存知ですか?」

「知らないんですが、教えてもらえますか」と陽が答えると、NPCが話し始めた。

 

「聖竜祭は、このミシェルラウドに古くから伝わるお祭りです。遥か昔、終焉竜ヴェルゼアが世界に現れ、全てを滅ぼそうとした時代がありました」

「終焉竜……」

「ヴェルゼアは全ての竜の頂点に立つ存在で、その力は世界そのものを揺るがすほどでした。その頃は竜騎士団もおらず、世界は滅亡の瀬戸際に立たされました」

 

 四人は黙って聞いていた。

 

「そのとき現れたのが、初代竜騎士です。名もなき一人の騎士が、自らの竜と共にヴェルゼアに挑みました。七日七夜、戦い続けた末に——ついにヴェルゼアを討ち倒したのです」

 

「七日七夜……」と葵が呟いた。

 

「その戦いは今も各国で語り継がれています。初代竜騎士と竜の絆、そしてその勇気を称えて、毎年この時期に聖竜騎士追憶祭。通称、聖竜祭が開催されるというわけです」

 

「ゲームのイベントなのに、ちゃんと歴史があるんだね」と陽が言った。

 

「祭りの期間中は、各国・各街で様々な催し物が行われます。また——」

 

 NPCが続けた。

 

「期間中は経験値の獲得量が増加し、モンスターのドロップ率も上昇します。店での取引価格も通常より下がります。旅の方々にとっても、特別な七日間になるでしょう」

 

「経験値アップとドロップ率アップ……!」とヒロが即座に反応した。

 

「それから」とNPCが付け加えた。


「聖竜祭と合わせて、今年の秋に竜騎士大会の開催も予定されています。詳細は後日発表されますが、ミシェルラウド全土から竜騎士が集い、技と絆を競う大会です」


「大会……!」と陽が声を上げた。

 

「秋やったら、俺らも相当レベル上がってるな」と達也が言った。

 

「出てみたいね」と陽が言った。

「同感だ」とヒロが答えた。

 

 葵はルカを撫でながら、静かに頷いた。

 

 NPCが笑顔で言った。

 

「聖竜祭開催まで、まだ数日あります。心待ちにしておいてください」

 

 四人は礼を言って、その場を離れた。

 広場では、すでに他のプレイヤーたちが聖竜祭の話で盛り上がっていた。


「経験値アップたすかるー!」「装備買いためしておこう」「大会に出たい」——あちこちで同じような話が飛び交っている。

 

「盛り上がってるね」と陽が言った。

「リリース初日からそうやけどな」と達也さんが笑った。「でも——そうやな。これからが面白くなる」

 

 セラが、陽の隣で空を見上げていた。

 青い空に、白い雲が流れている。

 

「セラ、楽しみだな」と陽が呼んだ。

「ウン」


 短い返事だったが、どこか弾んでいるようにも聞こえた。その様子を見た葵が、くすりと笑う。

 

「セラちゃんも楽しみなんだ」

「タノシミ」

 

「ほんまに喋る竜って反則やなぁ……」達也が肩を竦める。 

「何回見ても慣れへん」

 

「俺も最初はそうだった」ヒロが苦笑した。

「今はもう普通に会話してるけどな」

 

「それが一番おかしいんや」

 

 達也の言葉に全員が笑った。

 祭りの告知が出てからというもの、街全体の空気が少し変わった気がする。

 

 セレスティアの中央広場には色鮮やかな旗が飾られ始めていた。通りを歩くNPCたちもどこか浮き足立っている。

 露店らしき木造の屋台も設置され始めていて、まだ営業していないにもかかわらずプレイヤーたちが興味深そうに覗き込んでいた。

 

「かなり気合い入っとるな」

 達也が感心したように言う。

 

「ただの経験値イベントじゃなさそう」

 

「世界観重視なんだろうな」

 ヒロが周囲を見回した。

 

「こういうところは好きだ」

 陽も同意した。

 

 ただ効率だけを求めるゲームなら、こんな作り込みはしない。イベント一つにも歴史があり、理由があり、物語がある。

 だからこそ、この世界にいると本当に異世界を旅しているような気分になるのだ。

 

 広場の中央では、竜に乗ったプレイヤーたちが集まって何か話していた。聞こえてくる会話から察するに、大会の話題らしい。

 

「優勝賞品なんだろうね」「限定装備とかじゃね?」「称号とかありそう」「いや絶対賞金だ」

 

 期待と憶測が飛び交っている。陽は少しだけ胸が高鳴った。

 

 まだ詳細は分からない。

 だが、大会という言葉には不思議な魅力があった。強いプレイヤーたちが集まり、自分たちの力を試せる場所。

 

 もし出場できるなら――。

 

「優勝したい?」不意に葵が聞いた。

 

「え?」 

「大会」

 

 陽は少し考えた。

 

「優勝できるとは思わないけど」

 

 正直な気持ちだった。

 リリースされたばかりとはいえ、この世界にはもう何十万人ものプレイヤーがいる。

 その中で頂点を取るのは簡単なことではない。

 

「でも」

 

 陽は続けた。

 

「出るなら勝ちたい」

 

 ヒロが小さく笑った。

 

「当然だな、負ける前提で出る奴はいない」

「せやな」

 

 達也も頷く。

 

「まあ俺らはまずナイツ結成や」

 

 その言葉で全員の意識が引き戻された。大会は未来の話だ。

 今の目標はもっと近くにある。ナイツ結成。そのために必要な条件は残りわずか。

 

「イベント始まる前に結成できそう?」

 

 葵が尋ねる。

 ヒロが即座に答えた。

 

「問題ない」

「間に合うと思う」

 

 陽も頷く。

 

「ほな決まりや」

 

 達也が拳を握った。

 

「イベント開始前にナイツ結成」

「聖竜祭はナイツとして迎える」

 

 その言葉に、自然と全員の表情が引き締まった。今まではただのパーティだった。だがナイツになれば違う。正式な集団として認められ、自分たちの名前を掲げることができる。 

 責任も増える。けれど、それ以上に楽しみだった。

 

 陽は広場の向こうを見た。白い石造りの街並み。行き交うプレイヤーたち。空を舞う竜たち。


 そして、自分の隣にいる仲間たち。ログインした初日には想像もしていなかった。ネットだけの友達だった達也と出会い、葵が仲間になり友達になれた。

 

 そしてセラが言葉を話した。

 ほんの数週間。

 それなのに、随分遠くまで来た気がする。

 

「ヨウ」

 

 セラが服の裾を引いた。

 

「ん?」

「ハヤクツヨクナル」

 

 陽は思わず笑った。

 

「そうだな」

「もっと強くならないと」

 

 セラは満足そうに頷く。

 その金色の瞳は、どこか遠くを見つめていた。

 まるで、この先に待つ何かに備えるように。

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