ナイツ結成⑵
聖竜祭の告知を見た後も、四人のペースは変わらなかった。むしろ、目標達成の時期がより明確になったことで集中力は増していた。
イベント開始まで残り数日。
それまでにナイツを結成する。全員の意識はそこに向いていた。
◆
――《プレイヤーランクアップ》
――《プレイヤーランクが3になりました》
システムメッセージが表示された瞬間、葵が小さく拳を握った。
「やった……!」
「おめでとう」
陽が笑う。
「これで全員条件が揃ったな」達也が言った。
「うん。ようやくだね」
陽はウィンドウを開く。
レベル30。プレイヤーランク3。必要ロドー。ナイツ結成の全ての条件が揃った。
ついにだ。リリースから約一か月。
四人で目指してきた最初の目標、ナイツ結成。ようやくそのスタートラインに立った。
「セレスティアに帰って早速申請しよう」
ヒロの言葉に全員が頷いた。
◆
夕暮れの街は相変わらず賑やかだった。聖竜祭の準備が進んでいて、通りには色鮮やかな旗が増えている。
騎士管理局へ向かって歩きながら、達也がふと思い出したように言った。
「あっ」
「ん?」
「ナイツ名とリーダーどしよか」
一瞬、全員が足を止めた。
「そういえば決めてなかったな」
ヒロが眉をひそめる。
「前やってたゲームじゃ、リーダーはいつもヒロだったからそれでええやろ」
達也が当然のように言った。
「うん、賛成」
陽も迷いなく頷く。
ヒロは昔からそうだった。前に一緒に遊んでいたゲームでも、気付けばいつも先頭に立っていた。誰よりも冷静で、無駄がなく、判断も早い。本人は目立つのを好まないが、自然と周囲が頼ってしまう。
「まぁ、それはいいけど……」
ヒロは少しだけ肩を竦めた。特に嬉しそうでもない。かといって嫌そうでもない。ただ面倒な役回りを引き受ける時のような顔だった。
「なんやその反応」
達也が笑う。
「別に団長になったからってな……」
ヒロは小さく溜め息を吐く。呆れた口調だったが、どこか諦めたような響きも混じっていた。
陽は思わず笑う。
「じゃあ決定! 後は名前だね」
「登録するとき必要だもんね」
葵も頷いた。
陽は腕を組んだ。
「なんかいい案ある?」
「ドラゴンズとか」
達也が言った。
「そのまますぎる」
ヒロが即座に切り捨てる。
「じゃあドラゴンハーツ」
「古臭い」
「スーパードラゴンバスターズ」
「長い」
「達也と愉快な仲間達」
「論外」
「なんでやねん! 全部駄目やないか!」
達也が抗議する。
葵が思わず吹き出した。
「お前が適当な名前言うからだろ!」
「ならヒロはどういうのがええんや」
「それをみんなで考えようって言ってんだろ」
ヒロが呆れたように言う。
しばらく歩きながら案を出し合う。だが、なかなか決まらない。
その時。葵がぽつりと言った。
「Seedsってどう?」
三人が葵を見る。
「シーズ?」
達也が首を傾げた。
葵は少し恥ずかしそうに笑った。
「まだ小さいけど、これから大きくなっていく感じ」
「種って意味か……」
陽はその言葉を口の中で転がした。確かに今の自分たちは強豪でも有名でもない。まだ何者でもない。
けれど、いつか大きく育つかもしれない。それは自分達が次第。
「それ、いいね。俺は気に入ったよ」
陽は頷きながら答えた。
「悪くないな。覚えやすいし」
ヒロが珍しくすぐに賛成した。
達也だけが腕を組んで唸っていた。
「なんやろ……。強そうではないな」
「さっきお前が言ってた名前より、よっぽど強そうだけどな」
ヒロが言う。
「ぐっ!」
達也が言葉に詰まる。
葵が笑って言った。
「反対ですか?」
「いや」
達也は数秒考えてから肩を竦めた。
「嫌いやない。葵ちゃんの案でいこうやないか」
その言葉に全員が笑う。
いつの間にか、騎士管理局の建物が目の前まで迫っていた。
陽は立ち止まり、三人を見た。
「じゃあ決まり?」
「異議なし」
ヒロが答える。
「賛成」
葵も続く。
達也はにやりと笑った。
「ほな行こうや」
◆
セレスティア中央区。騎士管理局。
受付の女性NPCが一礼する。
「ようこそ騎士管理局へ。本日はどのようなご用件でしょうか」
ヒロが一歩前へ出た。
「この四人でナイツを結成したいんですが」
「かしこまりました。条件を確認いたします」
それぞれにウィンドウが現れ、四人の情報が次々と表示されていく。
レベル。プレイヤーランク。所属状況。
数秒後。NPCは微笑んだ。
「確認が完了しました」
そして静かに告げる。
「結成条件を満たしています」
陽たちは思わず顔を見合わせた。達也が拳を握る。葵が嬉しそうに笑う。ヒロは小さく息を吐いた。ようやくここまで来た。
NPCが尋ねる。
「それでは、ナイツ名を登録してください」
陽は仲間たちを見る。三人が頷いた。
「俺たちのナイツ名は、Seedsでお願いします」
「かしこまりました。旗の意匠があれば提示をお願いします。なければ後程でも構いませんし、こちらで決めさせていただきます」
「旗の意匠……? そんなのも決められるのか」
ヒロが言った。
「旗のデザインなんか出来る奴おらんやろ」
「確かに……」
達也の言葉に陽も同意する。
「あ、私で良ければ考えてきてもいい?」
葵がおずおずと手を挙げた。
「マジで?」
達也が目を輝かせる。
「デザインできるん?」
「少しだけ。絵を描くの好きだし」
「名前の案も良かったし、任せる」
ヒロが即答した。
「俺たちが考えても、どうせ竜の絵を描いて終わりだ」
「否定できへん」
達也が頷く。
陽も苦笑した。
「じゃあお願いしてもいい?」
「うん」
葵は少し嬉しそうに笑った。
受付NPCが静かに口を開く。
「旗の提出は後日で承諾致しました。最後に登録料1000000ロドーのお支払をお願いいたします」
ウィンドウが現れ、支払いを促してくる。
4人はそれぞれ分担した金額を支払う。達也が一番年上という事で少し多めに出したが、平均25万ロドーの出費だ。
支払いが済むと、少しの間を空けてNPCが言った。
「入金が確認されました」
「『Seeds』のナイツ登録の最終確認をお願いします」
次の瞬間。
四人の前に巨大なウィンドウが出現した。
――《ナイツ結成申請》
――《ナイツ名:Seeds》
――《代表者:橘ヒロ》
――《創設メンバー:雨宮陽、楠達也、雪城葵》
――《登録を実行しますか?》
陽の鼓動が少しだけ速くなる。ただのゲーム。そのはずだった。だが、この一か月の出来事が頭をよぎる。
たくさんの時間を、この世界で過ごしてきた。そして今、それが一つの形になろうとしている。
ヒロは仲間たちを見た。三人が頷く。セラも小さく頷いていた。
ヒロは迷わずボタンを押した。
――《ナイツ『Seeds』を結成しました》
眩い光が管理局のロビーを包み込んだ。
光は天井へ向かって立ち昇り、やがて四人と四頭の竜を中心に円を描くように広がっていく。
陽たちの視界には次々とシステムメッセージが表示されていた。
――《ナイツ機能を解放しました》
――《ナイツ専用チャットを解放しました》
――《ナイツ倉庫を解放しました》
――《ナイツクエストを解放しました》
「おお……。結構できる事で増えるんやな」
達也が感嘆の声を漏らす。
「面白そう」
葵も新しく追加されたメニューを眺めている。
ヒロの前には別のウィンドウが表示されていた。
――《ナイツマスター権限を付与しました》
――《メンバー管理機能を解放しました》
――《ナイツ拠点設立条件を解放しました》
「責任重大だな……」
ヒロが小さく呟く。
「今さらやろ」
達也が笑った。
視界にまた新たな通知が現れる。
――《称号を獲得しました》
――《ナイツ創設メンバー》
「称号?」
陽が声を上げる。
「俺も来た」
ヒロが言う。
達也と葵も同じらしい。全員が新しい称号を獲得していた。
「なんか嬉しいな」
葵が微笑む。陽も同じ気持ちだった。強い称号ではない。特別な能力が付くわけでもない。それでも、自分たちだけの証のような気がした。
受付NPCが改めて一礼する。
「おめでとうございます。これより皆様は正式なナイツ『Seeds』として登録されました」
その言葉を聞いた瞬間。ようやく実感が湧いた。
パーティではない。即席の仲間でもない。
自分たちは一つの形になったのだ。
達也が大きく伸びをする。
「よっしゃあ!」
次の瞬間、ヒロの肩に腕を回した。
「じゃあ団長殿! 一言どうぞ!」
「やめろ」
「堅いこと言うなや!」
いつものやり取りに、葵がクスリと微笑む。陽も同様に笑い、気付けば自然と肩の力が抜けていた。
ヒロも呆れたようにため息を吐いた後、少しだけ口元を緩めた。
「……まあ」
三人がヒロを見る。
「ここからだな」
短い言葉だった。だが十分だった。ここからまた始まる。
聖竜祭。
竜騎士大会。
未知のフィールド。
まだ見ぬ強敵との戦い。
この世界には、まだ見たことのない景色がいくらでもある。陽は窓の外へ目を向けた。夕日に照らされたセレスティアの街並みが黄金色に輝いている。その光景を見ながら、自然と笑みが浮かんだ。
Seeds。
まだ小さな種。けれど――いつかきっと。
世界に名を刻む大樹になる。そんな予感がした。




