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ROAR OF DRAGONS  作者: 紫鷹丸
29/31

ナイツ結成⑵

 聖竜祭の告知を見た後も、四人のペースは変わらなかった。むしろ、目標達成の時期がより明確になったことで集中力は増していた。

 

 イベント開始まで残り数日。 

 それまでにナイツを結成する。全員の意識はそこに向いていた。 

 

 

 ――《プレイヤーランクアップ》

 ――《プレイヤーランクが3になりました》

 

 システムメッセージが表示された瞬間、葵が小さく拳を握った。

 

「やった……!」

「おめでとう」

 

 陽が笑う。

 

「これで全員条件が揃ったな」達也が言った。

 

「うん。ようやくだね」


 陽はウィンドウを開く。

 レベル30。プレイヤーランク3。必要ロドー。ナイツ結成の全ての条件が揃った。

 

 ついにだ。リリースから約一か月。

 四人で目指してきた最初の目標、ナイツ結成。ようやくそのスタートラインに立った。

 

「セレスティアに帰って早速申請しよう」


 ヒロの言葉に全員が頷いた。



 夕暮れの街は相変わらず賑やかだった。聖竜祭の準備が進んでいて、通りには色鮮やかな旗が増えている。

 騎士管理局へ向かって歩きながら、達也がふと思い出したように言った。


「あっ」

「ん?」

「ナイツ名とリーダーどしよか」


 一瞬、全員が足を止めた。


「そういえば決めてなかったな」

 

 ヒロが眉をひそめる。

 

「前やってたゲームじゃ、リーダーはいつもヒロだったからそれでええやろ」

 

 達也が当然のように言った。

 

「うん、賛成」

 

 陽も迷いなく頷く。

 ヒロは昔からそうだった。前に一緒に遊んでいたゲームでも、気付けばいつも先頭に立っていた。誰よりも冷静で、無駄がなく、判断も早い。本人は目立つのを好まないが、自然と周囲が頼ってしまう。

 

「まぁ、それはいいけど……」

 

 ヒロは少しだけ肩を竦めた。特に嬉しそうでもない。かといって嫌そうでもない。ただ面倒な役回りを引き受ける時のような顔だった。

 

「なんやその反応」

 

 達也が笑う。

 

「別に団長になったからってな……」


 ヒロは小さく溜め息を吐く。呆れた口調だったが、どこか諦めたような響きも混じっていた。

 陽は思わず笑う。

 

「じゃあ決定! 後は名前だね」

「登録するとき必要だもんね」


 葵も頷いた。

 陽は腕を組んだ。


「なんかいい案ある?」

「ドラゴンズとか」


 達也が言った。


「そのまますぎる」


 ヒロが即座に切り捨てる。


「じゃあドラゴンハーツ」

「古臭い」

「スーパードラゴンバスターズ」

「長い」

「達也と愉快な仲間達」

「論外」


「なんでやねん! 全部駄目やないか!」


 達也が抗議する。

 葵が思わず吹き出した。


「お前が適当な名前言うからだろ!」

「ならヒロはどういうのがええんや」

「それをみんなで考えようって言ってんだろ」


 ヒロが呆れたように言う。


 しばらく歩きながら案を出し合う。だが、なかなか決まらない。


 その時。葵がぽつりと言った。


「Seedsってどう?」


 三人が葵を見る。


「シーズ?」


 達也が首を傾げた。

 葵は少し恥ずかしそうに笑った。


「まだ小さいけど、これから大きくなっていく感じ」


「種って意味か……」


 陽はその言葉を口の中で転がした。確かに今の自分たちは強豪でも有名でもない。まだ何者でもない。

 けれど、いつか大きく育つかもしれない。それは自分達が次第。

 

「それ、いいね。俺は気に入ったよ」

 陽は頷きながら答えた。

 

「悪くないな。覚えやすいし」

 ヒロが珍しくすぐに賛成した。


 達也だけが腕を組んで唸っていた。


「なんやろ……。強そうではないな」


「さっきお前が言ってた名前より、よっぽど強そうだけどな」


 ヒロが言う。


「ぐっ!」


 達也が言葉に詰まる。

 葵が笑って言った。


「反対ですか?」


「いや」


 達也は数秒考えてから肩を竦めた。


「嫌いやない。葵ちゃんの案でいこうやないか」


 その言葉に全員が笑う。


 いつの間にか、騎士管理局の建物が目の前まで迫っていた。

 陽は立ち止まり、三人を見た。


「じゃあ決まり?」

「異議なし」


 ヒロが答える。


「賛成」


 葵も続く。

 達也はにやりと笑った。


「ほな行こうや」

 

 

 セレスティア中央区。騎士管理局。

 受付の女性NPCが一礼する。

 

「ようこそ騎士管理局へ。本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 ヒロが一歩前へ出た。

 

「この四人でナイツを結成したいんですが」

「かしこまりました。条件を確認いたします」

 

 それぞれにウィンドウが現れ、四人の情報が次々と表示されていく。

 レベル。プレイヤーランク。所属状況。

 

 数秒後。NPCは微笑んだ。

「確認が完了しました」

 

 そして静かに告げる。

「結成条件を満たしています」


 陽たちは思わず顔を見合わせた。達也が拳を握る。葵が嬉しそうに笑う。ヒロは小さく息を吐いた。ようやくここまで来た。

 

 NPCが尋ねる。

 

「それでは、ナイツ名を登録してください」

 

 陽は仲間たちを見る。三人が頷いた。

 

「俺たちのナイツ名は、Seedsでお願いします」

「かしこまりました。旗の意匠があれば提示をお願いします。なければ後程でも構いませんし、こちらで決めさせていただきます」


「旗の意匠……? そんなのも決められるのか」

 ヒロが言った。


「旗のデザインなんか出来る奴おらんやろ」

「確かに……」

 達也の言葉に陽も同意する。


「あ、私で良ければ考えてきてもいい?」

 葵がおずおずと手を挙げた。

 

「マジで?」

 達也が目を輝かせる。

 

「デザインできるん?」

「少しだけ。絵を描くの好きだし」

「名前の案も良かったし、任せる」

 

 ヒロが即答した。

 

「俺たちが考えても、どうせ竜の絵を描いて終わりだ」

「否定できへん」

 

 達也が頷く。

 陽も苦笑した。

 

「じゃあお願いしてもいい?」

「うん」

 

 葵は少し嬉しそうに笑った。

 受付NPCが静かに口を開く。

 

「旗の提出は後日で承諾致しました。最後に登録料1000000ロドーのお支払をお願いいたします」


 ウィンドウが現れ、支払いを促してくる。

 4人はそれぞれ分担した金額を支払う。達也が一番年上という事で少し多めに出したが、平均25万ロドーの出費だ。


 支払いが済むと、少しの間を空けてNPCが言った。


「入金が確認されました」

「『Seeds』のナイツ登録の最終確認をお願いします」

 

 次の瞬間。

 四人の前に巨大なウィンドウが出現した。

 

 ――《ナイツ結成申請》

 ――《ナイツ名:Seeds》

 ――《代表者:橘ヒロ》

 ――《創設メンバー:雨宮陽、楠達也、雪城葵》

 

 ――《登録を実行しますか?》

 

 陽の鼓動が少しだけ速くなる。ただのゲーム。そのはずだった。だが、この一か月の出来事が頭をよぎる。

 たくさんの時間を、この世界で過ごしてきた。そして今、それが一つの形になろうとしている。


 ヒロは仲間たちを見た。三人が頷く。セラも小さく頷いていた。

 ヒロは迷わずボタンを押した。

 

 ――《ナイツ『Seeds』を結成しました》

 

 眩い光が管理局のロビーを包み込んだ。

 光は天井へ向かって立ち昇り、やがて四人と四頭の竜を中心に円を描くように広がっていく。


 陽たちの視界には次々とシステムメッセージが表示されていた。


 ――《ナイツ機能を解放しました》

 ――《ナイツ専用チャットを解放しました》

 ――《ナイツ倉庫を解放しました》

 ――《ナイツクエストを解放しました》


「おお……。結構できる事で増えるんやな」


 達也が感嘆の声を漏らす。


「面白そう」


 葵も新しく追加されたメニューを眺めている。

 ヒロの前には別のウィンドウが表示されていた。


 ――《ナイツマスター権限を付与しました》

 ――《メンバー管理機能を解放しました》

 ――《ナイツ拠点設立条件を解放しました》


「責任重大だな……」


 ヒロが小さく呟く。


「今さらやろ」


 達也が笑った。


 視界にまた新たな通知が現れる。


 ――《称号を獲得しました》

 ――《ナイツ創設メンバー》


「称号?」


 陽が声を上げる。


「俺も来た」


 ヒロが言う。


 達也と葵も同じらしい。全員が新しい称号を獲得していた。


「なんか嬉しいな」


 葵が微笑む。陽も同じ気持ちだった。強い称号ではない。特別な能力が付くわけでもない。それでも、自分たちだけの証のような気がした。


 受付NPCが改めて一礼する。


「おめでとうございます。これより皆様は正式なナイツ『Seeds』として登録されました」


 その言葉を聞いた瞬間。ようやく実感が湧いた。

パーティではない。即席の仲間でもない。

 自分たちは一つの形になったのだ。


 達也が大きく伸びをする。


「よっしゃあ!」


 次の瞬間、ヒロの肩に腕を回した。


「じゃあ団長殿! 一言どうぞ!」

「やめろ」

「堅いこと言うなや!」


 いつものやり取りに、葵がクスリと微笑む。陽も同様に笑い、気付けば自然と肩の力が抜けていた。

 ヒロも呆れたようにため息を吐いた後、少しだけ口元を緩めた。


「……まあ」


 三人がヒロを見る。


「ここからだな」


 短い言葉だった。だが十分だった。ここからまた始まる。


 聖竜祭。

 竜騎士大会。

 未知のフィールド。

 まだ見ぬ強敵との戦い。


 この世界には、まだ見たことのない景色がいくらでもある。陽は窓の外へ目を向けた。夕日に照らされたセレスティアの街並みが黄金色に輝いている。その光景を見ながら、自然と笑みが浮かんだ。


 Seeds。


 まだ小さな種。けれど――いつかきっと。

 世界に名を刻む大樹になる。そんな予感がした。

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