新たなる仲間⑶
慣れるにつれて連携が取れていって討伐するのが早くなっていった。葵のバフが入ると、レオンの攻撃力が目に見えて上がる。セラの回避が葵の回復で支えられ、より積極的な動きができるようになる。
「パーティって、こんなに違うんだな」と陽が言った。
「そうやろ」と達也さんが答えた。
「一人じゃできないことが、人数いるとできるようになるし安定する。MMOの醍醐味やな」
葵がルカを撫でながら頷いた。
「私も……こんなにちゃんとパーティで戦えたの初めて」
「葵のサポート、めちゃくちゃ助かったよ」と陽が言う。
「そう言ってもらえると嬉しい」と葵が小さく笑った。
太陽が昇ってきた頃。
達也がモンスターを引き連れないで戻ってきた。その表情が少し違った。
「でかいのがおった」
「でかい?」と陽が聞く。
「さっきのアーマービーストより二回りはある。こっちには連れてきてへんけど、どうする?」
ヒロが少し考えてから言った。
「行こう」
全員でフィールドの奥へ向かった。
達也が指した先に、それはいた。
アーマービーストではなかった。
猪に似た体型だが、全体的にひと回りもふた回りも大きい。額から伸びる二本の角が、鈍く光っている。甲殻より硬そうな、黒みがかった角だ。足元の地面が、その体重でわずかに沈んでいる。
「多分グリムホーンや」と達也さんが言った。
「突進の威力がえげつない。あの角に当たったら一撃でかなりのダメージが入る」
「角が弱点?」と陽が聞く。
「逆や。角は硬すぎて攻撃が通りにくい。狙うなら脇腹か、後脚の付け根や」
通常のアーマービーストより明らかに大きい。甲殻の色が深く、体に古傷のような痕が刻まれている。周囲のモンスターが近づかない、一定の縄張りを持った個体だ。
「……強そう」と葵が呟いた。
「サポート頼む」とヒロが言った。
四頭が、それぞれの位置についた。
セラが前へ出る。
グリムホーンは、動かなかった。
こちらに気づいているはずなのに、その場に立ったまま、じっとしている。黒みがかった角が、朝日を受けて鈍く光っていた。
「……待ってるみたいだ」と陽が言った。
「縄張りに入るまで動かへん気や」と達也が言った。
「一歩踏み込んだ瞬間に来る。速いで」
ヒロが全員を見回した。
「役割通りに動く。葵、バフを先に入れてくれ」
「うん!」
葵がルカに指示を出した。ルカが淡い光を放つ。その光がレオンを包む。
――《バフ効果:戦意高揚 STR+10% 残り時間:3分》
「よし、行くぞ!」
一歩踏み込むと、その瞬間グリムホーンが動いた。速い。あの巨体で、信じられない速度だ。地面を抉りながら、真っすぐ突進してくる。角が光る。
「セラ!」
セラが前に出た。正面から受けるのではない。ギリギリまで引きつけてから横へ躱す。グリムホーンの角が、セラの横をすれすれに通り過ぎた。
その瞬間、セラの爪がグリムホーンの脇腹を掠めた。浅い。でも、手応えがあった。
「ダメージ入った!」
「レオン——!」
ヒロが叫ぶ。レオンが上空から急降下した。天墜の翼が発動する。スキルの特性上高度が高いほどダメージが上がる。高度を稼ぎ、一気に落ちてきたレオンの爪が、グリムホーンの後脚の付け根に叩き込まれた。
グリムホーンが、よろめいた。
「効いてる! ジン!」
達也の声と共に、ジンが超跳躍した。グリムホーンの反対側の後脚へ体当たりを叩き込む。前後から挟まれる形になったグリムホーンが、体勢を崩した。
「今だ、セラ!」
セラが急加速した。爪が深く突き刺さる。
グリムホーンが吼えた。怒りの声だ。
体を激しく揺すり、全員を弾き飛ばそうとする。セラが後退し、レオンが翼で衝撃を受け流す。ジンが素早く距離を取った。
「いいペースだ」とヒロが言った。
グリムホーンが再び突進してきた。今度は陽ではなく、ヒロを狙っていた。
「ヒロ!」
「問題ない。もう一度!」
レオンが正面へ出た。上空から急降下の体当たりがグリムホーンの角へ直撃した。硬い角同士がぶつかる轟音が響く。レオンが弾かれるが、グリムホーンも突進の勢いを殺された。
「今!」
葵の声だった。
ルカから光が放たれた。今度はシールドではない。陽とセラを包む、金色の光だ。
――《バフ効果:鷹の目 命中精度+25% 残り時間:1分》
「命中バフ!」
陽はセラを急加速させた。精度が上がっている。フェイタルリードの照準が、いつもより鮮明に見える。グリムホーンの脇腹、急所がはっきりと捉えた。
「行け、セラ!」
一直線。セラの爪が、急所を正確に貫いた。
グリムホーンが大きく揺れた。
ヒロとレオンが追撃する。ブレイクタスクが炸裂する。達也とジンが側面から叩く。
「最後!」
セラが、もう一度急所へ飛び込んだ。
グリムホーンが、ゆっくりと傾いた。
――ズゥンッ!!
地面に倒れる。土煙が上がる。
――《討伐成功》
陽はその場に立ったまま、大きく息を吐いた。
「……勝った」
「みんな、ナイスや!」と達也が叫んだ。
葵がルカを抱きしめていた。
「よかった……」
「葵の命中バフが決め手だったな」とヒロが言った。
「そう?」と葵が顔を上げた。
「ああ。あれがなければ外れてたかもしれないからな」
葵が、照れたように小さく笑った。
それからも、レベリングは続いた。
テントを軸に、達也さんとジンが連れてきたモンスターを迎え撃つ。グリムホーンの討伐で弾みがつき、連携の精度がさらに上がっていった。葵のサポートが入ることで、戦闘時間が短くなる。
日が完全に上がる頃、陽はウィンドウを確認した。LV22からLV25。一日で3レベルアップしていた。
「凄い、たったこれだけの時間で」
「パーティでのレベリングはこんなもんや」と達也が言った。
「ナイツ結成まで、一気に近づいたな」
四人はセレスティアへ向けて歩き出した。朝の木漏れ日の中を、竜たちと並んで歩く。葵がルカを撫でながら、陽の隣を歩いていた。
「楽しかった」と葵が言った。
「本当?」
「うん。パーティって、こんなに楽しいんだって思った」
陽は葵を見た。今日一日、葵はずっと集中してサポートしていた。回復とバフを使い続けて、一度も弱音を吐かなかった。
「葵、サポートが上手いね」
「ありがとう。私、これしかできないから」
「十分すぎるよ」
葵は少し黙ってから、「……ありがとう」と小さく言った。
セレスティアに戻ると、達也が「打ち上げや!」と言って食事へ向かった。
四人はテーブルに座り、料理とドリンクを注文した。リーフバイトの窯焼き。山菜とキノコのスープ。スパークリングハーブウォーター。運ばれてきた料理の匂いが、空腹を刺激する。
「乾杯!」と達也さんがグラスを持ち上げた。
「乾杯」と三人が続く。
グラスがカチンと鳴った。
しばらく、みんなで食べた。喋った。笑った。達也が今日の戦闘の面白かった場面を大げさに再現して、ヒロに「うるさい」と言われていた。
ひとしきり盛り上がったところで、陽は葵を見た。
「葵」
「うん?」
「一つ、聞いてもいい?」
「何?」
陽は少し間を置いた。
「俺たち、ナイツを自分たちで作ろうとしてるんだけど……一緒にやらない?」
テーブルが静かになった。達也もヒロも、黙って葵を見ていた。
葵はしばらく、グラスを見つめていた。
それから、顔を上げた。
「……私でいいの?」
「うん。さっきヒロと達也さんにも話して決めたんだ。葵が入ってくれるなら二人とも歓迎だって。もちろん俺も」と陽が言った。
「今日みたいなサポート、できる人そうそういないよ」
「そうや」と達也さんが続けた。
「葵のバフとシールドがあると、全員の動きが変わる。仲間になってくれたら助かるわ」
葵はもう一度、グラスを見た。
ルカが、葵の腕に頭を乗せた。
「……うん」
小さく、でもはっきりと言った。
「一緒に、やりたい」
達也さんが「よっしゃ!」と声を上げた。ヒロが小さく頷いた。陽は笑った。
「よろしく、葵」
葵は恥ずかしそうに、頷いた。
こうして、新たな仲間が加わった。
まだ名前もない、小さな集まり。けれど、それは確かに始まりだった。ナイツの、最初の一歩。




