新たなる仲間
フリーマーケットの中は、想像以上に賑やかだった。露天の周りには淡い光が照らし、夜でも見易くなっている。
武具を並べた店、素材をずらりと並べた店、見慣れない食料品を売る店、地図や情報を販売している店。種類が豊富で、見ているだけで楽しい。
「これ、なんだろう」
陽が足を止めた。棚の上に、見慣れない鱗が並んでいた。青みがかった光沢があって、薄くて軽そうだ。
「水竜の鱗やな」と達也が言った。
「水属性の装備を作るときに使う素材や。セレスティアの川に出るモンスターから取れる」
「水属性の装備ってあるんだ」
「属性は色々あるで。火、水、風、土——」
「へぇ、そうなんだ」
達也がうんうんと頷きながら、素材屋の棚を眺めた。
次の店では、武具が並んでいた。剣、槍、弓、竜用の爪補強——リクレーンやグランヴェルでは見たことのない形のものもある。陽は棚の前でいくつか装備のステータスを確認した。数値は高い。でも値段も高い。
「少し高いな……」
「その分性能がいいですよ」とその店の主が言った。
「うちは全部手作りです。このセレスティアに来てからは、ずっと生産をやってきました」
プレイヤーの店。店主は若い女性だ。生産職に特化しているプレイヤーなのだろう。
「生産メインでやってるんですか?」と陽が聞くと、「そうです」と答えた。
「私、戦闘は苦手なんですけど、作る方が好きで。この子にも手伝ってもらってるんです」と、横にちょこんと座る竜を撫でながら女は言った。
「フリーマーケットで売りながらロドーを貯めてるんです」
「素敵な仕事ですね。色々見させてもらいます」と陽が言うと、女性は少し照れたように笑った。
そのとき、陽の目に一つの鞍が目に入った。
竜用の鞍だ。試験のときに使ったものとは全然違う。革の質感が良く、金属の補強が丁寧に施されている。デザインも様々で、軽量型、耐久型、装飾型、バリエーションが豊富だった。
陽は棚の鞍を手に取った。腕輪をかざす。
――《軽量騎乗鞍・改》
――《騎乗時のSP消費量-3%》
――《飛行中の旋回性能+5%》
「騎乗してるときのSPが減るのか」と陽が呟く。
「そうです。標準の鞍より消費が少なくて、長距離移動や戦闘で差が出ますよ」
陽はセラを見た。セラが鞍をじっと見ている。
「セラ、これどう?」
セラが短く鳴いた。
「よし、じゃあ買おう」と陽は言った。
値段を確認すると、ショップの同等品より安かった。陽が値段交渉を試みると、店主は少し考えてから「少しだけなら」と笑って値引きしてくれた。
「ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます」
支払いを済ませながら、陽は店主に聞いた。
「フリーマーケットで売り続けるつもりですか?」
「今は。でも——」と店主が言った。
「いつか、ちゃんとした自分の店を構えたいんですよね。セレスティアのどこかに」
「自分の店?」
「フリーマーケットは出店料がかからないから始めやすいんですけど、場所が固定できなくて。常連さんが来てくれても、毎回場所を探してもらうのが申し訳なくて。ロドーが貯まったら、街の一角に店を出したいんです」
陽はその言葉を聞いて、少し温かい気持ちになった。
「頑張ってください。また、きますね」
「ありがとうございます! そう言ってもらえると頑張れます」
店主が笑った。
三人は店を後にした。
「自分の店を持つって、いいな」
「このゲーム、色んな生き方があるな」とヒロが言った。
「戦闘だけやない。実際、この世界でロドーを稼ぐって事は現実で稼ぐのと変わらないからな」
陽は鞍を手の中で確認した。丁寧な作りだ。一針一針が、確かな仕事をしている。
大樹の下、三人は広場をゆっくりと歩いた。
フリーマーケットを一通り見て回った後、三人は広場の大樹の根元に腰を下ろした。
セラが陽の隣に座る。
「そういえばナイツって、自分たちで作れるんだよね」
陽が言った。
ヒロが頷いた。
「あぁ、だけど条件がある」
「どんな?」
「プレイヤーレベルが30以上。プレイヤーランクが3以上。結成に必要な人数が3人以上。そして——」
ヒロが一瞬、間を置いた。
「登録費が1,000,000ロドーだ」
沈黙が落ちた。
「……百万」と陽が呟いた。
「百万や」と達也が繰り返した。
「まあ、それくらいないと団体として信用されへんってことやろけど」
「今の俺たちのレベルは22。ランクはまだ1だ」とヒロが言った。
「レベルは8足りない。ランクは2足りない。ロドーは……」
「全然足りない」と陽が苦笑した。
「ぜんっっっぜん足りへんな」と達也も笑った。
でも、誰も「無理だ」とは言わなかった。
「3人で出し合えばいいよ」と陽が言った。
ヒロが陽を見た。
「レベル30まで上げて、ランク3にして、百万ロドー貯める。それができたら——俺たちでナイツを作ろう」
三人は笑い合う。
セレスティアの広場に、夜風が吹いた。大樹の枝が揺れて、ざわざわと音を立てる。
「効率よく進めたいな」とヒロが言った。
「今まで二人でやってきたけど、四人から六人パーティの方がレベル上げもランク上げも速い」
「そやな。二人ともレベル差が少なくなってきたし、今なら俺が入っても大丈夫そうや」と達也が頷く。
「レイドボスはパーティ人数が多い方が討伐しやすいし、ランクポイントも入りやすい」
「金策も同時に考えないといけないね」と陽が言った。
「百万ロドーって、今の稼ぎ方じゃ時間かかりすぎる」
「素材の質を上げるしかないな」とヒロが言った。「強いモンスターを倒すほど、ドロップする素材の価値が上がる。フリーマーケットで高く売れる」
「それと——」と達也が続けた。
「支援系のプレイヤーがいると効率が全然違うで。回復とか補助とか得意なタイプ。パーティに一人いるだけで生存率が上がるし、戦闘時間も短くなる」
「そういう人ってどこで探せばいいの?」と陽が聞く。
「掲示板や」と達也が立ち上がった。
「広場の掲示板に、パーティ募集の欄がある。支援系のプレイヤーを探してるって書いとけば、向こうから来てくれる場合もある」
「行こう」とヒロが言った。
掲示板は、広場の入り口に設置されていた。
大きな木製の板に、様々な募集が貼り出されている。パーティ募集、素材買取、情報交換——プレイヤーたちが手書きのメモのような形で投稿している。
ヒロがウィンドウを操作して、募集文を作成した。
【パーティーメンバー募集】
支援・補助系プレイヤー募集中。現在メンバー3名。レベル帯22前後。場所、セレスティア周辺。目的、レベリング。
連絡先:橘ヒロ
「これでいいか。メッセージ先のリンクも載せて、と」
「うん。シンプルでわかりやすい」
「俺やったらもっと賑やかに書くけどな」と達也が言った。
「必要ない」とヒロが即答した。
掲示板に投稿を終えると、達也さんが「返信来るまで待とうや」と言った。
「ちょうどええ店があるで」
連れていかれたのは、セレスティアの入口付近にある小さな店だった。木の幹に沿うように建てられていて、窓から街の入口が見渡せる。テラス席に木製のテーブルと椅子が並んでいた。
三人は席に着いた。メニューウィンドウを開くと、ハーブを使ったドリンクが豊富に並んでいる。
「どうせなら、バフ付くやつ頼もう」と達也が言った。
「そうだな。その方が戦闘効率が上がる」とヒロが頷く。
ドリンクが運ばれてくる。陽のカップから、清涼感のある香りが漂った。一口飲むと、ひんやりとしたミントの爽やかさが広がる。
――《バフ効果:スターミント 命中率+5% 残り時間:2時間》
「美味い」
「やろ」と達也さんが満足そうに頷いた。
セレスティアの入口から、プレイヤーたちが行き交っている。三人は静かにドリンクを飲みながら、返信を待った。
すると、ウィンドウが光った。
「早い」と陽が驚く。
「掲示板の情報は、街に居て通知設定してればリアルタイムで各プレイヤーに通知が届くからな」とヒロが言った。
メッセージを開く。
*「こんばんは。支援系プレイヤーです。よかったら詳しく話を聞かせてもらえますか?」*




