休息⑶
「回復までどうせ外に出られん。ならセレスティアで色々やっとこうや」
「そのつもりだ。まずはナイツ本部だな」とヒロが答えた。
三人はナイツ本部へ向かった。
ナイツ本部の扉を押し開けると、同じ受付係のNPCが座っていた。
「竜騎士の証を持ち帰りました」
陽がメダルを差し出した。受付係がそれを受け取り、確認する。翼を広げた竜の紋章。
「確かに確認しました」と受付係が言った。
「合格です。おめでとうございます」
視界に通知が浮かんだ。
――《ナイツ試験:合格》
――《称号:竜騎士 を獲得しました》
「竜騎士……」と陽が呟く。
ヒロが受付係に向き直った。
「一つ聞いていいか」
「はい」
「試験の途中で戦闘不能になった。それでも合格なのか?」
受付係は表情を変えずに答えた。
「合格の基準は、竜騎士の証の取得でした。どのような経緯であれ、証を持ち帰ることができれば合格と見なします」
「……倒れても、それを持っていればいいわけか」
「その通りです。これが任務だとすれば、目的物の取得が最大の達成目標。過程がどうあれ、それを手に入れた事。それが実力と判断します」
ヒロは少し黙ってから、「なるほど。わかった」と頷いた。
「只今より竜騎士団の施設をご利用いただけます」と受付係が続けた。
「訓練場、生産工房、スキル鑑定所、祭壇、神殿。全ての施設がご利用可能です。ご自由にお使いください。詳細は各施設職員にご質問ください」
◆
「スキル鑑定所?」と陽が外に出てから聞いた。
「習得したスキルの詳細がわかる場所や。レア度やランクが鑑定できる」と達也が答えた。
「行ってみたい」と陽が言った。
「俺も気になってた」とヒロが頷く。
「俺もジンのスキル、鑑定したことなかったし、行ってみるか」
三人はナイツ本部の奥にある施設棟へ向かった。スキル鑑定所は、施設棟の中でも奥まった場所にある小さな建物だった。入口に「鑑定」と書かれた看板が掲げられている。
中に入ると、年老いたNPCの鑑定士が座っていた。白い髭を蓄え、分厚い眼鏡をかけている。壁一面に古い書物が並んでいた。
「鑑定を頼みたい」とヒロが言った。
「ええ、ええ」と鑑定士が頷いた。
「竜のスキルかな、プレイヤーのスキルかな」
「竜のスキルを」
「では、一体ずつどうぞ」
まずレオンから始めた。
鑑定士がレオンのスキルウィンドウを確認していく。
「ラムチャージ……Eランク。アイアンファング……Eランク。ブレイクタスク……Dランク。天墜の翼——」
鑑定士が眼鏡を押し上げた。
「ほう。Cランクか。珍しい」
「珍しいのか?」とヒロが聞く。
「Cランク以上のスキルは、そう簡単には習得できない。このスキルを持つ竜は、よほど激しい戦いを潜り抜けてきたのだろう」
ヒロはレオンを見た。レオンが低く鳴いた。
「次は?」
「俺のジンを頼みます」と達也が前に出た。
鑑定士がジンのスキルを確認していく。グラビティ・ラプチャー、スカイ・ブレイカー、フェイズ・ステップ、インパクト・クラッシュ——全てDからCランクだった。
「なかなかの竜だ」と鑑定士が言った。
「ありがとうございます」と達也が嬉しそうに言った。
「最後にこの子を」
陽がセラを前に出した。
鑑定士がセラを見た。白い鱗。金色の瞳。鑑定士の目が細くなった。
「……珍しい竜だ」
呟いてから、スキルウィンドウを確認し始めた。
「フェイタルリード……Eランク。リジェネレイト・コア——」
鑑定士の手が、止まった。
「……Bランク」
眼鏡を外して、もう一度画面を確認した。それからまた眼鏡をかける。
「Bランクのオートスキルか。これは稀だ。それも、こんなに若い竜が……」
「他にもあります」
陽の言葉に、ヒロは怪訝な顔をして聞いた。
「他? いつ覚えたんだ?」
「黒い竜との戦闘の時にね」
陽は隣にいるセラへ視線を向ける。
「あの戦いの最中、セラの装備が突撃発光し始めたんだ」
その時を思い出すように、陽は言葉を続ける。
「最初は何が起きてるのか分からなかった。でも次の瞬間視界のウィンドウにスキルの習得が通知されたんだ」
「そのスキルの名前がアーセナルオーバードライブ」
「ふむ……アーセナルオーバードライブ——」
鑑定士が、動きを止めた。完全に、固まった。それから眼鏡を外し、画面に顔を近づけた。それからゆっくりと顔を上げた。
「……Origin、だと」
声が変わっていた。
「このスキルのランクはOriginだ」
「Originって、なんですか?」と陽が聞いた。
「唯一無二の固有スキルだ」と鑑定士は言った。
「このミシェルラウドに、同じスキルを持つ竜は存在しない。いや——存在できない。Originは、その竜だけのものだ」
部屋の中が静かになった。
「……唯一無二」と陽が繰り返した。
「私はこの仕事を長くやっているが、Originのスキルを持つ竜を見たのは——」
鑑定士が、セラをじっと見た。
「二回目だ」
達也が小声で「マジか……」と言った。
ヒロは黙ったまま、セラを見ていた。
「まぁ、もう何が起こっても不思議じゃないな」
セラは静かに前を向いていた。鑑定士の言葉を聞いているのか、いないのか。その金色の瞳は、いつもと変わらない
鑑定士が書物を取り出し、何かを書き留め始めた。
「記録させてもらっても構わないかな。このような竜に出会えるとは、長生きはするものだ」
「どうぞ」と陽が言った。
鑑定士が書き留める音だけが、部屋に響いた。
陽はセラを見た。セラの白い体が、部屋の光を受けて淡く輝いている。
◆
広場に戻ると、昨日より人が増えていた。夜でもセレスティアは活気に満ちている。
「あ、出とるわ」
達也が広場の端を指した。
大樹の周りに、昨日はなかった露店がずらりと並んでいた。テントや布を敷いて、プレイヤーたちが思い思いに品物を並べている。
「フリーマーケットや」と達也が言った。
「最近、広場でプレイヤーの出店が増えてきたんや。色々な物売ってるし、交渉次第で安く手に入れられるしオモロイで」
「プレイヤーが直接売るのか」と陽が言う。
「そう。ゲーム内のショップより掘り出し物があることもあるし、逆に話しかけやすいから情報も得やすい。NPCの店と違って値切れるしな」
「行ってみよう」とヒロが言った。




