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ROAR OF DRAGONS  作者: 紫鷹丸
19/31

ナイツ試験⑷

 陽はセラの背の上で、全身の力が抜けるのを感じた。手が震えていた。足も震えていた。SPゲージを見ると、残り45だった。


「……勝った」

 

 声が、掠れていた。

 セラが低く鳴いた。疲弊しているのに、どこか誇らしげな声だった。

 

「陽」

 

 ヒロが歩み寄ってきた。レオンも、満身創痍ながら立っている。ヒロの顔に傷はないが、表情に疲労が滲んでいた。

 

「やったな」

 

 たった一言。でも、ヒロがそう言うのは珍しかった。陽は思わず笑った。

 

 そのとき。レオンが、低く唸った。

 ヒロが振り返る。


「レオン?」

 

 レオンは答えなかった。その体が——震えていた。ダメージによる震えではない。もっと深いところから来る、何かが湧き上がるような震えだ。

 

 レオンの鱗が、光り始めた。

 朱色の光だった。最初は淡く、でもすぐに強くなっていく。レオンの全身を、光が包んでいく。陽は思わず目を細めた。

 

「まさか……覚醒?」とヒロが言った。その目は驚いていた。ヒロが驚く姿を、陽は今日だけで何度見ただろう。

 

 光が、広間全体が朱色に染まる。

 そして——光が、収まった。

 

 レオンが、そこに立っていた。

 だが、違った。鱗の色が変わっていた。さっきまでの鮮やかな朱色ではない。もっと深い、灼けた夕空のような、深い朱だ。光を受けると、その深みの中に金が揺れるように見えた。

 

 体格も変わっていた。一回り大きい。翼の広がりが増し、四肢に厚みが出た。見た目は変わったが、レオンなのは間違いない。 

 ヒロの視界に通知が浮かんだ。

 

 ――《レオンが覚醒しました》

 ――《ステータスが大幅に上昇しました》

 ――《レオンがスキルを習得しました》

 ――《天墜のフォールン・セレス

 ――《クラス:未鑑定》 

 ――《飛行時のみ発動可能。高度が高いほど攻撃力と速度が増加。急降下攻撃時に追加破壊判定が発生する》

 

「……覚醒?」

 

 陽が呟いた。


「あぁ。進化みたいなものらしいけど」

 

 竜には、“覚醒”と呼ばれる現象が存在する。

それは単なる成長ではない。大幅にステータスを上げ、格が上がる。その条件はスキル習得と同様にランダムであり、解明されていない。

 

 ヒロはレオンの前に歩み寄った。変わった鱗に手を触れる。レオンは静かにそれを受け入れた。深い朱の瞳が、ヒロを見下ろしていた。

 

「……レオン。また格好良くなったな」

 

 レオンが低く鳴いた。さっきまでより、一段低い声だった。ヒロは、レオンの首に手を当てた。

 

 陽はその光景を、黙って見ていた。

 激しい戦いの果てに、レオンは何かを超えた。

 

 セラが、隣で短く鳴いた。

 陽はセラを見た。金色の瞳が、レオンをじっと見ていた。その瞳は穏やかだった。


「竜騎士の証を手に入れよう」

 

 宝箱は、岩の向こうにあった。

 近づくと、木製の箱が岩の台座の上に置かれていた。蔦が少し絡みついている。陽は蓋に手をかけた。

 

 開ける。中に、それはあった。

 小さな金属製のメダルだ。翼を広げた竜の紋章が刻まれている。触れた瞬間、視界に通知が浮かんだ。

 

 ――《竜騎士の証を入手しました》

 

「……これだ」

 

 陽はメダルをそっと握った。

 

「さぁ、ここから出よう。出口はどこだ」とヒロが言った。

 

 陽は広間を見渡した。受付係が言っていた「横穴」——広間の壁の上部に、外から光が差し込んでいる場所があった。高さは十メートルほど。飛んで行ける。

 

「あそこだ」

「行こう」

 

 横穴を抜けると、外の空気が押し寄せてきた。

 森の中だった。洞窟の入口とは別の場所に出た。木々の間から空が見える。夕方の光が、木漏れ日として地面に降り注いでいた。

 

「時間かかったな」とヒロが言った。

「うん。でも——」

 

 陽はセラを見た。白い体に傷が残っていたが、リジェネレイト・コアが少しずつ回復させていた。

 

「セラの二つ目のスキル。レオンの覚醒。この試験で大きく成長できたね」

「そうだな。今なら達也のジンに張り合えそうだ」


「セレスティアに戻ろう。達也が待ってる」とヒロが言った。

  

 陽は頷いた。二人と二頭は、道を戻り始めた。

 木々の間を歩く。鳥の声。風の音。夕暮れの光。

 達也の顔が浮かんだ。報告したら、どんな顔をするだろう。きっと「やると思ってたわ!」と言いながら笑うんだろうな、と陽は思った。


 森が開けてきた。セレスティアへの道が見え始める。


 後はセレスティアに戻る。

 それだけのはずだった。


 突然セラが、止まった。


「セラ?」

 

 セラの体が硬直している。

 金色の瞳が、森の奥、木々の向こうを見ていた。

 

 ヒロも足を止めた。レオンが低く唸る。

 陽は目を凝らした。森の奥に、影があった。

 木々の間に溶け込むように、動かずに佇んでいる。でも、確かにそこにいる。

 

 影が、動いた。

 木々の間から、"それ"が現れた。

 

 ――"黒い竜"だった。

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