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ROAR OF DRAGONS  作者: 紫鷹丸
18/31

ナイツ試験⑶

「セラ、空へ!」

 

 セラが翼を広げ、飛び上がった。野生の竜も翼を羽ばたかせ、浮き上がる。広間の天井が高いおかげで、空中戦の余地はある。

 

 セラが旋回した。フェイタルリードが発動する——金色の瞳が急所を探す。しかし野生の竜の体は大きい。鱗が分厚い。通常の急所では、セラの爪では届かない深さにある。

 

「……通らない」

 

 陽は歯を食いしばった。

 

「鱗の間だ」とヒロが叫んだ。

 

「翼の付け根、鱗が薄い部分を狙え!」

「翼の付け根——」

 

 セラが方向を変えた。野生の竜の側面へ回り込もうとする。だが野生の竜も素早い。旋回してセラの動きを妨害する。体格差が、そのまま空中での有利さに繋がっていた。

 

 セラが弾かれた。

 翼をかすめる一撃。大きくはないが、それだけで吹き飛ぶ。陽の体ごと、大きく後ろへ押し戻された。

 

「っ——!」

 

 セラが体勢を立て直す。陽はセラの首にしがみついた。SPゲージを確認する——160。戦闘に入ってから急激に減っている。

 

「地上からレオンで攪乱する。その間に翼の付け根を狙え」

「わかった!」

 

 レオンが地上から跳躍した。野生の竜の脚へ体当たりを叩き込む。巨体がわずかに揺れる。その瞬間を狙って、セラが急降下した。

 

 翼の付け根——鱗の薄い部分へ爪を当てた。

 手応えはあった。野生の竜が、低く唸った。ダメージが入っている。でも、まだ全然足りない。


 野生の竜が体を回転させた。翼が大きく薙ぎ払われる。レオンとヒロが吹き飛ぶ。セラが回避するが、風圧だけで陽の体が揺れた。

 

「ヒロ! レオン!」

「大丈夫だ、まだ戦える」

 

 ヒロの声に余裕がない。レオンが立ち上がるが、動きが鈍くなっていた。HPが削れている。

 野生の竜が再び翼を広げた。

 今度は上昇しない。翼を大きく広げたまま、地面に降りてきた。四足で立ち、長い首を低くして、二人を見る。

 まるで、品定めするように。

 

「……来る。大技だ、散れ!」とヒロが言った。

 

 陽はセラを左へ向けた。ヒロとレオンが右へ跳ぶ。

 次の瞬間、野生の竜が口を開いた。

 息吹が来た。炎ではない。圧縮された空気だ。見えない刃のような衝撃波が、広間を横断する。陽は体を伏せた。衝撃波がセラの上をすれすれに通り過ぎた。

 ――ズドンッ!!

 広間の壁が砕ける。岩の破片が降り注ぐ。

 陽は顔を上げた。セラは無事だ。対角を見ると、ヒロとレオンも伏せて避けていた。

 

「……回避できた」

「危なかった……」とヒロが言った。声が硬い。

「あれを受けたら、やばい」

 

 陽はセラのSPを確認した。

 110。減り続けている。


 SPが、100を切った。

 陽は視界の端のゲージを見つめた。減り続けている。戦闘中、飛行時の消費速度は、通常の比ではない。回避するたびに、攻撃するたびに、数値が削れていく。

 

 野生の竜が、ゆっくりと向きを変えた。

 次の攻撃を準備している。胸が膨らむ——また咆哮か、息吹か。どちらにしても、まともに食らえば窮地に立たされる。

 

「ヒロ、レオンのHPは!」

「半分を切った。俺も限界に近い」

 

 このままでは削り切られる。SPが尽きれば飛べなくなる。レオンのHPが尽きればヒロの戦闘不能も必至だ。どちらが先に来るかの問題だ。

 

 打開策が、見えない。

 野生の竜が口を開けた。

 

「来る——!」

 

 陽はセラを旋回させた。でも、今度は違う方向から攻撃が来た。翼による横薙ぎだ。読んでいたはずなのに、一瞬の判断が遅れた。 

 翼がセラを直撃した。

 

「セラ!」

 

 セラが大きく吹き飛ぶ。陽はセラの首にしがみついた。壁に激突する寸前、セラが翼で衝撃を和らげた。それでも、ごつりとした衝撃が全身に伝わった。

 

 SPが、80を切った。

 セラがゆっくりと体を起こす。動きが鈍い。ダメージを受けた。白い体に傷が走っている。

 

「セラ、大丈夫か!」

 

 セラは答えなかった。ただ、立ち上がった。瞳は闘志に燃えているが、残りHPは少ない。

 

 野生の竜が近づいてくる。

 陽は歯を食いしばった。どうする。どうすればいい。SPは80。宝箱はあの岩の向こうにある。でも、今の状態では辿り着けない。

 

 そのとき。セラの体が、光った。

 白い光だった。セラの全身から、じわりと光が滲み出てくる。傷ついた鱗が輝き、修復されていく。

 

「……何が起きてる?」

 

 視界の端に、通知が浮かんだ。

 

 ――《セラがスキルを習得しました》

 ――《リジェネレイト・コア》

 ――《クラス:未鑑定》

 ――《常時発動。毎秒HP微少回復。HP一定量以下で回避力UP》

 

「新しいスキル……!」

 

 フェイタルリード以降、ずっと覚えていなかったスキル。2つ目のスキル。 

 セラのHPが、ゆっくりと回復し始めた。少量ずつ——でも、確実に。

 

「ヒロ!」と陽が叫んだ。

 

「俺とセラが陽動する!」

「でも、お前HPが――」

「セラが新しいスキルを覚えた! 任せて!」

「――! わかった!」

 

 野生の竜が、また動き始めていた。でも、セラの動きが変わっていた。さっきまでの鈍さがない。リジェネレイト・コアが体を癒している。

 

 セラが翼を広げた。

 飛び上がる。野生の竜の攻撃を、さっきよりも鋭く回避する。翼の動きが軽い。敵を翻弄する。野生の竜がセラを注視している。

 

「もう一回、翼の付け根を狙う!」

 

 セラが急降下した。野生の竜が翼を振り上げて迎撃しようとする。陽は息を呑んだ。

 

「行け、セラ——!」

 

 セラが野生の竜の翼の振り上げをすり抜けた。テンペストウィングが風を斬る音がした。翼の付け根——鱗の薄い部分へ、爪が深く突き刺さった。


 野生の竜が、今までとは違う声で吼えた。

 

「今だ!」とヒロが叫ぶ。

「レオン——!」

 

 レオンが地面を蹴った。ブレイクタスクが発動する。渾身の体当たりが、傷ついた翼の付け根に炸裂した。野生の竜がよろめく。

 

「もう一回いくぞ、レオン!」

 

 レオンが、再び同じ場所へ突き込んだ。

 だが——竜は倒れなかった。

 よろめきながらも、体勢を立て直す。赤い瞳が、二人を見た。さっきまでとは違う感情が、そこにあった。

 

 怒りだ。翼が大きく広がる。

 

「散れ!」

 

 陽とヒロが同時に叫んだ。

 衝撃波が広間を走った。今度は先ほどより強い。陽はセラを急上昇させて回避した。ヒロとレオンは左右に散って躱した。壁が大きく砕ける。岩の破片が雨のように降り注ぐ。

 

「押し切る!」

 

 陽はセラを急降下させた。野生の竜が翼で迎撃しようとする。でも、セラの動きはさっきより速い。リジェネレイト・コアが体力を底上げし続けている。

 

 翼の付け根へ、三度目の一撃。

 ヒロとレオンが地上から追撃する。

 

「今!」

 

 セラの爪が、最後の急所を貫いた。同時にレオンが体当たりを叩き込んだ。

 野生の竜が、大きく揺れた。

 ゆっくりと——ゆっくりと、傾いていく。

 ――ズゥンッ!!

 

 地面に倒れた。広間全体が揺れた。土煙が上がる。

 静寂。

 ――《討伐成功》

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