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ROAR OF DRAGONS  作者: 紫鷹丸
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ナイツ試験⑵

 洞窟の通路は、思ったより広かった。レオンの翼を畳んでも余裕がある。ただ、所々で天井が低くなる場所があり、そのたびに屈んで進んだ。

 

 最初のモンスターが現れたのは、入口から百メートルほど進んだところだった。

 コウモリに似た小型のモンスターが、天井から一斉に降ってきた。数は二十体以上。暗闇の中で羽ばたく音が、洞窟に反響して不気味に響く。

 

「多い!」

「数で押してくるタイプだ。一体ずつ相手にするな」

 

 ヒロがレオンに指示を出す。レオンが大きく翼を広げ、そのまま横一文字に薙ぎ払った。十体近くが吹き飛ぶ。セラが残りの群れに飛び込み、次々と急所を突いた。あっという間に群れが散っていく。

 

「速い。いいぞセラ」と陽が言った。

 

 セラは答えず、すでに次の警戒に移っていた。

 さらに進む。通路が広くなったり狭くなったりを繰り返した。分岐が現れたが、ヒロが進む方向を判断した。

 

「こっちだ。奥に空間がある」

「見えるの?」と陽が聞く。

「薄暗いけど、ぼんやりな」

 

 分岐を右に曲がると、通路が少し下り坂になった。地面が湿気を帯びていて、足が滑りやすい。陽は慎重に足を運びながら進んだ。

 

 岩の影から、大型のモンスターが飛び出してきた。

 全身が岩に似た灰色の皮膚で覆われた、四足のモンスターだ。体格はレオンと同じくらいある。突進してくる速度は速い。

 

「レオン、止めろ!」

 

 レオンが体当たりで正面から受け止めた。重い衝撃音が洞窟に響く。レオンが一歩下がるが、踏みとどまった。その隙に、セラが側面へ回り込み一撃を加えた。モンスターが体勢を崩したところに、レオンが追撃を叩き込んだ。

 

「ふぅ、倒れた」

 

 陽は息を吐いた。洞窟の中は地上と違い、逃げ場が少ない。追い詰められると厄介だと思った。

 先に進むにつれて、モンスターの強さが増していった。二体同時に現れるようになり、連携して攻めてくるものも出てきた。それでも、二人は着実に対処しながら奥へと進んだ。

 

 どれくらい経ったのか。

 ふと、通路の先に光が見えた。

 青白い光ではなく——もっと柔らかい、自然な光だ。

 

「あれは……」

「出口じゃない」とヒロが言った。

「広間だ」

 

 近づくにつれて、光が強くなる。通路の終わりが近い。陽は足を速めた。

 そして——通路を抜けた瞬間、息を呑んだ。

 

 広間だった。

 天井が高い。本当に高い。洞窟の中にいるとは思えないほど、上が遠い。天井全体に光る苔が群生していて、見上げると星空のようだった。壁は滑らかな岩肌で、所々に水が滲み出ていて、光を反射してきらきらと輝いている。

 

 広間の床は平らで広い。直径にして五十メートルはあるだろうか。中央に大きな岩が幾つか積み重なっていて、その奥——岩の向こうに、木製の宝箱が見えた。

 

「あれか」と陽が呟く。

 

 ヒロが頷いた。でも、動かなかった。

 

「……待て」

 

 ヒロの目が細くなっていた。宝箱ではなく、岩の積み重なりを見ている。

 陽も目を凝らした。

 岩が——動いた。

 いや。

 岩ではなかった。

 

 体を丸めて眠っていた何かが、ゆっくりと目を覚ました。鱗が岩と同じ灰色で、丸まっている間は完全に岩に見えた。それが体を起こすと、その全貌が明らかになる。

 

 長い首。大きな翼。重厚な四肢。

 飛竜だった。

 その大きさは、セラの三倍では済まない。四倍——いや、もっとかもしれない。翼を広げれば、この広間の半分を覆うだろう。

 

「……でかい」

 

 陽の声が、洞窟の中で小さく反響した。

 

 野生の飛竜が、ゆっくりと頭を持ち上げた。

 目が開く。深い赤色をした瞳が、二人を見た。感情が読めない。ただ、侵入者を排除しようとする本能の光だけがある。プレイヤーの竜とは全く違う。セラやレオンの目に宿る、プレイヤーへの信頼も、共に戦う意思も、何もない。

 

 竜が立ち上がった。その動作だけで、地面が震えた。胸が大きく膨らむ。

 

「距離を取れ!」

 

 ヒロが叫んだ。

 次の瞬間——

 咆哮が、洞窟全体を揺さぶった。

 音ではなかった。衝撃だった。空気が弾け飛ぶような圧力が全身を叩き、陽の体が後ろへ吹き飛ぶ。

 

「っ——!」

 

 背中を岩壁に打ちつけた。視界が揺れる。耳の奥に轟音が残っている。

 

 ――《状態異常:轟音 行動停止・10秒》

 

「陽!」

 

 ヒロの声が遠く聞こえた。

 陽は岩壁に手をついて、体を起こした。足が上手く動かない。轟音の状態異常だ。十秒。

 野生の竜が、こちらを見ていた。ゆっくりと、前脚を踏み出す。

 地面が揺れる。

 

 一歩。また一歩。

 陽は立ち上がろうとした。足が言うことを聞かない。セラが陽の前に出た。翼を広げ、野生の竜を睨みつけている。小さな体で、何倍もある存在の前に立ちはだかっていた。

 

「セラ……」

 

 セラは振り返らなかった。ただ、そこに立っていた。十秒が、やけに長く感じた。

 足が動かない。轟音の状態異常。視界の端でカウントダウンが刻まれていく。9、8、7——

 

 野生の飛竜が、一歩踏み出した。

 その一歩だけで、地面が揺れた。体重が違う。密度が違う。セラやレオンとは比べ物にならない質量が、こちらへ向かってくる。

 

 セラは動かなかった。陽の前に立ったまま、翼を広げて野生の竜を睨みつけている。白い体が、広間の薄明かりの中で浮かび上がっていた。


「セラ、無理するな——」

 

 陽が呼びかけた瞬間、野生の竜が加速した。

 速い。

 あの巨体で、信じられない速度だ。翼を畳んだまま、四足で地面を蹴って突進してくる。

 

 セラが横へ跳んだ。紙一重だった。突進が空を切り、野生の竜が広間の壁に前脚をついて止まった。壁が砕ける。岩の破片が飛び散る。

 カウントダウンがゼロになった。


「動ける! セラ、下がれ!」

 

 陽は立ち上がり、セラを呼び戻した。セラが素早く後退する。野生の竜が振り返る。赤い瞳が、今度は真っすぐ陽を見た。

 

「ヒロ、大丈夫!?」

「問題ない!」

 

 ヒロの声が聞こえた。広間の反対側で、レオンと共に立ち上がっていた。轟音を食らいながらも、壁を支えに体を起こしている。

 

「デカすぎる。正面からは当たるな」

「わかった」

 

 野生の竜が翼を広げた。その翼が広間の半分を覆う。羽ばたきが風を生み、陽の体が後ろへ押された。

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