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ROAR OF DRAGONS  作者: 紫鷹丸
14/30

セレスティア⑵

 広場から伸びる石畳の道を、三人はゆっくりと歩いた。

 セレスティアの街並みは、どこを見ても緑が絡んでいた。建物の壁を蔦が覆い、窓枠に花が咲き、屋根の隙間から木の枝が顔を出している。石造りの建物なのに、まるで生きているようだった。道の両脇には背の高い木が並び、その枝が頭上で交差して、自然のアーチを作っている。木漏れ日が石畳に揺れる模様を描いていた。

 

「グランヴェルと全然違うね」

 

「雰囲気が真逆だな」とヒロが頷く。

「なんか落ち着く」と陽は景色を眺めながら言った。心なしか歩幅が狭い。

 

 セラが陽の隣を歩きながら、あちこちを見渡している。木々の間を小鳥が飛ぶたびに、金色の瞳がその軌跡を追った。

 

 しばらく歩くと、商店街に出た。

 リクレーンの露店とも、グランヴェルの武具屋とも違う。きちんとした店構えの建物が並んでいて、それぞれの入口に看板が掲げられている。武具屋、道具屋、地図屋、食料屋——そして。

 

「あれ、なんだろう」

 

 陽が足を止めた。

 一軒の店の前に、見慣れないマークが掲げられていた。稲妻のような形を組み合わせたロゴ。その下に文字が刻まれている。


「ボルテックスじゃん!」

 

 ヒロが目を輝かせた。

 

「現実でもよく買うわ、ここ」

「現実の会社がゲームに出店してるの?」と陽が聞く。

 

「Aegisの収益モデルやからな」と達也が言った。


 現実の企業がここに店を構える事、それ自体が広告になる。そして収益の一部をArtefact社に支払う。それがArtefact社の利益になって、プレイヤーにもロドーになって廻ってくる。


「入ってみよ」とヒロがさっさと扉を開けた。


 店内は広かった。中世ファンタジーの世界観に合わせたデザインの服が並んでいる——かと思いきや、棚の一角に多少現代的なデザインのウェアが置かれていた。

 

「これ、現実のボルテックスの服と同じデザインやで」と達也が棚から一枚取り上げた。軽量のジャケットで、稲妻のロゴが胸元に入っている。

 

「ゲームの中で着られるの?」

「もちろん。しかも、それだけやない」

 

 達也がウィンドウを操作して、商品の詳細を表示した。

 

 ――【VOLTEX ライトニングジャケット】

 ――ゲーム内装備:可能

 ――現実配送:対応

 ――価格:3,500ロドー

 ――このアイテムを購入すると、Aegisユーザー登録住所に同一デザインの現実製品が配送されます

 

「配送……?」

 

 陽は画面を見つめた。

 

「つまり」と達也が続ける。


「ゲーム内でこの服を買うと、現実の自宅に同じ服が届くってわけや」

「え、本当に?」

 

「マジや」と達也が言った。


「俺、リリースしてすぐに試したで。その日の夜に届いてた」

 

 陽はジャケットを手に取った。ゲーム内の触感だから、素材の感触はある程度しかわからない。でも、デザインは確かにかっこいい。稲妻のロゴが、セレスティアの木漏れ日を受けて輝いている。

 

「これ、現実のお金に換算すると……」

 

「今のロドーの価値やと、350円やな」と達也が即答した。

 

 「現実のボルテックスのジャケットが350円で買えるってこと。ゲームで稼いだロドーを使えばな」

 

「安いっ」と陽が目を丸くした。

 

「ゲームの宣伝になるから、現実より安く設定してるんやろな。企業側は広告費として割り切ってるんや」

 

 ヒロが棚を見渡した。スニーカー、パーカー、トレーニングウェア——全部、現実のVOLTEXと同じラインナップだ。

 

「面白いシステムだな」とヒロが呟く。

 

「世界観的に浮いてない?」と陽が聞くと、達也が笑った。

 

「そこはAIがうまいことやってんねん。店の外観や陳列を街の雰囲気に合わせて変えてるから、そこまでやない? 一応世界観に合わなすぎるデザインは販売できないみたいやし」

 

 確かに、外から見たときはただの服屋にしか見えなかった。服自体も奇抜なデサインや派手な色の物はなかった。

 

 陽はもう一度ジャケットを見た。350円。ゲームで稼いだお金で、現実の服が買える。

 

「……試しに買ってみようかな」

「ええやん。俺もここで何着か買ったで。ゲームしながら買い物できるの、ほんまに便利やわ」

 

 陽は購入ボタンを押した。

 

 ――《購入完了。VOLTEX ライトニングジャケットが登録住所へ配送されます》

 

「帰ったら届いてるかな?」

 

「たぶんな」とヒロが言った。


「登録した住所に自動で届く。受け取りのサインとかもいらない」

「すごいシステムだ……」

 

 三人は店を出た。

 達也が「他にも現実企業の店、何軒かあるで。メシ屋もあるし」と言いながら、通りの先を指した。

 確かに、よく見ると見覚えのあるロゴが入った店がいくつかあった。

 

 陽は通りを歩きながら、改めてセレスティアを見渡した。

 中世ファンタジーの街並みの中に、現代の企業が溶け込んでいる。木々と建物と、現実と仮想が混ざり合っている。

 

 不思議な光景だった。でも——不自然ではなかった。むしろ、この世界はそういう場所なのだと思った。

 

「次はどこ行く?」と達也が聞いた。

「武具屋を見たい」とヒロが言った。


「セレスティアなら、グランヴェルにはない素材や装備があるはずだ」

「そやな。セレスティアは自然系の素材が豊富やから、魔法系の装備が充実してるって聞いたで」

 

「セラに合いそうだな」と陽が言った。

  

 セラが短く鳴いた。まるで同意するように。

 三人と三頭は、セレスティアの街並みをさらに奥へと歩いていった。木々の向こうから川の音が聞こえてくる。鳥が鳴く。風が吹く。

 この街は、生きていた。

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