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ROAR OF DRAGONS  作者: 紫鷹丸
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騎乗⑶

 試験官と別れ、二人はグランヴェルの広場へ戻った。


 陽はすぐにウィンドウを開いて、ドロップした嵐羽を確認した。淡く青白く光る羽根。手に取ると、思ったより軽い。弾力があって、しなやかで、風を受けるためにあるような形をしている。


「これ、何かに使えるのかな」

「生産屋に持ち込んでみよう、煌竜鱗もここでなら加工して武具にしてくれるかもしれない」とヒロが言った。


 広場を一周すると、すぐに見つかった。建物の入口に金床と鎚のマークが掲げられている。中に入ると、壁一面に素材や装備が並んでいた。カウンターの奥にNPCの職人が座っている。がっしりとした腕をした、無口そうな男だ。


「この素材で何か作れますか」


 陽が嵐羽を差し出すと、職人は素材を手に取り、じっくりと観察した。少し目が細くなる。裏返し、光に透かした。


「……ストームウィングの嵐羽か」

「何か作れますか?」


 職人はしばらく黙っていた。それから「竜用の翼装甲が作れる」と言った。


「軽くて風の抵抗を減らす、飛竜向けの装備だ。テンペストウィングと呼ばれている」

「作ってもらえますか」

「いいだろう」

「それと……これなんですけど」


そう言うと陽は煌竜鱗を差し出した。


「これは……煌竜鱗か。久しぶりに見たな」

「何か作れますか?」

「竜用の鱗の防具。煌竜ノ鱗衣が作れる。だが素材が足りん。素材を揃えてこい」


 素材のリストが表示された。輝鉄インゴット、竜晶石、光糸。素材屋で買えばそこそこの値段だ。輝鉄インゴットは近くの洞窟で採取できる。

 

「揃えてきます」


 二人は手分けして素材を集めた。竜晶石と光糸は素材屋で購入した。輝鉄インゴットは素材屋には売っていなかったので、近くの洞窟で採取できると聞き、調達してきた。


 素材を持って生産屋に戻ると、職人は黙って受け取り、作業を始めた。金属を打つ音、素材を削る音が響く。陽はカウンターの前でじっと待った。


 しばらくして、職人が振り返った。


「できた」


 差し出されたのは、薄くて軽い翼の装甲だった。嵐羽の青白い輝きを残しつつ、金属で補強された美しい造りだ。

 

 そして、煌竜ノ鱗衣。 

 その見た目は明らかに高レベル帯の装備だ。表層を覆う鱗は、光を受けるたび淡い金蒼色を揺らめかせ、まるで星空を閉じ込めたような輝きを放つ。高い防御力に加え、挑発、周囲の敵に微少なヘイト効果があるという特性付き。


 陽は受け取り、セラに装着した。セラの翼に、装甲がぴたりと重なる。鱗にも煌々と輝く鱗衣が。煌竜ノ鱗衣はGCが53とかなりキャパシティを取られてしまう高性能な防具。このレベル帯の竜ではそれだけでGC上限に達してしまいそうなものだが、セラは変わらず表示はない。


 セラが翼を一度大きく広げた。装甲が風を受けて、青白く輝く。


「……かっこいいじゃん、セラ」


 セラは何も言わない。ただ、翼をゆっくりと畳んだ。


「煌竜鱗の防具……。これだけでセラの戦闘力が跳ね上がったな」


 ヒロは改めてセラの異質さに驚いていた。



 生産屋を出ると、陽はチャットを開いた。


*「騎乗試験合格したよ。今グランヴェルにいる」*


 送り先は達也だ。既読がついたのは、ほぼ即座だった。


*「マジで!?おめでとさん!今どこや?」*

*「広場の噴水の前」*

*「五分で行く」*


 広場の入口から、日焼けした顔にニカッと笑った達也が現れた。隣にジンがいる。ダークグレーの体躯が、広場のプレイヤーたちの中でひときわ目立っていた。


「おめでとさん、二人とも!」


 達也が駆け寄ってきた。


「二人とも竜に乗るん、難しかったんちゃうか。どやった?」


「三分かかった」とヒロが言う。

 

「それ、めちゃくちゃ早い方やで」と達也は笑った。

 

「俺はすぐ乗れたよ」陽が口を挟んだ。

 

「そうなんか!? 俺なんか三十分かかったわ」

 

「お前が手こずったんか」とヒロは達也を見た。

 

「ジンがめちゃくちゃ嫌がってな……。こればっかりはゲームの上手さとか関係ないらしい。竜次第って感じや」

 

 達也がジンを見上げると、ジンは顔を背けた。達也は苦笑いした。


「まあええわ。とりあえず祝杯あげよう! この街、ええ飯屋あんねん」



 達也が連れていったのは、広場の端にある石造りの建物だった。


 扉を開けると、暖かい空気と食べ物の匂いが押し寄せてきた。木のテーブルが並び、プレイヤーたちが思い思いに食事をしている。壁には蝋燭が灯され、オレンジ色の光が揺れている。


「いい雰囲気だね」


 三人はテーブルに座った。竜も隣に座る。メニューウィンドウが開くと、料理の種類が豊富だった。肉、スープ、パン、果物——全部が、現実と変わらないほどリアルに描かれている。


「何がおすすめなの?」と陽が達也に聞く。


「グランヴェルは肉が旨いで。特にイノシシの炙り焼きとハーブ煮込みのシチュー。あと林檎酒——あ、お前ら未成年やったな」


「そうだよ」と陽が笑う。

「いや、お前もな」とヒロ。


「じゃあスパークリングハーブウォーターにしとき。林檎と薬草を発酵させたやつで、シュワシュワしてて美味いで。ノンアルやから安心や」


「飲食ってバフ効果もあるんだっけ?」とヒロが聞いた。


「そうそう」と達也が頷く。


「料理によって違うけど、一定時間ステータスが上がったり、SP・MPの回復速度が上がったりする。ちゃんとした飯屋の料理ほど効果が高い。まあ今日は試験終わったし、純粋に楽しもうや」


 三人は料理を注文した。しばらくして、料理が運ばれてくる。イノシシの炙り焼きはこんがりと焼き色がついていて、香ばしい匂いが漂ってくる。シチューはとろりと煮込まれた野菜と肉が湯気を立てている。


 陽は恐る恐る、スパークリングハーブウォーターを口にした。


「……っ、美味い」


 本当に美味かった。微炭酸が弾けて、林檎の甘さと薬草のさわやかさが広がる。現実のジュースとは少し違う、でも確かに美味しい味だ。


「VRってここまで再現できるんだね」


「もちろん味覚もあるからな」と達也が言った。


「一応腹も多少膨れるで。満腹中枢にも少し作用するらしくて、ゲーム内で飯食うと現実の空腹感も少し和らぐんよ。ずっと腹ペコのまま戦い続けるのもきついからな」


 確かに、料理を食べるにつれて、なんとなく満たされる感覚があった。現実の空腹が消えるわけじゃないが、それでも体の力が抜けて、不思議と落ち着く。視界の端には小さなアイコンが浮かんでいた。


 ――《バフ効果:戦士の食事 STR+3 SP回復速度+5% 残り時間:2時間》


「バフがついた」と陽が呟く。


「ええ飯屋やから効果も長めやで」と達也が笑った。


「乾杯しよか」と達也がグラスを持ち上げた。


「騎乗試験合格、おめでとう!」


「ありがとう」と陽が言った。


 ヒロは無言でグラスを持ち上げ、三つのグラスが、カチンと鳴った。

 

 しばらく、三人は黙って食べた。喧騒の中に、静かな時間が流れる。


「これからどうするん?」と達也が聞いた。


「首都を目指す」とヒロが答えた。


「ナイツか」と達也は少し真剣な顔になった。


 ナイツとは、現実で言うところの軍隊。国ごとに国を守る


「それ、相当強くないと受からへんで。俺もかなりギリギリやった。ストームウィングと違って、その時点での実力がボスに反映されるからな」

「お前、もうナイツ入団してんのか。さすがだな」


「そやで。お前自分のナイツ作るつもりやろ?」と達也は笑った。

 

「当然だろ。その為には入団しないとな」


 口角を上げ、続けてヒロが言った。

 

「作ったら、もちろん入ってくれるんだろ?」

「まっ、いつもの事やな。長年のゲーム付き合い。この世界でもトップ目指して行こうや」 


 陽はグラスを持ったまま、クスッと笑った。

 視線を横にずらす。セラを見た。テーブルの隣で静かにイノシシの炙り焼きを食べている。テンペストウィングが蝋燭の光を受けて、青白く輝いていた。


 夜のグランヴェルで、三人と三頭の夜は静かに更けていった。

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