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騎士様の素顔  作者: 夜星ゆき
第1章 出会い編
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第30話 お祝い

 私がルイ様と想いを通じ合わせ、ルイ様の、こ、恋人……になってから、1週間が経った。

 あのあと、お互いに任務や学校や、通常の仕事などが重なって、忙しなく会えない日々が続いていた。

 お兄様はすごく申し訳なさそうにしていたけれど、任務は魔物活性化のことだけではないのだ。仕方がない。


 仕方がないと、分かってはいるんだけれど……。


 うう、ルイ様に会いたい……。


 愛しい人に会いたくて、会えないもどかしさに、涙が出そうだ。

 とぼとぼと魔法学校の廊下を歩いていると、殿下から通信が入る。

『はい……』

『ああソフィア。何だか元気がないようだね……?』

 お兄様が心配してくれているのが伝わって、少し心が温かくなる。

『大丈夫じゃないけど、大丈夫です……』

 何を言っているんだい? と言われると思っていたのに、意外とさらっとした言葉が返ってきた。

『うん。だよね、ごめん。今すぐ〈客間〉に来てくれる? ……お待たせ』


 ……? どうして殿下が謝るんだろう。

 それに、「お待たせ」って……?


 でも、客間ということは、ルイ様もいらっしゃるかもしれない。


 そう思った途端、少し距離がある〈客間〉まで急いで転移する。


「きゃっ」


 やばい、転移はできたけど、急ぎすぎてバランスを崩した……!


 このままでは着地を失敗して、見事に転んでしまう。

 痛みを覚悟して目をつぶると、しっかりとした腕に抱き留められる感覚があった。

 そろりと目を開ければ、眼前に大好きな、ルイ様の優しい笑顔があった。


「ソフィア様は、ときどきドジでいらっしゃいますね」


 愛おしそうに微笑む彼が、まぶしすぎて直視できない。

「あ、ありがとう、ございます……」

 ルイ様に抱きしめられたままお礼を言えば、

「どういたしまして」

 と微笑んでくれて、愛が溢れる。


 ま、また恥ずかしいところを見られちゃった……!

 でもかっこいい……! 


 顔が熱くて、火が出そうなくらいだ。


「こほん」


 わざとらしい咳払いに、私たちは一斉にバッと距離を取る。

「し、失礼しました」

「い、いえ、こちらこそ!」

 お互い赤くなって頭を下げる。

「ふふ、仲良しだねぇ」

 咳払いの主、お兄様は、くつくつと楽しそうに笑っている。

「……ソフィア様、こちらへどうぞ」

 赤くなりながらも、ルイ様はスッと左手を差し出してくれて、久しぶりにその優しさに触れられることが嬉しくて、そっと手を重ねる。

 エスコートされるがまま、ルイ様と並んで殿下の向かいのソファに座る。


 えっと、ルイ様……? 近くないですか……?


 ルイ様は足が触れ合いそうなくらい、私の隣にぴったりとくっついている。

 心臓に悪いので、少し離れてほしいなと思って、ルイ様の顔を見上げれば、嬉しそうに微笑んだ彼は、さらに距離を詰めてくる。


 ……!? 近い近い近い……!


 抗議しようと思って彼の顔を見ると、幸せそうな笑顔と視線が絡んでしまって、何も言えなくなってしまった。


「ふふ、聞くまでもなさそうだね」


 ……お兄様にはすべてばれているのかしら……。

 

 まだ、お兄様にはルイ様のこ、恋人になったことは報告していなかった。

 お兄様と言えども『殿下』でもあるこの人に報告することは、王族に対して行う正式な婚約報告ともいえるので、勝手には言えないのだ。


「先に、任務の話をしてもいいかな?」

 殿下の言葉に、私たちはそろって頷く。

「ごめんね。ありがとう」

 殿下は何もない空間からパッと紙を取り出して、テーブルに広げた。

「王宮の魔法鑑定課から、鑑定結果が来たよ」

「……!」


 きのこの鑑定結果が出たんだ……!


 これで、魔物活性化についての糸口がつかめるかもしれないという期待で、手に汗がにじんでくる。

 殿下が広げてくれた紙に素早く目を通し、内容を把握する。


「これって……」

 私は驚いて、殿下とルイ様のお顔を、順番に見回す。

「ああ、そうなんだよ。このきのこは、ウルフだけが食中毒を引き起こす成分が含まれていたみたいなんだ」

 魔法鑑定課からの報告書には、このきのこには毒性がないこと、何か害のある魔法は組まれていないこと、しかしウルフにだけは食中毒を引き起こす成分が含まれていたことが書かれていた。

「では、ウルフの活性化は、このきのこを食べたせい、ということですか……?」

 ルイ様がいぶかしげに、殿下に確認する。

「そうだね。恐らくは、食あたりで暴れていた、みたいなものかな」

「ええ……?」

 思わず、間抜けな声が漏れてしまった。


 毒や魔法ではなく、ただの食あたり……?

 

「では、きのこを全部消し去ってしまえば、解決……?」

「そうだね」


 魔法が組まれていないきのこを消し去るのなんて、私たちにかかれば一瞬だ。


「はあああああ……」


 前代未聞だって騒いでたのが、ちょっと馬鹿みたいに思えてくる……。


 大きくため息をついた私に、殿下は苦笑する。

「このきのこは生命力が強くてね。隣国から商人にくっついて来たのではないかって、魔法鑑定課は言ってたよ」


「……あっさり解決しましたね」

 隣のルイ様と顔を見合わせると、ルイ様も肩の力を抜いて、微笑んでくれた。

「……大規模な戦闘にならなくて良かったと思います」


 それは、本当にそうだ。

 大事おおごとにならなくて、本当に良かった。


「ふむ、一応、調べられる限り、このきのこが入ってきたルートを調べてみるよ」

「はい。お願いします」


 魔法は組まれていなかったとのことだけれど、もちろん、これが敵意を持った者のの攻撃である可能性も捨てきれない。


 一国の王子であり、国随一の実力を誇る殿下には、もっと多くのものが見えているのだろう。


 敬愛を込めて、ルイ様と揃って頭を下げる。


「わかった。ひとまずこの件はこちらで引き受ける。今回の魔物活性化については……」


 真面目な顔をした殿下が、魔法を発動させるのを感じ取る。


 ……あ。やばい。


任務完了ミッション・コンプリートだ」


 殿下が宣言すると同時に、パンパンっと何かが弾ける音がした。

 あまりに速すぎて、防御魔法を発動する時間が無かった。

 とっさにルイ様がかばってくれたけど、ルイ様は紙吹雪まみれだ。

「……アル? これは……?」

 ルイ様が、地を這うような低い声で、殿下に微笑みかける。


 ……目が、笑ってないですよ……?


「……ええと、お祝いに、サプライズを、と?」

 殿下は目が泳いでしまっている。


 もう、殿下はいたずらが好きすぎるわ……。


 私も軽くお兄様を睨んでおく。

 しかし、ルイ様は「お祝い」という言葉を聞いた途端、背筋を伸ばして、殿下の名前を呼んだ。

「アルフレッド」

「うん」

 殿下も背筋を伸ばして、ルイ様に真正面から向き合う。


 ……ど、どういうこと?


 困惑していると、ルイ様が、もう一度殿下の名前を、今度は正式な呼び方で呼んだ。

「アルフレッド王子殿下」

「うむ」


 ……!

 殿下まで、正式な対応をするのね……?


 どうしてふたりが急に正式なやりとりをし始めたのか分からなかったけれど、私も背筋を正す。

 そんな私を見て、一度微笑んでくれたルイ様は、真剣な表情で殿下に告げる。


「私、ルイ・フォルトとソフィア・キャルロット嬢は、婚約いたします」


 こ、婚約の、挨拶……!?

 き、急に!? 心の準備が……!


 慌てる私を余所に、殿下は黙ってルイ様を見つめ返している。


「まだ未熟者ですが、精一杯、彼女と一緒に、幸せに生きていきたいと思います」


 ……ルイ様……。

 

 ルイ様の言葉に、涙がこみ上げてくる。


 一緒に、生きていけるんだ……。


 まだ泣くわけにはいかないと、必死に自分を律して、私も殿下を見つめ返す。

 殿下は、私たちの顔を交互に眺めて、少しだけ笑った。


「……うむ。ふたりの婚約を認めよう」


 これで、私たちの婚約は、王族に認められた正式なものとなった。


 ほっと胸をなで下ろすと、とても嬉しそうなルイ様と視線が絡んで、嬉しくて頬が染まる。

 そんな私たちの様子を眺めていた殿下は、不意に破顔した。

「堅苦しいのは終わりだ。おめでとう、ルー、ソフィー」

 殿下が――お兄様が、心から祝福してくれているのが伝わって、心底嬉しい。

「ありがとうございます」

 お兄様に祝われるのは気恥ずかしいな、なんてのんきなことを考えていたら、ルイ様の纏う空気がピリッとしたものに変わった。


「……ソフィー?」

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