表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士様の素顔  作者: 夜星ゆき
第1章 出会い編
PR
28/32

第28話 心から/隣

 ここまでどうやって歩いてきたのか分からない。

 身体中、いろいろな所が痛くて、柱や壁にぶつかりながら来たのかもしれないと、ぼんやり思う。

「うーん、今日は千客万来だなぁ」

 〈客間〉に入ったとき、力加減を間違えて扉を破壊してしまった気がする。

「扉も壊すし。似てるねぇ?」

 アルが何か言った気がしたけれど、俺には聞こえなかった。

「ルー」

 俺は許可も得ず、力なくアルの向かいのソファに座る。

「ルーってば!」

 ハッとして顔を上げれば、アルと視線が絡んだ。

「……もう、何て顔してるんだよ……」

 少し怒ったような顔をしていたアルは、俺の顔を見て、何故か悲しそうな顔をした。

「泣いてもいいよ」


 泣く……?

 俺は、泣きたいのか……?


 自覚した瞬間、俺の目からは今にも涙があふれ出しそうだった。

「いいけど、必要ないと思うよ」

 目頭をぐっと抑えて、うつむいてしまった俺に、アルはぶっきらぼうに言った。


 必要ない……?


 アルの言っている意味が分からず、そろそろと顔を上げれば、眉を下げたアルが少し微笑んだ。


「ちゃんと聞かせてよ」

「……」


 心から応援してくれたアルには話すべきかと思って、こくりと頷く。

「ソフィア……様に……」

「うん」

 悲しみで喉が閉まって、思うように声が出せない。

 それでもアルには伝えたくて、必死に声を絞り出す。


「……ソフィア様に、告白した」

「うん」


 中庭でのことを思い出すだけで、胸が締め付けられる。


「ソフィア様は、アルのところに行く、って……」

「え」


 そこまで真剣な表情で頷きながら聞いてくれていたアルは、驚きの声を上げた。


「アルのことが……」

 好きだと言っていたことは、本人以外の口から伝えることではないと思いなおして、口をつぐむ。


 ――アルのところに行ったソフィア様は、アルに告白したんだろうか。

 アルは、恋愛感情ではないと言っていたが、あんなに可憐で素敵な女性に告白されて、ときめかないわけがない。


 不安と嫉妬と、ぐちゃぐちゃになった感情に押しつぶされそうになりながら、ちらりとアルの様子をうかがうと、うつむいていたアルは、急に背中を丸めた。


「はああああ、そういうことかあ……」


 俺は予想外の反応に驚いて、何も言えなくなってしまう。

 アルは息を吐ききったあと、おもむろに顔を上げて、俺の目を真っ直ぐに見据える。


「ルイ、良く頑張った……って言いたいところだけど、それたぶん伝わってないよ」

「……え?」


 伝わってない……?

 誰に、何が……?


 どういうことだろうと、首をかしげれば、アルは真剣なまま続ける。


「ソフィアね、魔物討伐とかに着いてきてくれって意味だと思ってた」

「は」


 アルの思いもよらない言葉に、俺の口からは間の抜けた声が漏れた。


 俺は、恋人に、婚約者になってくれないかと、伝えたつもりだったのだが……。

 それが、全く伝わっていない……?


 助けを求めるようにアルの顔を見れば、俺の考えを肯定するようにしっかりと頷かれてしまった。


「好きって言ったの?」


 それは、俺がもっとも伝えたかったことだけれど。


「い、えなかった……」


 上手く言葉が出てこなかった。

 口から出たのは、お付き合いしていただけませんか、だった。

 いろいろ間違えた気がするし、途中言葉に詰まって声が小さくなってしまった。


「うん、言っておいで」

「え」

「ルーは振られるとかそれ以前に、気持ちが伝わってないんだよ。伝えなきゃね」

 アルはそう言って、穏やかに微笑む。


 俺は、ソフィア様にアルが好きだからと振られたと思っていたが、振られたわけではない……?


 少しの希望が首をもたげただけで、期待が胸を浸食していく。


「……でも、」


 それと同時に、ソフィア様がアルのことを好きだと言っていたことが、トゲのようにひっかかって痛い。


「ソフィアは俺を好きかもしれないって? それはソフィアにしか分からないけれど……それでいいのかい?」

「……」


 アルは俺の心が見えるのだろうか。

 

 それでいい……わけがない。

 もし、もし……本当に、ソフィア様がアルのことを好きなのだとしても。

 俺は、諦めなくてもいいだろうか。


「……ソフィア様は、どこにいるだろうか」


 気づけば、そんなことをたずねていた。

 アルは俺の言葉に嬉しそうに微笑んで、考える姿勢を取った。


「……今日はさっきまで王宮にいたから、そろそろ帰るところじゃないかな」


 もう、帰ってしまったのだろうか。


 伝わっていなかったならば、今すぐに、伝わるように伝えたい。

 内側から湧き上がる衝動を持て余して、どうして良いか分からない。


「いや、たぶん……」


 逸る気持ちを抑えるように深呼吸をしていると、アルがにやりと笑って、俺を見つめた。


「あそこにいるんじゃないかな。ソフィアは落ち込んだ時、なぜかよくあそこにいるんだ」


 そこに、彼女がいるかもしれない。


「ありがとう、アルフレッド」

 その事実だけで、俺は返事もそこそこに部屋を飛び出した。


 アルは驚いて、少ししたあと、

「うん」

 と満面の笑みを返した。


「ルイのあんな顔、初めて見たな……」


 アルが嬉しそうにつぶやいた言葉が、そっと俺の背中を押した気がした。



◇◇◇



 俺はアルに教わった場所めがけて、全力で走った。

 足がもつれて転びそうになっても、足を緩めることは無かった。

 やっと目的の場所にたどり着いて、当たりを見回す。


 見当たらない……。

 やはり、もう帰ってしまったのだろうか。


「ソフィア様……」


 もう会えないのかと思って、愛しい彼女の名前をつぶやいた。


 その時、花壇の裏に一瞬だけ魔力の揺れを感知して、すぐにそれが彼女のものだと分かった。


「……ソフィア様」


 上がった息を整えながら、彼女がいるはずの花壇の裏に近づいていく。

 そこには、同じように花々が咲き誇る花壇が続いているだけで、何もない。

 正しくは、何もないように見えている。


「結界を、解いていただけませんか」


 俺は、心からの願いを込めて、できるだけ丁寧に言葉を紡ぐ。


「る、ルイ様。私は今お目にかけられるような顔ではありません」


 ソフィア様が言葉を返してくれたことに、心底ほっとする。

 すぐに、本心からの言葉を、今度は間違いなく伝わるように、はっきりと返した。


「大丈夫です。どんな貴女も美しい」

「……!」

 ソフィア様が動揺したようで、彼女の完璧で美しい結界にほんの少しだけ揺れが生じた。

 俺は逃さないように、その隙間に魔力で形作った剣を差し込んで、結界を破壊する。

 絶対に間違っても彼女を傷つけることはしないが、少々手荒な真似になってしまったかもしれない。


 それでも。

 なぜ落ち込んでいるのかは分からないけれど。

 落ち込んでいる彼女をひとりにしたくはなかった。


「……ルイ、様……」

 驚いて顔を上げた彼女の目は赤く腫れ、頬には涙の跡がくっきりと残っていた。

 彼女のつらそうな顔を痛ましく思いながらも、俺の心は名前を呼んでくれた歓喜で満ちあふれていく。


「ソフィア様」


 愛しく思う気持ちが、少しでも伝わるように。


「ご、ごめんなさい、今は――」

「私の話を、聞いていただけませんか」


 もう、抑えられないこの気持ちを、彼女に伝えたい。


 ソフィア様がどうして落ち込んでいるのかは分からない。

 分からないけれど、落ち込んだときに、隣にいる権利がほしいと心から思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ