↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/68

「地下の異常」


「掘削してみたら、地下三メートルのところに、空洞があったんです」


 小此木永周は、興奮を抑えきれない様子で説明した。工房の裏手、簡易的な調査用の穴の中を、江戸川勉と工藤俊一が並んで覗き込む。


「空洞というのは、自然にできたものですか」江戸川が聞く。


「いえ、明らかに人工です。壁面が焼き締められています。窯のような、あるいは――納骨堂のような造りです」


「納骨堂?」安藤修が眉をひそめた。


「多治見の古い窯元は、江戸期以前から続くものが多い。中には、窯の跡地に、後から別の目的の施設を作った例もあります」小此木は言った。


 そこに、四十八歳の秋月小五郎が、興味深そうに割り込んできた。


「考古学の専門家を呼んだ方がいいんじゃないか」


「もう呼んでます」鳴海美佑がスマホを構えながら答えた。「坂東直樹先生、来てくれるそうです」


 まもなく、五十四歳の考古学者、坂東直樹が到着した。穴の中を一目見て、表情を変える。


「これは……思っていたより、古い」


「どのくらい古いんですか」工藤が聞く。


「壁面の焼き方から見て、少なくとも江戸中期以前。もしかすると、もっと遡るかもしれません」坂東は懐中電灯で壁を照らした。「ここに、文字らしきものが刻まれています」


 全員が息を呑んで覗き込む。かすれた文字が、壁面に彫られていた。


――還ラズ、還スベシ


「還ラズ、還スベシ……」江戸川が呟く。「これ、どこかで聞いたような気がしませんか、安藤さん」


「聞き覚えはありませんが、意味は不気味ですね」安藤が答えた。



 歴史学者の土志田沙彩、三十二歳が到着したのは、その少し後だった。彼女は文字を見て、すぐに資料を調べ始めた。


「これは、江戸期の窯業地帯に伝わる、"還しの碑文"と呼ばれるものの一種かもしれません」土志田は言った。「当時、窯の失敗や事故で亡くなった職人を、窯の跡地に丁重に祀り、"土に還す"という儀式があったと聞いたことがあります」


「単なる供養の碑、ということですか」島田司が聞く。


「それだけなら、珍しくはありません。ですが、この空洞の造りは、供養のためだけの施設には見えません。むしろ――何かを"外に出さないため"の造りに近い」


「封じ込めている、ということですか」フェルナンド・村田が言った。「ワイの霊感でも、この穴、なんか嫌な感じしますわ」


「フェルナンドさんの霊感は、正直、あてにしていいのかわかりませんが」島田が苦笑する。


「島田さんも占い師やないですか、お互い様やろ」


 そこに、江刺家友蔵が息を切らして駆けてきた。


「先生方、大変なことに気づきました。あの数珠――うちの家に伝わる数珠は、実は、この空洞が見つかった場所の土から作られたものだったんです」


「つまり」江戸川が言う。「盗まれた数珠は、この地下の空洞と、何か関係がある」


「それだけじゃありません」江刺家は続けた。「うちの言い伝えでは、あの数珠は、"外に出てはいけないものを、内に留めておくため"に作られた、とも聞いています」


 全員が、地下の空洞を見つめた。



 その夜、旅館に、もう一人の客が到着した。


 五十七歳のアメリカ人、ステーブ・ヘイブンス。根古親司の大学時代の後輩だという。表向きは観光客だが、二名の護衛――カルロスとホセを引き連れているのを見て、江戸川と工藤は、すぐに何かがおかしいと気づいた。


「探偵さんたち、お騒がせしています」ヘイブンスは流暢な日本語で言った。「私は、この地域の地質構造に、個人的な興味がありまして」


「地質構造、ですか」小此木が食いついた。「実は、私も専門で――」


「存じています。あなたの論文は読ませていただきました」


 江戸川は、安藤に小声で聞いた。


「あの人、本当に観光客だと思いますか」


「いいえ」安藤は即答した。「護衛が二人つく観光客は、まずいません」


 ヘイブンスは、地下の空洞の話を聞くと、表情を変えずに、一つだけ質問した。


「その空洞、あるいは碑文について、アメリカやNATOの関連機関から、過去に調査依頼が来たことはありませんか」


 その場にいた誰も、答えられなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。