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人探し編  第三話「奥の部屋」

 


 太鼓の音は、坑道の奥、休憩室と呼ばれる部屋の方向から響いていた。


「鳴海さん!」


 江戸川勉が声を張り上げながら駆け込むと、部屋の中央、古い机の前に、鳴海美佑が座り込んでいた。怪我をした様子はなく、ただ、スマートフォンのカメラをじっと見つめている。


「鳴海さん、大丈夫ですか」安藤修が駆け寄る。


「あ……江戸川さん」鳴海は、ゆっくりと顔を上げた。「すみません、心配かけて。ちょっと、これに気を取られてて」


 彼女が見つめていたのは、机の上に置かれた、古い木箱だった。中には、小さな木彫りの太鼓の模型のようなものが入っている。


「これ、坑道の奥で見つけたんです。触れてないのに、時々、音が鳴るんですよ」鳴海は言った。「怖くて配信もできなくて、ずっとここで、様子を見てました」


「一週間も、ですか」工藤俊一が驚いたように聞く。


「時間の感覚が、あまりなくて……気づいたら、もうこんなに経ってたんですね」


 白髪の管理人の男が、木箱を見て、驚いた表情を見せた。


「これは……見たことのない代物だ。この部屋に、こんなものがあったとは、知りませんでした」



「まず、鳴海さんを外に連れ出しましょう」秋月小五郎が言う。「詳しい話は、その後で」


 鳴海は素直に立ち上がったが、木箱を見て、少し名残惜しそうな顔をした。


「これ、持って帰っちゃダメですかね」


「危険かどうか、わからないうちは、やめておいた方がいいと思います」安藤が止めた。


 外に出た一行は、旅館に戻り、江刺家友蔵、坂東直樹、土志田沙彩に連絡を取った。木箱の写真を見せると、坂東はすぐに表情を変えた。


「これは、前回見た、地下の空洞の碑文と、同じ意匠です」坂東が言う。「ただ、材質が違う。碑文は焼き物でしたが、これは木でできている」


「もしかして」土志田が言った。「これも、"送り物"の一種なのでは」


「送り物、というのは」工藤が聞く。


 根古親司に連絡が取れたのは、その夜だった。事情を聞いた根古は、電話の向こうで、少し驚いた声を出した。


「その坑道の場所、詳しく教えてもらえますか」


「多治見の北側、戦後に閉鎖された陶土の坑道です」江戸川が答える。


「――父の日誌に、一度だけ、その場所の名前が出てきたことがあります」根古は言った。「"予備の送り先"として、検討されていた場所だと」


「予備の送り先、ですか」


「九頭竜と徳山、二つのダム工事で、"送り物"の統合先を決める際、他にも候補地があったんだと思います。最終的には湖底が選ばれましたが、もしかすると、あの坑道にも、当時、何か小さな"分け前"のようなものが、預けられていたのかもしれません」



 根古の説明を聞いた白髪の管理人は、深く息をついた。


「そういうことか……。だから、深く掘ることを止めるように、社の上層部から強く言われていたんですね」


「あなたも、詳しい理由は知らなかったんですか」江刺家が聞く。


「知らされていませんでした。私はただ、"刺激しないように"という指示だけを、代々受け継いできただけです」


「では、あの木箱は、どうすればいいんでしょう」鳴海が聞く。


「今回は」根古が電話の向こうで言った。「地下に還す必要はないと思います。あの木箱に入っていたものは、正式な"本体"ではなく、あくまで"予備"だった。今、九頭竜と徳山の本体は、既に還るべき場所に還っています。予備は、もう役目を持ちません」


「じゃあ、あの木箱は、放っておいていいってことですか」工藤が聞く。


「放っておく、というより――ただの記念として、坑道の入り口にでも、静かに置いておけばいいと思います。危険なものではなく、もう、ただの"役目を終えた道具"です」


 翌日、一行は、木箱を坑道の入り口近くの小さな祠に安置した。鳴海はそれを、動画には出さず、自分のカメラにだけ、静かに記録した。


「今回は、事件にしないんですか」江戸川が聞く。


「なんとなく」鳴海は笑った。「これは、みんなの記憶の中だけに、しまっておきたい気がして」


 旅館に戻った女将は、娘の無事な姿を見て、涙を流した。


「心配かけてごめん、お母さん」鳴海は言った。「でも、いいネタは見つからなかったよ」


「見つからなくて、よかったのよ」女将は、笑いながら答えた。


 多治見の街に、また一つ、静かな事件の記憶が積み重なっていった。



――完――

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