人探し編 第二話「坑道の奥」
一
坑道の中は、思っていたよりも整備されていた。
「これ、本当に戦後から閉鎖されてる場所ですか」工藤俊一が、壁に取り付けられた古い照明の跡を見ながら言う。
「配線は古いものです」安藤修が、懐中電灯で照らしながら答えた。「ですが、地面の足跡は、比較的新しい。複数の人間が、最近、ここを歩いています」
足跡は、鳴海美佑のスニーカーらしき軽い足跡と、もう一種類、明らかに大人の男性のものと思われる、重い足跡が混ざっていた。
「鳴海さんは、一人で来たんじゃないんですか」秋月小五郎が眉をひそめる。
「あるいは、途中で誰かと会った、ということかもしれません」江戸川勉が答えた。
奥へ進むと、坑道が二又に分かれている場所に出た。片方は下り坂で、もう片方は緩やかに上っている。足跡は、下り坂の方に続いていた。
「機械の音は、下から聞こえてきますね」安藤が言う。
四人は、下り坂を進んだ。
二
しばらく進むと、坑道が急に広くなり、大きな空間に出た。そこには、古い採掘機材が並んでいたが、驚くべきことに、その一部は明らかに最近手入れされていた。
「誰かが、この機材を使っている」工藤が、機材の表面を触って言う。「錆びていない部分がある」
空間の奥、壁に設置された作業台の上に、鳴海のものと思われるバッグが置かれていた。中身は無事で、荒らされた様子はない。
「鳴海さん!」江戸川が声を上げるが、返事はなかった。
その代わり、空間の隅から、人影が現れた。
「――お客さんですか。珍しいですね、こんな場所に」
現れたのは、六十代とおぼしき、白髪の男だった。作業着姿で、手には測定器のようなものを持っている。
「あなたは?」秋月が警戒しながら聞く。
「私は、この坑道の元の管理会社から、非公式に頼まれて、定期的な様子見をしている者です。名前は、名乗るほどのものではありません」
「非公式に、というのは」江戸川が突っ込む。
「表向き、この坑道は"完全に閉鎖された"ことになっています。ですが、実際には、時々、ここの様子を見に来る必要がある事情がありまして」
「その事情というのは、江刺家さんが言っていた、"掘ってはいけない深さ"のことと関係がありますか」安藤が聞いた。
白髪の男は、初めて表情を変えた。
「――その話を、どこで聞きましたか」
三
「まず、鳴海さんはどこですか」江戸川が話を戻す。「ここに来ているはずです」
「彼女には、少し前に会いました」男は答えた。「動画の撮影がしたいと言っていましたが、私が、この先には進まないように止めました」
「止めた後、彼女はどこに?」
「もう少し奥に、休憩できる部屋があります。そこで待つように言いましたが――正直、彼女がまだそこにいるかどうかは、わかりません。好奇心の強い方でしたから」
男は、坑道のさらに奥を指した。
「あそこから先は、私も、あまり近づかないようにしています」
「なぜですか」工藤が聞く。
「戦後の調査記録に、"深さ二百メートルを超えた地点で、通常の陶土とは異なる層に到達した"という記述があります。それ以降、会社は掘削を止め、代わりに、その層を"刺激しないように"、定期的な監視だけを続けることにしたんです」
「異なる層、というのは」
男は、少し言葉を選んでから答えた。
「専門的な説明は、私にはできません。ですが――前回、多治見で起きた事件の話は、私も聞いています。地下の空洞、"還ラズ、還スベシ"の碑文。あの一件と、この坑道は、根が同じものかもしれないと、私は考えています」
江戸川と工藤は、思わず顔を見合わせた。
「またですか」工藤がため息をつく。
「今回は、単純な人探しで済むと思っていたんですが」江戸川も苦笑した。
坑道のさらに奥から、機械音とは違う、低い、規則正しい音が響いてきた。
トン、トン、トン。
安藤が、その音に思わず足を止めた。
「――これ、聞いたことがある音のような気がします」




