人探し編 第一話「消えた娘」
一
「江戸川さん、今度は普通の依頼ですよ」
安藤修が、少し安堵した様子で言った。地下の空洞やNSAが絡んだ前回の一件から、まだ二週間ほどしか経っていない。
「普通の依頼、というのは」江戸川勉が聞く。
「人探しです。依頼人は、多治見の旅館を経営している方で――娘さんが、一週間前から連絡が取れなくなっている、と」
事務所に入ってきたのは、六十代の女性だった。名刺には「たじみ荘」という旅館の名前がある。
「娘は、鳴海美佑という名前で、地元でYouTuberをしております」
江戸川と安藤は、思わず顔を見合わせた。前回の事件で、ずっと現場に張り付いていた、あの鳴海美佑だった。
「鳴海さん、行方不明なんですか」江戸川が驚いたように聞く。
「一週間前、"次の動画のネタを見つけた"とだけ言って、山に向かったそうです。それ以来、連絡が取れません」
「山、というのは、具体的にどこですか」
「詳しくは言っていませんでしたが、荷物の中に、地質学の小此木先生の資料のコピーがあったと聞きました。もしかしたら、先生に連絡すれば、何かわかるかもしれません」
二
「鳴海さんが、僕の資料を持って山に?」
連絡を受けた小此木永周は、心当たりがあるという顔をした。
「実は、前回の事件の後、彼女から一つ質問をされていました。"多治見の周辺で、地質学的に、まだ調査されていない場所はないか"と」
「それで、何と答えたんですか」江戸川が聞く。
「正直に、一箇所だけ、答えました。市の北側、古い坑道の跡がある山です。かつて、陶土を採掘していた坑道で、戦後に閉鎖されて以来、詳しい調査記録が残っていません」
「その場所に、鳴海さんは向かった、ということですか」
「可能性は高いと思います。彼女は、"誰も調べていない場所を動画にしたい"と、よく言っていました」
工藤俊一と秋月小五郎も、依頼を聞いてすぐに合流してきた。
「今回も、二組で来たんですね」工藤が苦笑する。
「今回は、依頼人が別々ではありません」安藤が答える。「工藤さんたちは、なぜ来たんですか」
「実は、旅館の女将さんから、僕らにも別に頼まれていたんです。"二組いれば安心だから"と」
秋月が、坑道の位置を地図で確認しながら言った。
「閉鎖された坑道か。それだけで、十分に危険な場所だな」
三
現地に向かう前、江戸川たちは、江刺家友蔵にも声をかけた。数珠職人として、この地域の土地の言い伝えに詳しいという理由だった。
「その坑道のことは、聞いたことがあります」江刺家は表情を曇らせた。「昔から、この地域では、"あの坑道には、掘ってはいけない深さがある"と言われてきました」
「掘ってはいけない深さ、ですか」
「詳しい理由は、わかりません。ただ、戦後に坑道が閉鎖されたのも、単に採算が取れなくなったからではなく、"深く掘りすぎて、何かに当たった"という噂もあります」
「何かに、というのは」
江刺家は、少し考えてから答えた。
「前回の事件と、同じような話かもしれません。この土地には、時々、そういう"還らないもの"が眠っている場所があるようです」
江戸川と工藤は、顔を見合わせた。
「また、そっち系の話ですか」工藤がため息をつく。
「単純な人探しで済むことを、祈りましょう」江戸川が言った。
その日の午後、四人の探偵――江戸川、安藤、工藤、秋月は、坑道の入り口に向かった。入り口には、鳴海のものと思われる自転車が、乗り捨てられたまま残っていた。
「ここから、入っていったようですね」安藤が、坑道の入り口を照らしながら言う。
坑道の奥から、微かに、機械の駆動音のようなものが聞こえていた。一週間、誰も使っていないはずの坑道から。




