回想、四十年前」
その夜、根古は一人、古いアルバムを開いていた。ヤマトが膝の上で、いつになく静かにしている。
写真には、まだ若い根古と、一人の外国人青年が写っていた。大学時代、留学生歓迎コンパの夜のものだ。
??四十年近く前のことだ。
歓迎会で調子に乗って飲みすぎた留学生、ジェイムス・ヘイブンス。まだ十九歳だったその青年は、日本の酒の強さを甘く見ていた。気づけば意識を失い、唇は青ざめ、呼吸も浅くなっていた。
『おい、誰か救急車を!』
周りの学生たちが浮足立つ中、根古だけが冷静だった。ジェイムスを横向きに寝かせ、気道を確保し、嘔吐物で窒息しないよう朝まで付き添った。救急車を呼ぶべきか迷った友人たちに対し、根古は「もう少し様子を見る、危なければすぐ呼ぶ」と、一晩中、ジェイムスの容態を見守り続けたのだ。
翌朝、意識を取り戻したジェイムスは、自分が生死の境をさまよったことも、根古が一晩中付き添っていたことも、朧げにしか覚えていなかった。
『……お前が、看てくれたのか』
『いや、たいしたことはしてない。みんなでやったことだ』
根古は、あの夜のことを、誰にも――ジェイムス本人にも――大袈裟に語ったことはなかった。それが四十年経った今も続く、根古の流儀だった。
「……ジェイムスの奴、今頃、ステーブなんて名前を名乗ってるとはな」
根古は写真をそっと閉じ、ヤマトの頭を撫でた。




