「根古、静かに語る」
その夜、「らくか」で、四人は根古と向き合っていた。太田も心配そうに、カウンターの奥から様子を見守っている。
「根古さん」秋月が、これまでにない真剣な口調で切り出した。「単刀直入に伺います。あなたは、一体何者なんですか」
根古は湯呑みを置き、しばらく沈黙した。ヤマトが、根古の膝の上で静かに丸くなっている。
「……儂は、ただの年寄りだよ。それ以上でも、以下でもない」
「防衛大臣まで動くような話に、あなたの名前が出てくるんですよ」江戸川が食い下がる。
根古は、少し困ったように笑った。
「昔、ちょっとした縁があってな。米国の知り合いを一人、助けたことがある。それだけの話だ」
「それだけ、で防衛大臣が動きますか」
根古はヤマトを撫でながら、静かに言葉を続けた。
「あんたらが今、追ってる話――樋口家の恩義、東京の訳あり三人組、そして儂の昔の縁。これらは全部、別々の糸だ。だが……時々、そういう別々の糸が、たまたま同じ場所に集まることがある。それだけのことだよ」
太田が、思わず口を挟んだ。
「根古さん、それにしちゃ、随分と大きな糸ばっかり集まってきてる気がするけどねぇ」
根古は、いつもの穏やかな笑みを浮かべたまま、しかしどこか意味深に言った。
「多治見という町は、案外、そういう場所なのかもしれんな」
窓の外、多治見の夜空に、月がぽつりと浮かんでいた。四人の探偵たちは、この事件がもはや自分たちの手に負える範囲を超えつつあることを、薄々感じ始めていた。だが同時に、その中心に静かに座る根古という存在の大きさも、少しずつ見え始めていた。




