38/44
「安田、板挟みに」
その通達は、県警本部を経由し、安田達郎警視正の元に届いた。安田は文書を前に、深いため息をついた。
「防衛大臣直々の意向、か……厄介なことになったな」
雨月雅之が、緊張した面持ちで報告を聞いていた。
「安田さん、これは……つまり、我々に手を引けと?」
「いや」安田は首を振った。「『抑制』であって『撤退』ではない。表立って動くな、ということだ。だが……」
安田は文書を机に置き、窓の外を見た。
「防衛大臣がこの件に反応したということは、逆に言えば、それだけこの件が『上』にとって重要、あるいは危険と見なされているということだ」
山本彩織が疑問を口にする。
「安田さん、なぜ田舎町の一件に、防衛大臣までもが動くんでしょうか」
安田はしばらく沈黙した後、重い口を開いた。
「……ここだけの話だがな。俺が県警に出向する前、警察庁で小耳に挟んだことがある。この地方には昔から、『特別な監視対象』がいる、と」
「監視対象、ですか」雨月が身を乗り出す。
「詳しくは俺も知らん。だが……根古親司という名前を、その文脈で聞いた記憶がある」
その場にいた全員が、息を呑んだ。




