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一緒に泣くから(7)




 ケイス修練所の成績は上々だった。少なくとも一般の新顔の戦士と比較すれば、生存率は三倍近くに跳ね上がっていた。


 最初にアリスタの死を見せられたエストアはあまり元気がなかったが――情が移っていたのか――それでも彼女の生徒は講師の中でも抜群の戦績を誇り、ケイスのお眼鏡にかかった。講師陣を束ねる講師長に昇格し、僕に指図できる立場になった。別にそれは構わなかった。


 僕はずっと別のことが気になっていた。レンドという、僕と同じ名前の英雄について。ケイス修練場は戦争に関するありとあらゆる資料を蒐集していて、映像記録も保管しているはずだった。


 資料室で、僕の初陣の映像を発見し、視聴することにした。当時の〈眼〉は無名の戦士である僕になど興味はなく、実績ある戦士を追いかけていた。


 英雄レンドはすぐに分かった。青の徽章を誇らしげに胸につけ、部隊長として全軍の先頭に立って、敵軍と交戦していた。その凄まじい膂力と卓抜した技倆によって、向かい立つ敵は例外なく数秒で肉塊と化していた。


 まさにレンドは無敵の戦士だった。みるみる赤の部隊は押されていく。比喩でも何でもなく、レンドたった一人に部隊全体が押されているのだった。


 赤の部隊の敗戦は必至か。僕自身、そう思った。そんなときに飛び出してきたのは、小柄な少年――一五歳の僕だった。


 自前の武器を持たない全ての戦士に支給される、ありふれた鉄剣を肩に載せ、レンドに突進する。レンドは正面から向かってくる僕をみてにやりと笑い、剣を振り下ろす。


 直撃すれば死。仮に、それを躱したとしても、まだ巨漢レンドの懐に入るのには足りなかった。レンドは剣の達人であり、そんな隙を見せるはずがない。


 僕は近くに立っていた〈眼〉の首を切り付けた――そしてその瀕死の少年を突き飛ばし、レンドの注意を逸らした。


「卑怯者め!」


 レンドは叫んだ。


 次の瞬間、僕の姿は画面に存在しなかった。


 僕は跳躍していた。他の数人の〈眼〉が僕の姿を見失い、おろおろしているのが分かる。


 レンドは剣を振るい、僕を空中で刺し殺そうとした。


 けれど、瀕死の〈眼〉が喚きながら動き回り、その傷つけられた動脈から噴出してきた勢いのある血が、レンドの目に直撃した。


 全くの偶然だった。偶然だったとしか言えない。狙ってこんなことができるとは思えない。


 目に血液を浴びたレンドは、ほんの一瞬だけ怯み、迷いのない僕の斬撃を脳天に喰らった。


 顔面が割れ、脳漿がぶちまけられる。


 血を浴びた画面の中の僕は、ゆっくりと辺りを見回し、そして小さく笑った。〈眼〉が僕の表情を克明に映し出そうと近づいてくる。


「僕を殺してみろ」


 一五歳の頃の僕は、確かにそう言ったのだった。


 この映像を、アリスタは見ていたはずだ。


 だから、彼は僕に憧れていたのか。僕を殺すことを夢見て……。


 でも、誰も僕を殺せない。


 僕はこうしてここで過去の自分の行いを見つめている。


 僕の頭がなぜこの記憶を抹消したのか、理解した。


 僕は今、孤独だった。輝かしい過去を知って、どうしようもなく哀しかった。


 なかなか死ねない自分に絶望し、僕は自分が大人になってしまうことを悟ってしまった。


 その絶望を、打ち消す為に。


 大人になってしまえば、もう僕は違う人間になっているから、きっとこの痛みにも耐えられる。


 この頃の僕は、そう考えていたんだろ?


 残念だったな。


 涙が堪え切れないよ。


 僕は強くなれなかった。


 その意味では、変わっていないってことなのかな。


 僕はまだ間に合うのかな?


 ――いや、甘えるな。


 僕は大人になったんだ。


 子供だった頃には戻れない。戻りたくても、戻れない。


 だったら、淡々と死への準備をして、清らかで思い切りの良い死なんか望まずに、この世界の汚い部分を泳いでいくしかないじゃないか。


 それはけして善いことじゃない。


 絶対に、善いことなんかじゃないんだ……。


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