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第22話 三枚目のカード

 ステージ上には一本の普通の鉄剣と、クロムニウム加工を施した剣。

 そして比較用として、太い丸太が何本も運び込まれた。


 いよいよ、実演の時間だ。


 客席に座る大商会の代表者たちの視線が、一斉にこちらへ集まる。

 俺は中央へ歩み出ると、静かに一礼した。


「では、これより実演を始めます」


 まずは通常の剣からだ。

 

 俺は何の変哲もない鉄剣を手に取り、丸太の前に立つ。

 深く息を吸い込み,心を落ち着かせると一気に踏み込んだ。

 鋭く踏み込んだ瞬間、床板が鳴り、会場に重い衝撃音が響いく。


 剣は丸太の半ばまで深く食い込んでいる。

 客席の空気がわずかに揺れ、護衛たちの表情が変わる。

 今の一撃だけで、俺がただの商人ではないことを理解したのだろう。


「私程度の腕では、この程度が限界です」


 わざとらしく肩をすくめて見せる。

 護衛たちの眉がわずかに動いた。

 その反応を見ながら、俺は次の剣へ手を伸ばす。


「では次に、クロムニウム加工を施した武器で行います」


 今度は踏み込みを浅くする。

 力を込めていないことは、武に携わる者なら誰でも分かる。

 軽くただ振り下ろす。


 それだけだった。


 次の瞬間。

 丸太は、まるで紙でも裂くかのように真っ二つに割れた。

 会場にどよめきが走る。


「同じ鉄の剣でも、クロムニウム加工を施すことで刃先が変質し、強度が増し、切れ味が飛躍的に向上します」


 静かに告げる。

 その時だった。


「待て」


 低い声が客席から響く。

 口を開いたのは、グレン商会の副会長だった。


 武器商会最大手。

 当然、この場で最も疑い深い男だ。

 今も鋭い眼光が、まっすぐこちらを射抜いてくる。


「その実演だけで信用しろと言うのか?」


 会場が静まり返る。


「丸太に細工がない保証は?」


「剣にも特殊な仕掛けが掛けられていない保証は?」


 鋭い問いだった。

 他の商会も同じことを考えていたのだろう。

 誰も口にはしなかったが、その目が答えを求めている。


 だが俺はその言葉を待っていた。

 俺はむしろ、わずかに笑みを浮かべた。


「ええ。だからこそです」


 客席をゆっくり見渡す。


「各商会の護衛の方々に、実際に試していただきます」


 その言葉に、商人たちの目が変わった。

 単なる口先ではない。

 自分たちの人間に確かめさせる。

 それは何より雄弁な証明だった。


 俺は続ける。


「丸太は十分に用意してあります。各商会より護衛の方をお一人ずつ、お借りできますか」


 その提案に、代表者たちは互いに視線を交わし、それぞれ護衛を一人ずつ前へ出した。


 各商会から選出された十名。

 誰もが一目で分かる実力者だ。


 立ち姿、重心、呼吸。

 隠しようがない。

 だがその表情には僅かな緊張が見えている。


 戦い慣れしている筈の彼等が緊張するのも当然だろう。

 彼らは今、自分の商会の看板を背負ってこの場に立っている。

 他商会の護衛より実力が劣る姿を見せれば、それはそのまま主人の評価に繋がる。


 失望された先に待つものなど、考えるまでもない。

 護衛たちは無言で準備運動を始めた。

 そして最初の一人が前に出る。


 まず剣を調べる。

 本当に普通の鉄剣なのか。

 丸太に細工はないのか。

 疑い深く、徹底的に確認していく。


 問題なし。


 そう判断すると、男は大きく息を吐き、裂帛の気合いと共に丸太へ斬りかかった。


 結果。


 刃は丸太の三分の一ほどで止まった。

 俺が切り込んだ半分には届かない。

 客席の主たちが静かに頷く。

 比較対象としては十分だ。


「次はこちらを」


 クロムニウム加工の剣を手渡す。

 男は再び念入りに剣を調べる。

 そして、同じように振り下ろした。


 丸太は真っ二つに裂けた。

 明らかな困惑が、その顔に浮かぶ。

 予想を遥かに超えていたのだろう。

 他の護衛たちも同様だった。


 結果に多少の差はあれど、誰もが丸太を両断する。


 大きな実力差はない。

 それに気付いた護衛たちは、逆に安堵したように息を吐いていた。

 そして同時に、執事服に身を包んだ俺へと視線を向ける。


(お前、一体何者だ?)


 そんな無言の問いが伝わってくる。

 だが、答えるつもりはない。


 まだ一枚目だ。


 俺は次の段階へ進む。


◇◇◇


 丸太切りが終わると、今度は応用へ移る。

 ここからは、属性付与の実演だ。

 さすがに劇場で火属性を使うわけにはいかない。

 だから今回は氷属性を使う。

 ステージ上に用意された生肉。

 俺は氷属性を付与したナイフを手に取り、それを静かに切り分けていく。

 刃が肉に触れた瞬間。

 切断面から白い霜が広がり、肉は瞬く間に凍りついていった。


 客席から、低いざわめきが漏れる。

 特に驚いていたのは食料全般を扱うバルディア商会だ。


「このように、武器へ様々な属性を付与することで、切る以外にも追加効果を与えることができます」


 ナイフを置きながら説明する。


「魔獣との戦闘では、継続的なダメージを与えられる火属性が有効です」


「逆に素材の解体では氷属性の方が適している」


「鮮度を保ったまま剥ぎ取りが可能になります」


 武器は、ただ殺すための道具ではない。

 使い方次第で、その価値は何倍にも膨れ上がる。

 単なる切れ味の向上。

 それだけでは終わらない。


 これが二枚目。


 替えの利かない価値。

 俺は静かに、二枚目の札を卓上に置いた。


◇◇◇


 そして最後。

 俺は次に、小型の送風機を取り出した。

 風を起こすだけの単純な魔道具。

 夏場に使えば暑さを和らげることができる、ごく一般的な品だ。


 だが今回の本命はこれだ。


「魔道具は、内部に刻まれた魔法陣へ魔石の魔力を流し込むことで作動します」


 客席を見渡しながら続ける。


「そして魔石にはランクがあります。蓄積できる魔力量、放出する魔力圧、その両方に大きな差がある」


「通常、魔法陣は魔力を通す塗料で描かれます」


「安価で製作しやすい反面、耐久性が低い」


「流せる魔石はせいぜいDランクまで。使用回数にも限界があります」


 つまり。


 壊れる前提の道具だ。


「ですが」


 俺はクロムニウム製の送風機を持ち上げる。


「クロムニウムによる接合と加工を施した魔法陣は、現在Bランク魔石での動作確認まで完了しています」


 会場の空気が変わる。

 理解の早い者ほど、その意味を正確に把握する。

 俺は二つの送風機を並べた。

 一つは通常品。

 一つはクロムニウム加工品。


 同時に起動する。


 普通の送風機は、客席まで風が届かない。

 だが。

 クロムニウム製の送風機から放たれた風は、はっきりと来賓たちの席まで吹き抜けた。


 衣服が揺れる。

 髪がなびく。

 誰の目にも明らかだった。


 同じ大きさ、同じ用途。

 だが性能はまるで別物。

 驚きが静かに広がっていく。


「使用回数は、従来品のおよそ百倍を想定しています」


 その言葉に、空気が止まった。

 

 今までの魔道具は、壊れる前提で使われていた。

 だからこそ高価であり、生活に余裕のない庶民には手が届かなかった。

 クロムニウムを使用すればその前提が覆る。


 本当に耐久性が百倍になれば、魔道具は一部の貴族の贅沢品ではなくなる。


 生活必需品へと変わる。

 それはつまり市場そのものが生まれ変わるということだ。


 俺は静かに、三枚目の札を切った。


 その瞬間。

 椅子を激しく鳴らしながら立ち上がった者がいた。

 クローディア商会、魔道具最大手。

 その商会長だった。

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