第19話 エリス商会
冒険者ギルドと商業ギルド。
冒険者ギルドが荒くれ者の多い冒険者たちを束ねるように、各商会や店舗を統括しているのが商業ギルドである。
この二つのギルドには、大きな違いが一つあった。
それは加入者数だ。
冒険者は個人単位で登録するため、冒険者ギルドの登録者数は非常に多い。
一方で商業ギルドは、個人ではなく【店舗】や【商会】単位で登録を行うため、その数は冒険者に比べれば遥かに少ない。
だが両者には共通する仕組みも存在する。
それが実力に応じたランク制度だ。
魔物がS級からD級に分類されるように、冒険者もまた実力と実績によってS級からD級に分けられている。
そして商業ギルドも同じく、資産、信用、流通規模、保有店舗数、取引先の格など、複数の要素によって厳格にランク分けされていた。
◇◇◇
王室御用商会・王室御用達 :オリハルコン
国家公認商会・王家直轄案件 :ミスリル
上級貴族御用達・公爵侯爵契約 :プラチナ
大商会・貴族契約 :ゴールド
都市商人・複数店舗経営 :シルバー
個人店舗・小規模工房 :ブロンズ
◇◇◇
オリハルコンに分類される商会は、王国内でわずか七。
その下のミスリルが三十、プラチナが三百、ゴールドで三千。
そこから下は一気に数が増えていく。
各ランクごとに直接契約できる相手が決まっており、たとえばシルバー商会が上級貴族と直接取引することはできない。
もちろん、上級貴族が個人的にシルバー商会の店へ足を運び、商品を買うことは自由だ。
だが正式な継続契約となれば話は別。
商業ギルドは、その秩序を何より重んじていた。
◇◇◇
俺はロイドの街にある商業ギルドへ足を運んでいた。
目的は一つ。
クロムニウム製品を扱う商会【エリス商会】を立ち上げるためだ。
受付に必要書類を提出し、登録手続きを進める。
そして提示された金額に、思わず声が漏れた。
「登録に金貨十枚!?」
「はい。商業ギルドですから」
受付の女性は、当然といった顔で頷いた。
冒険者ギルドの登録料は銀貨三枚だった。
それに比べれば、まさに桁違いだ。
(痛いな)
財布の中身を思い浮かべ、内心でため息を吐く。
だが、ここで躊躇している場合ではない。
クロムニウムが市場に出回れば、この程度の出費などすぐに回収できる。
むしろ今は未来への投資だ。
俺は迷わず金貨を差し出した。
「これでお願いします」
受付嬢は手慣れた様子で確認を終えると、一枚の薄い鉄板を差し出してきた。
「これで登録は完了です」
「ギルドカードじゃないのか?」
「商業ギルドではカードではなく、商標板を発行します」
受け取ったそれには、簡素な刻印が施されていた。
【エリス商会】
【武具・魔道具取扱】
なるほど。
商売をする際には露店でも店舗でも、この商標板を掲げておく決まりらしい。
簡単に言えば信用の証というわけだ。
どうやら商標板は一店舗につき一枚。
支店を増やせば、その数だけ登録料が必要になるらしい。
しかも年会費まで発生するとなれば、冒険者ギルドよりよほど金の匂いがする。
「ありがとうございます」
「エリス商会、頑張ってください」
こうして俺は、正式に武具と魔道具を販売する資格を手に入れた。
◇◇◇
次に向かったのは、高級木箱を扱う商人の店だった。
その店で上等な木箱を十個購入する。
かなりの出費だったが、ここでケチるわけにはいかない。
見せ方は重要だ。
特に大物を相手にする時ほど。
俺はその木箱の中に、クロムニウム加工を施した短剣を一本ずつ丁寧に収めていく。
鈍い銀色の刃。
それだけでも十分に価値を感じさせるが、本当の価値はそこではない。
そして箱の中に、一通の手紙を添えた。
書いた内容は、たったこれだけ。
【一ヶ月後 ○月○日 ○時、ロイド中央劇場・特別会場にて】
それだけ。
説明や売り込みなど一切ない。
むしろ余計なことは書かない方がいいとまで思っている。
人は分からないものにこそ興味を持つ。
特に自分を特別な存在だと思っている大商人ほどな。
俺はオリハルコンランクに属する七商会、そしてミスリルランクの中から、未来の成功を知っている三商会を選び、木箱を送った。
「さて…… どれだけ食いつくか」
全部来れば理想だが、半分でも文句はなく。
三人でも勝てるだろう。
重要なのは、最初の一人を引きずり込むことだ。
最初の一人が価値を認めれば、残りは勝手に群がってくる。
商人とはそういう生き物だ。
希少な利益の匂いには、誰よりも敏感だからな。
「それまでに、こっちの準備も進めておくか」
俺が向かった先は、ロイドの街にある小劇団だった。




