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66話:ひゃああっ!? け、結局こうなりますのねーーーーっ!?

「――『とっき』……ですの?」


 レタリアは小首を傾げ、その聞き慣れない単語をオウム返しに呟いた。

 場所はシンセ・フィブラの個人ラボ。グレインの病室から戻ったミレアは、今度はガラスの向こうの紫紺の愛機ではなく、レタリアと正面から向き合っていた。


「そう。うちの本社開発部門が極秘裏に進めている特機計画……その開発コードネーム『レタリエム』。今まであなたとアーデンが叩き出したデータを元にして設計されている計画の機体なんだけど……」


 そこでミレアは一度言葉を切り、やれやれと肩をすくめて深い溜息を吐き出した。


「設計図を見れば見るほど、どう考えてもこの機体を完璧に乗りこなせるパイロットが、あなたしか存在しないのよねぇ」


「つまり、その『れたりえむ』とやらに、わたくしが乗り換えるということですの?」


「いいえ。新造する予算も時間も足りないわ。だから――レタリエム用に本社から届くパーツを、そっくりそのままアーデンの改修用として組み込むわ」


「まあ! そのような器用なことができますのね! ……ところでミレア、そのレタリエムというお名前、どこか聞き覚えがあるような……」


 レタリアが怪訝そうに眉をひそめると、ミレアは彼女の端正な顔をじっと見つめ、意地悪っぽく微笑んだ。


「ええ、そうね。その機体名コードネーム……あなたの名前レタリアを元にして私が付けたんだから」


 その言葉を聞いた瞬間、レタリアは待ってましたとばかりに、自慢げにふんぞり返って胸を張った。


「おーっほっほっほ! やはりそうですわね! わたくしのこの素晴らしい、高貴なる名前が冠されているなんて、まあ当然の処置ですわよ! 本社の方々も、ようやくわたくしの美しさに追いついてきましたわね!」


 いつもの調子で高笑いを響かせるレタリアの姿を見て、ミレアは胸の奥でホッと安堵していた。異世界の出自を明かした直後こそ神妙な面持ちをしていた彼女だったが、何一つ変わっていなかったからだ。


「ところで、ミレア。『とっき』とは、一体何なんですの?」


 レタリアがふと疑問を口にする。特機という単語は、これまでにも何度か耳にしていた。以前に共闘したあのフリーランサー、ツーインも、アーデンを「特機」と呼んでいた記憶がある。


「特機……文字通り『特別な用途や特徴を持つ機体』の略称よ。自警団が使っているルードのような場所を選ばない機体は『汎用機』。グレインに渡すリーズのような軍隊のための機体は『軍用機』。そういった大まかなカテゴリーがあるのだけど、特機はそのどれにも当てはまらない、特定の個人や状況のためだけに作られた特別製よ。……今のあなたとアーデンの組み合わせは、文字通りの唯一無二。この広大な星の海のどこを探したって、誰にも真似なんてできないわ」


 ミレアの解説に、レタリアの瞳がキラキラと、まるで子どものように輝き出す。


「まぁ! ふふふ、ミレアも随分と見る目がありますわね! わたくしレタリア・アーデニアムが、いかに高貴で特別であるかをしっかりと理解していますわ! よろしい、特別に褒めて遣わしますわよ!」


「ふふ、そうね。光栄だわ、お嬢様」


 ミレアは楽しげに笑い、手元のデータパッドを操作した。


「一応、そのレタリエム規格のパーツを使ってアーデンを大幅に改修する予定なんだけど、本社からの物流が滞っているから、本格的な工事はもう少し待ってちょうだい。……それで、なんだけど」


 不意に、ミレアのメガネの奥の瞳が、どこか怪しくキラーンと光った。

 同時に、ラボの暗い影から、ピンクのメッシュが入った水色の髪が、まるで獲物を見つけた小動物のようにピコピコと飛び出してくる。


「ふふふふふ……♪」


「ソ、ソラ様……!? いつの間にそこに……!?」


 今の極限まで研ぎ澄まされたレタリアの『魔力』の感覚を以てしても、完全に気配を絶って潜んでいたソラの出現。

 いつの間にか背後に忍び寄っていたソラ、目の前で不敵な笑みを浮かべるミレア。二人のあまりに不穏な空気に、レタリアの背筋にゾクリと嫌な予感が走る。


「レタリア、あなたが打ち明けてくれたその『魔力』という未知のエネルギーについて、技術者として改めて徹底的に調べたいのよね。それに、ソラも新しいスーツの設計のために、今のあなたの正確なバイタルデータが必要なの」


 ミレアがそう言って怪しく笑うと、ソラがピンクのメジャーを両手に構え、目を爛々と輝かせて間合いを詰めてきた。


「さあ、お嬢様! 最高の『最強の騎士スーツ』を作るために、まずはそのお洋服を全部脱いでもらいましょうか! 細かいところまで、くまなく検査(採寸)させていただきますよ、ふふふふ……!」


「ひゃああっ!? け、結局こうなりますのねーーーーっ!?」


 ラボの密室に、レタリアの悲鳴混じりの声が虚しく響き渡るのだった。

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