37話:あなたも遅れをとってはいけなくてよ!
セルディアの管理局区に隣接する巨大な軍用ハンガー。レタリア達はこの場所に集まっていた。
今回の任務は、前回のデブリ帯での遭遇戦を受け、自警団が主導する正式な「偵察と調査」である。
ハンガーの中央には、自警団隊長グレインの機体を中心に、ステシア、レッタといった団員たちのマキナが、鈍い金属光沢を放ちながら出撃の時を待っている。
その中にアーデンともう一機、一際無骨な改造機の姿もある。ゼインとファルが同乗する、あの複座式マキナだ。
「今回は自警団の皆さんとご一緒とはね」
少し離れた場所で打ち合わせをしているグレイン達自警団のメンバーを尻目に、ゼインが口を開く。
「これがシンセ・フィブラの新型、ルードか、なるほどね」
そして、ゼインが自警団のマキナ群を見渡しながら呟いた。
セルディア自警団のマキナはいずれも『ルード』をベースにしたカスタム機である。
「親方、新型といっても二年前のモデルよ。でもあたしたちの乗ってる機体より遥かに良いものよね……」
そんなやり取りをする二人の傍にレタリアの姿もあった。
レタリアには機体の性能の善し悪しは良く分かっていない、彼女の基準はあくまで『アーデン』だからである。
「そんなに良いものなのですか?」
キョトンとして尋ねるレタリア。
そこに足音が近づいてきた。
「レタリアさん、ルードは扱いやすい、性能が良いのに拡張性も高いですからね、これに乗れるってだけでもセルディア自警団に入った甲斐があるものですよ!」
ステシアが笑いながら割って入る。
彼女の後ろに立つ自警団員のレッタも笑っている。
グレインはそんな和やかなやりとりを目に少し表情は緩んでいたが、表情を引き締め直し、告げた。
「ゼイン氏、ファル氏、今回は協力に感謝する。俺はセルディア自警団の隊長を務めている、グレインだ。
今回は前回君たちが捜索した宙域、その再調査の協力となる。レタリア、君の協力にも感謝している。今回も頼むぞ」
グレインの言葉に頷くゼインとファル。
「わたくしアーデンが華麗な働きを見せますわよ」
その言葉に笑う一同、こうして作戦が開始された。
◆◆◆
セルディアを離れ、目的のデブリ帯へと向かう巡航中、通信回線にはそれぞれの緊張と期待が混ざり合った会話が流れていた。
「先日ここでは、奇妙な声が聞こえましたのよね……」
レタリアがふと思い出したように呟く。それは、前回の調査時に彼女の脳裏にだけ響いた、あの正体不明の警告のことだった。
「……今回の調査で、その正体についても何かしら手掛かりが掴めるかもしれない」
グレインが落ち着いた声で応じる。彼の機体は部隊の先頭に立ち、静かに宇宙を切り裂いていく。
『あの時の小さい奴には肝を冷やしたぜ。まさかあんなデブリの中に、自律兵器が紛れてるなんて思わなかったからな』
ゼインが、前回の不意打ちを振り返って苦笑混じりに言った。
「俺たち自警団も以前近くの廃墟でその兵器と同型の奴と戦った事があった。レタリア嬢はその時も一緒に居たな」
グレインの言葉に、ステシアが明るい声を被せる。
「もしもまたあいつらが襲ってきても、レタリアさんがバシッとやっつけてくれますよ!」
「ステシア、それは俺たちが何とかしなきゃだろ。自警団だぞ、俺たち」
レッタが呆れたようにツッコミを入れる。その和気藹々としたやり取りをコックピットの隅で聞いていたファルが、少し意外そうに呟いた。
『自警団って、もっとピリピリしてるのかと思ってたけど……思ったより和やかなのね』
『ははは! いいことじゃないか。士気が高い証拠だぜ』
ゼインの豪快な笑い声が響く中、グレインが引き締めるように言った。
「……まあ、出来る限りは俺たちで何とかするようにする。各機、気を引き締めろ」
やがて部隊は目的の宙域に到達した。かつての激戦の痕跡を飲み込むように、静寂が漂うデブリの海。一行はグレインの指示で散開し、本格的な探索を開始した。
探索の要となるのは、ゼイン機の索敵センサーだ。ファルが精密に操作するセンサーが、広大な領域の情報を網羅し、各機へと共有していく。
『今のところ、熱源反応なし。穏やかなもんね。……このまま何も出なきゃいいんだけど』
ファルの報告通り、しばらくは異常のない穏やかな探索の時間が流れた。だが、レタリアはアーデンのコックピットの中で、言葉にできない奇妙な「重圧」を感じ始めていた。
「……? また、この感じ……」
その直後だった。
アーデンの通信回線に、あの不気味なノイズが流れ込んできた。
他の機体との通信が完全に遮断される。その中であの透明な、しかし力強い意志を感じさせる「声」が、再び聞こえてきた。
『――聞こえるか、「アーデン」のパイロット』
「……えっ?」
なぜ『アーデン』の名前を?レタリアの脳内に疑問が浮かんだ瞬間、次の声が響いた。
『――感覚を研ぎ澄ませろ、アーデンは君の意思に応えてくれる』
前回の警告とは違う。その声はレタリアの力に働きかけるようなものだった。
『見えるはずだ。……研ぎ澄ませ』
レタリアは戸惑いながらも、その声に従った。前回はこの声は彼女に『警告』を促し、それが当たったからだ。
深呼吸をし、意識をさらに深く、アーデンの深部へと沈めていく。
すると、星の海の中に自らの魔力が広がる、そういった感覚を得た。
「……見つけましたわ」
レタリアの瞳が鋭く見開かれた。
◆◆◆
「皆様、来ますわ!三つ!」
レタリアが叫ぶと同時に、ノイズが晴れた。
その直後、虚空から弾き出されるように、濃緑の機影が姿を現した。
『……よお、今度こそは首をもらうぜ、コスプレ女ぁ!』
通信に割り込んできたのは、狂気に満ちた笑い声。ブラングだった。
「一機……?いえ……」
レタリアはブラングの言葉を歯牙にもかけず疑問を口にする。
直後、青い閃光が岩礁の奥から飛来した。
『何っ!?』
レッタの機体『バリス』が咄嗟に閃光をシールドで受け止める。
シールドは焦げ付いてしまったが、貫通はされていなかった。
『レーダーに更に二機、一機はあり得ない速度で来ているわ!』
ファルの鋭い叫びが響く。
ブラング機とは別方向から現れたのは煤けた色の二機のマキナ。
高速で接近するのは軽量型のマキナ、そしてもう一機は巨大なフォトンキャノンを構えた重装備型のマキナだ。
「っ……また来ますわ!」
閃光がデブリを貫き、レッタの機体のすぐ傍をかすめた。
『レッタ、ステシア! 回避に専念しろ!』
グレインが即座に機体をブラング機へと向けた。
『こいつは俺が引き受ける。お前たちはそっちの機体を任せる!ブラング、残念だが相手は俺だ』
『隊長さんが首を差し出してくれるってか、そりゃあいい!』
高笑いを上げるブラング。
「グレイン、任されましたわ!あなたも遅れをとってはいけなくてよ!」
『仕事の時間だ、行くぜファル、サポート頼む!』
『了解!狙撃してきた奴の正確な座標、割り出すわ!』
戦線は真っ二つに分かれた。
彼方で激突を始める、グレインとブラング。
そして目の前では、超高速で接近する高機動型と、遠距離から冷酷に獲物を狙う重装備型が、レタリアたちを殲滅せんとしていた。
「さあ、淑女の戦いを見せてあげますわよ!」
アーデンがスラスターを咆哮させ、迫りくる謎の機体へと突撃を開始した。
分断された宙域で今、二つの命懸けの戦いが幕を開ける。




