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35話:だ、誰ですの!?どこから話しかけていますの!?

 漆黒の宇宙に、無数の岩礁と鈍い輝きを放つ機械の破片が漂っている。セルディア宇宙自治区の管轄宙域、その境界付近に位置する広大なデブリ帯。そこが今回のレタリア・アーデニアムの「仕事場」だった。


「今日は、フリーランサーとしての依頼ですわね。気合を入れなくてはなりませんわ!」


 愛機『アーデン』のコックピットで、レタリアはダークパープルの前髪をかき上げ、気合を入れ直した。今回は自警団としての任務ではなく、一人のフリーランサーとして、デブリ帯の安全確認と資源調査の依頼を受けていた。


『よお、お嬢さん。また同じ依頼になるとはな。見たぜ、シンセ・フィブラの宣伝。えらく有名人になったじゃないか』


 通信回線から聞き覚えのある、野太い声が響く。以前、鉱石採掘の任務やサーペント号の件で肩を並べたベテランフリーランサー、ゼインだった。


「ふふ、あのようなもの、淑女の嗜みですわ。ゼインも、わたくしの美しさに釘付けになりましたかしら?」


 少し上機嫌なレタリアの返答に、ゼインは豪快に笑った。


『ああ、今度サインをしてくれよな』


『……親方、レタリア、おしゃべりはそこまで。そろそろ作戦領域に入るでしょ』


 ゼインの機体から、聞き慣れた少女の声が重なる。ファルだ。


「あら、ファルもいらっしゃいますの? お二人で同じ機体に……乗っていますの?」


『ああ、俺の機体は複座式に改修してあるからな。二人までなら乗れるぜ。こいつの機体はあの時にこっぴどくやられちまったからな』


「へぇ~、二人で乗れるのですわね」


『言ったそばからまた喋ってる……。ほら、領域に到着したよ、親方!』


 ファルにたしなめられ、一行はデブリ帯の中心部へと進んだ。

 今回の作戦宙域は、遠方の宙域から流れてきた岩礁と、出所不明の古い機械の破片が混ざり合ったエリアだった。

 もう少しセルディア宇宙自治区に近づけば自警団の管轄となるが、そうなる前に民間で調査を行い、有用なものがあれば回収する。

 また、管理局に代わって先に危険性を調査することで、民間側がその報酬を得ることもできるというシステムだ。


 周囲にはゼインの他にも数名のフリーランサーが同行しており、彼らもまた「噂の令嬢か、お手並み拝見だな」と興味深げにレタリアへ話しかけてくる。


「皆様、わたくしの足手まといにならないよう、気をつけてくださいまし!」


 そんな尊大な台詞を吐きつつも、レタリアはアーデンのセンサーを注意深く監視していた。

 暫く宙域を探索する一行。

 十分程度経過しただろうか、機体の通信モニターに激しい砂嵐のような砂嵐が走った。


「……? 何が起こりましたの……?」


 通信機器からは異音しか聞こえない。

 異常を感じ、レタリアがコックピットの計器を確認しようとした、その時だった。

 スピーカーからではなく、まるで彼女の脳裏に直接響き渡るような、透明感のある、しかしどこか無機質な声が届いた。


『――聞こえるか?』


「……っ!? だ、誰ですの!? どこから話しかけていますの!?」


 レタリアは困惑し、周囲を見渡すが、アーデンの高性能センサーにも人影や機影は映らない。


『……応答があったのか。……よく聞くんだ。その宙域に、危険なものが潜んでいる。警戒しろ。退避しろ』


「危険なもの? ちょっと、詳しく説明しなさいな!」


 レタリアの声も虚しく、その声はふっと消え、同時に激しいノイズも収まった。


『……リア、聞こえるか!? 応答しろ、レタリア!』


 通信が復旧し、ゼインの焦ったような声が流れ込んでくる。


「ゼイン! 今、謎の通信がありましたわ! この宙域に、危険なものが潜んでいるそうですの!」


『危険なもの……? なんだ、それは。センサーには何も映ってねえぞ』


 普通なら聞き流すような警告だが、ゼインは以前、レタリアがいち早くレイダーの接近に気づいたことを思い出していた。


『……わかった。お嬢さんの直感だ、信じてみる価値はある。ファル、センサーの出力を最大まで上げろ! 何か見落としてるぜ!』


『了解! 最大出力……指向性を絞ってスキャンするよ! ……あ、親方!』


 ファルが驚き声を上げる。


『いた……! 岩礁の影、デブリの隙間に隠れてる。少しだけ動いてる小さな熱源……これ、マキナじゃない!』


 その瞬間、デブリの合間から何かが高速で弾け飛んだ。

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