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109話:ま、まあ! わたくしにかかればこの程度、大したことありませんわ!

 場所はセルディア宇宙自治区、シンセ・フィブラ社内にあるミレアのラボ。

 無事に作戦と調査を終えたレタリア、グレイン、そして主任開発者のミレアの三人が顔を揃えていた。


「――レストフル宙域であなたたちが会敵した機体、ざっと確認させてもらったわ」


 ミレアが操作パネルを叩くと、部屋の中央に大型のホログラムモニターが浮かび上がり、回収された映像と詳細なスキャンデータが表示された。

 グレインが持ち帰った小型無人機の残骸と、レタリアが切り落として回収した濃紺の不明機の腕部パーツである。


「どうだった、ミレア?」


 グレインが尋ねると、ミレアは少しだけ困ったような表情を浮かべた。


「まあ……どこの所属のものかは分からなかったわ。ある程度は想像していたでしょうけれど」


「だろうな」


 期待しすぎていなかったグレインは、淡々と頷く。


「フレームや内部回路は大半が既製品の流用だけど、一部に独自規格のパーツが組み込まれていたわ。けれど、照会可能な製造番号や固有シリアルは綺麗に削り落とされていて判別不能。ただ……既存のパーツを巧みに組み合わせて作られたカスタム機、とも言えるわね」


 ミレアがモニターの表示を切り替えると、アーデンのカメラが捉えた濃紺の細身なマキナが立体映像として映し出された。特徴的なモノアイと絞られたスリムなフレームを持つ、異様なシルエットの機体だ。


「……かつて対峙したエスカド社という手の者たちとは関係ありませんの?」


 レタリアは、魔神『レストフル』を生み出した元凶であるエスカド社の名前を口にした。しかし、ミレアは軽く首を振ってそれを否定する。


「以前の無人機騒動の時の機体は、明らかに古い年代のものだったけれど……今回の機体はそう言ったロートル品じゃないわ。現代的な技術で設計された機体と言えるわね」


「そうなのですか……。ですが新しい機体と言う割には、大した武器も持ち合わせておりませんでしたわね。そもそもわたくしたちと戦う気すら感じられませんでしたわ。全く解せません」


 不思議そうに首をかしげるレタリア。

 その純粋な疑問の投げかけに、グレインとミレアは思わず顔を見合わせ、楽しそうにクスリと笑った。


「な、なんですの急に笑い出したりして!?」


 レタリアが困惑して眉をひそめる中、グレインが笑いを収めながら口を開く。


「いや、すまんすまん。だが君の言う通りなんだよ、レタリア。あいつらは最初から『戦うつもり』なんてさらさら無かったのさ」


 グレインの言葉に、レタリアの頭上に浮かび上がる大きな「?」マーク。


「小型機が持っていた武器はただの実体ブレードだけ。細身のマキナも、消音仕様の豆鉄砲のような兵器しか撃ってこなかった。フォトンエネルギーを放つ光線兵器も、火器らしい火器も、何一つ持ち合わせていなかっただろう?」


「それに加えて、あの『光学迷彩』ね」


 ミレアが補足する。


「そうですわ、隠匿の魔法……ではなく、こーがくめいさい。こそこそと隠れて、――あ」


 そこまで口にして、レタリアはハッとした。


「そういうことだ。あいつらは『レストフル宙域』の調査に来ていた、どこかの外部勢力のスパイさ。自警団や管理局の熱源センサーやレーダーに引っかかるわけにはいかないからな。だから光学迷彩を張り、熱やエネルギー反応を出す強力な武装を一切排除した、ほぼ丸腰に近いステルス状態で潜入していたんだよ」


「……そういう事でしたのね! だからわたくしのアーデンと真っ向から向かってこずに、一目散に逃げ出しましたのね!」


 謎が解けすっきりした表情を浮かべたレタリアは、ミレアが淹れてくれたハーブティーに口をつけた。


「ですが、仮にあの不埒な輩が本気で戦いを挑んできていたとしても、このわたくしの敵ではありませんでしたけれど!」


 いつもの高飛車で誇らしげな笑みを浮かべるレタリアに、ミレアも微笑みを返す。


「わざわざリスクを冒してまで調査に来るくらいなら、あの場所に目ぼしい遺物が何も残っていないことくらい知っていそうなものだけど……それだけ『レストフル』の存在が、他所の勢力にとっても気になって仕方がないのかもしれないわね」


「エスカドの遺産か。ロクなもんじゃなかったがな。……いや、アーデンという例外はあったか」


 グレインの言葉に、ミレアも同意するように頷いた。


「本当は今日、アーデンとリーズ、そしてラスタの3機の実戦データをじっくり分析するのを何より楽しみにしていたのに……先にこんな不法侵入者の解析をやることになって困ったものだわ」


 ミレアは苦笑交じりに肩をすくめ、それから眼差しをレタリアに向けた。


「けれど、レタリア。あなたのおかげで、スパイたちの存在をいち早く察知できたわ。本当に大きな手柄よ、ありがとう」


「俺からも礼を言うよ、お嬢様。レイダー共との戦闘も含め、お手柄だったな」


 二人の感謝の言葉に、レタリアは一瞬目を丸くさせた。


「ま、まあ! わたくしにかかればこの程度、大したことありませんわ! この程度の事、些事に過ぎませんわよ! おほほほほ!」


 高笑いを響かせるレタリアだったが、その両頬は喜びを隠しきれない朱色に染まっていたのだった。

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