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108話:ミレアへのお土産にしますわ

「っ!!」


 瞬間、レタリアは反射的にアーデンを急激に動かした。

 急制動によって猛烈なGが襲いかかるが、レタリアは強い負荷を力ずくで抑え込む。


 先ほどまでアーデンが滞空していた空間を、何か巨大な影が一瞬で通り抜けていった。


「グレイン! 何か居ますわよ!」


 レタリアは叫ぶと同時に機首を翻し、その謎の存在の追撃へと移った。


 不明な存在は、すれ違いざまに攻撃を仕掛けてきたようだったが、レタリアが超人的な反応で回避した後は追撃をかけてくる気配を見せず、一帯を離れるようにすさまじい勢いで加速していく。


「逃がしませんわよ!」


 レタリアは叫び、アーデンを急加速させた。


 謎の機体はかなりの高速で宙域を突き進んでいたが、レタリエム計画によって強化されたアーデンの速度は、明確にそれを上回っていた。


 猛烈に加速するアーデン。周囲のデブリが線のように後方へ流れていく。


 追いかけるアーデンの視界の中で、謎の機体の全貌が次第に鮮明になっていく。それは、濃紺ネイビーの装甲に包まれた細身のマキナだった。

 体を細長く直立させた状態のまま、一気に離脱を図ろうとしていたようだが、アーデンはすでにその背後へと追いついていた。


 濃紺の機体が直立姿勢のまま反転し、漆黒の銃口から黒い一閃を撃ち出してきた。

 それは通常のフォトンエネルギーではない、実弾による無音の攻撃。センサーでもほとんど捉えることのできない不可視の一撃であり、不意打ちであれば必中であろう極小の弾条であったが――レタリアの研ぎ澄まされた魔力は、その軌道を完全に見切っていた。


「攻撃、見えてますわよ!」


 アーデンを鮮やかにバレルロールさせ、実弾の軌道を紙一重でかわしながら不明機へと肉薄する。


「ふぉとんせいばー!」


 素早く抜き放った光の刃を構え、勢いそのままに一閃のもと切りかかった。


 繰り出した光刃の攻撃は、正確に不明機の胴体を捉えたはずだった。しかし――激しい火花が宙域に飛び散る。

 不明機は咄嗟に左腕を前に差し出すようにして、捨て身でフォトンセイバーの一撃を受け止めていたのだ。


 そして


 切り落とされた左腕の傷口から火花を散らしながら、不明機は姿勢を崩すことなく、即座に残された右腕の銃口から再び黒い弾丸を撃ち出してきた。


「っ、また……!?」


 至近距離での反撃に対し、レタリアはアーデンを間一髪で回避させる。


 そして、そのわずかな回避のすきを見逃さず、濃紺の不明機は残された推進力を使い、暗黒の彼方へと飛び去っていってしまった。


「お待ちなさい!」


 レタリアが悔しそうに叫んだが、間合いを離された不明機は驚異的なトップスピードを維持したまま、すでに遥か彼方の闇の中へと消え去っていた。

 アーデンは切り落とした不明機の左腕を掴んだまま立ち尽くした。


『流石にこれ以上は追えんな、レタリア。これ以上エネルギーを使うとセルディアに戻れなくなるぞ』


 いつの間にか、リーズの機影が近くまで到達していた。グレインが通信を入れてくる。


「ふぅ……まあいいでしょう、これくらいで簡便して差し上げますわ」


 追いかけるのを諦め、レタリアは小さく一息つくと、コックピットのシートにぐったりと体を預けた。


『大した武器を持ってない小型機ばかりだったな。……とりあえず、あっちでぶっこわした無人機の中で損傷の小さなヤツを俺が持って帰る。その切り落としたマキナの腕は君が回収して持って帰ってくれ』


 テキパキと指示を出すグレインに、レタリアは少しだけ肩をすくめた。


「仕方ありませんわね……。ミレアへのお土産にしますわ」


 そう言いながら、レタリアはアーデンを操作してセルディアへの撤収作業を始めるのだった。

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