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105話:もっと心から尊敬の目を向けても宜しいのですよ!?

 アジトの外。

 屋内での激戦が幕を閉じた頃、こちら側でも多少なりとも戦闘が起こっていたようだった。周辺の暗い宙域には、レイダーのものと思わしきマキナの残骸がいくつか静かに漂っており、激しい戦いの余韻が色濃く残っている。


『アランド、そっちの状況はどうだ?』


 グレインが通信を開き、外周の指揮を任せていたアランドに状況を確認した。


『はい、隊長。こちら側にも6機ほど逃げ出そうと出てきましたが、すべて制圧しました。逃がした奴はいません。こちらの被害も軽微です』


 アランドの報告にグレインは頷くが、すぐに割り込んできたラジェルが、少しだけ意地悪な煽るような口調で言葉を被せてきた。


『まあ、ヘルタのやつがちょっとしくじったくらいだな』


 見れば、包囲網に参加していたルードのうち、薄茶のロングヘアの女性――ヘルタが操る機体だけが、敵の抵抗を受けたのか右足を小破していた。


『うぐぐ……っ』


 普段は自分がラジェルを煽る側なだけに、見事に煽り返されたヘルタは、悔しそうに声を漏らすことしかできない。実際に目に見えるダメージを受けてしまっている以上、言い返せないのがなおさら腹立たしいようだった。


『そうか……。まぁ上々だな。中にいた連中も片付いた』


 グレインは一同の健在ぶりを確認して安堵の息を吐く。

 黒白のリーズのマニピュレーターには、アジトの司令室から回収してきた、犯罪者収容に使用している大型の避難ポッドがしっかりと掴まれていた。

 捕縛したレイダー達をこの中に詰め込んでいる。


「ふふふっ わたくしを相手にするには、少々物足りない方々ばかりでしたわ!」


 通信モニターの中で、いつもの高飛車な調子で誇らしげに胸を張るレタリア。しかし、彼女の規格外の実力を身に染みて知っている自警団員たちからすると、(だろうなぁ……お嬢様を相手にしたらそうなるよな……)という、もう慣れてしまった薄い反応しか返ってこなかった。


「ちょっと! なんだか皆様の反応が酷く薄くありませんこと!? わたくしは大活躍したのですから、もっと心から尊敬の目を向けても宜しいのですよ!?」


 予想外の塩対応に焦りながら抗議するレタリアの様子に、グレインを含む自警団員たちも緊張の糸が切れ、思わずドッと吹き出した。


 ひとしきり笑い合い、周囲の安全確認をひと通り終えた後、ステシアがコックピットで大きく背伸びをしながら、疲れ切った口調で漏らした。


『はぁ~……。それにしても、中にちょっと古いとはいえ本物の軍用機がいるなんて聞いていませんよ~! もう、本当にひやひやしましたぁ』


『あれ、そうなのか? こっちの外に飛び出してきたのは、ただのボロい継ぎ接ぎ機ばっかりだったぞ』


 アランドが不思議そうにステシアに返事をする。


『中にいた連中は、レイダーどもの精鋭、あるいはリーダー格の直属だったんだろう。実際、それなりの手練れも混ざっていた』


 グレインの解説を聞いて、ラジェルが感心したように口笛を鳴らした。


『へぇ、そいつは驚きだ。隊長とお嬢様はまだしも、あのステシアがそんな連中相手にまともにやり合えたなんてな』


『アンタ、どうせその新しい機体ラスタの性能に助けられただけでしょ』


 対抗意識だろうか、ヘルタの少し悔しそうな声が通信回線をチクリと刺す。


『そ、そんなことないよ! 未来のスーパーエース! このステシア・リニンの華麗なる神業的な戦いを見せられなかったのが、本当に残念なくらいなんだから!』


 ステシアは慌てて両手を振りながら取り繕うとするが、ヘルタの容赦ないツッコミが飛ぶ。


『どの口が言ってるのよ。ラスタの左肩、思いっきり破損してるじゃない』


『うぐっ……! そ、それは不可抗力! っていうか、ヘルタにだけは言われたくないよ!』


『アタシは足、アンタは肩。どっちもどっちね』


 いつものように賑やかなやり取りを繰り広げる団員たち。作戦が成功した安堵感からか、宙域にはすっかり緊張感のない、いつもの自警団らしいアットホームな空気が流れていた。


 そんな部下たちの様子を呆れつつも温かい目で見つめながら、グレインはリーズの機首をセルディアの方角へと向けた。


『やれやれ。それじゃあ、これ以上デブリが流れてくる前に、セルディアにこいつらを護送して――』


 グレインが帰還の指示を出そうとした、その瞬間だった。


 レタリアの感覚を何かが叩く。


「……なんですの? ……あちらから……?」


 レタリアの魔力がアーデンを通して遥か彼方から何かを感じ取る。

 彼女の瞳は、目の前の残骸でも、賑やかな仲間たちでもなく――はるか彼方の、光すら届かない暗黒の虚空をじっと見つめていた。

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