表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
107/132

106話:このわたくしの力を理解しているなんて、褒めて差し上げてもよろしくてよ?

『どうした、レタリア?』


 通信回線の向こうで、グレインが即座に反応した。他の隊員たちはすでに作戦完了の安堵から、各自撤収の準備を進めている真っ最中だ。


「グレイン、何かあちらの方角から、妙な気配を感じますわ」


 レタリアの言葉に応じるように、紫紺のアーデンがゆっくりとその腕を動かし、暗黒の虚空の一点へと指を向けた。

 その指の先には、傍目には何一つ存在しない、ただ闇が広がるだけの空間があるばかりだった。


『ふむ……』


 グレインは数秒間の沈黙を置き、リーズのセンサーをその方角へと向けたが、やはり目ぼしい反応は返ってこない。しかし、彼は迷うことなく全体通信を繋いだ。


『諸君、少し俺とレタリア嬢は別件で調査に向かう場所ができた。皆は予定通り、先にセルディアへ帰投してくれ。引き継ぎの指揮はアランドに任せる』


 突然の指示に、アランドが驚いたように応じる。彼ら隊員たちは、レタリアの先ほどの呟きを聞き流しており、異変に全く気づいていなかったのだ。


『はい……了解ですが、隊長、何かあったんですか?』


『取り越し苦労ならそれで良いが、あの方角に何かある可能性があってな。……ラジェル、帰路は機体を損傷しているヘルタとステシアに注意してやってくれ』


『了解です』

『オッケーです。二人の面倒は見ときます』


 アランドとラジェルがそれぞれ応じる中、ステシアが慌てた様子で通信に割り込んできた。


『えっ、隊長! 私のラスタもまだ動けますよ! 一緒に――』


 少し焦りの混じったその言葉を、グレインは優しく、だが断固とした口調で遮った。


『軽微とはいえ、ラスタも左肩を損傷しているからな。無理せず戻れ。それに、イチノセ女史が今すぐにでも戦闘データとその損傷具合を見たがっているはずだぞ』


『うぐぅ……』


 ミレアの名前を出されると、ステシアはぐうの音も出ないようで、大人しく口を噤んだ。


『すまんが、お前たちが持っている予備のエネルギータンクを、二つほどそこに置いていってくれ』


『了解!』


 自警団の面々は各々了解の合図を送り、タンクを射出すると、整然とした隊列を組んで帰還の途についた。


 ◆


 現在はレタリアのアーデンと、グレインのリーズ。その二機だけが、漆黒の宇宙のなかを並んで突き進んでいる。

 先ほどパージされた予備タンクからエネルギーを補給し、推進光を引いて走る静寂の世界。


『……なんだか静かだな』


 グレインの呟きに、レタリアはコックピットの中でずっと抱いていた疑問を口にした。


「グレイン、どうして何も言わずに、わたくしの言葉を信じてくださったのかしら?」


 かつてブラングたちを捕縛した時は、即座にゼインが救難信号を受け取ったというトリガーがあった。しかし今回は、何一つ信号も反応も受信していない。ただのレタリアの「勘」でしかなく、撤収していった自警団員たちも、内心では少し疑問に思っていたはずだった。


『魔力だろ? 君がアーデンを介して、遠方の何かを感じ取った可能性があっても、俺にとっては不思議じゃないさ』


 グレインの確信に満ちた返答。

 そうだった、とレタリアは思い出す。グレインは、彼女の持つ「魔力」の存在を把握しているのだ。この世界においては「エスパー」や「超能力」などと言われ、大半の人間からは眉唾物として扱われる未知の力。それを、グレインやミレアはすでに本物として受け入れている。


「そうでしたわね。ふふ、このわたくしの力を理解しているなんて、褒めて差し上げてもよろしくてよ?」


 驚きつつも、素直にお礼を言うのは少し気恥ずかしい。レタリアはいつものように、ツンとすました言い方で返した。


『御光栄だ、お嬢様』


 グレインが微笑みながらに応じ、それから少しの間、静寂が訪れる。

 二機のメインコンソールに表示される進行方位の座標を確認しながら、グレインが再び声をかけた。


『この方向にそのまま進み続けると……「レストフル宙域」がある。もしかして、君が感じているのはそこからか?』


 レストフル――かつてエスカドが遺した、あの大型機動兵器。レタリアにとっては「魔神」とも呼ぶべき存在。そんな怪物と死闘を繰り広げた、まさにその戦場となった宙域だった。


 現在では、重要な残骸やパーツなどは全て回収され、技術的な価値は残っていないはずだった。だが、そこで起こった事象の重大さを鑑み、セルディアの管理宙域の中でも、現在は特に厳重な「立ち入り禁止宙域」の一つとして指定されている。


「……恐らく、そうですわね。わたくしも最初はただ方向しか分かりませんでしたけれど……マップと照らし合わせるに、まさかと思っていますわ」


 レタリアはアーデンのコンソールに表示される複雑なマップを見つめる。この世界で多少なりとも過ごし、マキナを動かしてきた彼女は、すでにこういった電子機器の基本機能は把握していた。


『ふむ。価値のない廃墟に、どこぞの物好きかコソ泥が入り込んだのかもしれんが、あの場所だ、警戒するに越したことはないな』


 リーズの出力を一定に保ちながら、二機はさらに速度を上げて進む。

 やがて、かつての激戦の跡――ねじ切れた装甲や、機能を失って凍りついた人工物の残骸が、遠くの視界にうっすらと見え始め、二機はレストフル宙域へと足を踏み入れた。


 かつての戦場であったデブリが漂う、その不気味な沈黙の中で。

 レタリアの魔力が蠢く存在を捉えた。


「居ますわ、何かが……! 確かにこの奥に、潜んでいますわ!」


 レタリアの声が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ