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104話:私だって……やれるんだから!

 レタリアの新生アーデンは、猛然と眼前の3機へと突き進む。


『なんだ、速い……っ!?』


 アーデンに対峙するレイダーが焦りの声を上げた。残骸の継ぎ接ぎで作られたこのアジトの屋内は、視界も悪く狭い閉所。そんな場所でここまで異常なトップスピードを出して突っ込んでくることに驚愕し、敵の3機とも動きが完全に鈍る。


「ぼーっとしておりますのかしら!?」


 その隙をレタリアが見逃すはずもない。アーデンは一瞬で間合いを詰めると、1機目の機体に強烈な正拳突きを叩き込んだ。凄まじい衝撃がアーデンのフレームを伝うが、レタリアは即座にもう片腕を打ち込む。追撃をモロに食らった敵機は、全く反応すらできずに沈黙した。


『くそっ! やれ、撃てっ!』


 目の前で仲間が瞬時に鉄塊に変えられたことで、残る2機のレイダーには目に見えて焦りが生じていた。動揺の色の隠せない、精彩を欠いたフォトンライフルの射撃がアーデンを襲う。


「そんなもの、避けるまでもありませんわね! ――ふぉとんせいばー!」


 レタリアは光の刃を抜き放つと突進、瞬時に2機目に肉薄し、その両腕を鮮やかに切り落とした。そして勢いのまま胴体へと強烈な蹴りを見舞う。両腕を失った2機目は無残な姿のまま吹き飛び、後方の壁面へと激しく激突した。


「これで終わりですわよっ!」


 残された最後の機体に対し、アーデンはさらに猛烈な加速を見せる。逃げる暇さえ与えず敵機の腕を掴むと、そのまま凄まじい力で壁面へと叩きつけた。質量と速度の乗った衝撃によって、敵機は耐えきれずに機体を半壊させた。


「あら、手ごたえがありませんわね!」


 息一つ乱さず、レタリアはフッと不敵に笑った。


 ◆


 一方のグレイン。

 リーズのシートに深く腰掛けた彼は、センサーが捉えた敵機の詳細データを確認していた。一帯に潜んでいた敵機は、すべて『ファンネス』という名称の機体だった。


『なるほどな。やや型遅れだが、元は正規の軍用機か。レイダーにしちゃ高級なおもちゃを持ってるじゃないか』


 性能だけを見れば、現在自警団が運用している汎用機ルードとそこまで大きな差はないだろう。


『だが……それだけだな』


 そう言いながら、グレインは冷静に引き金を引いた。

 新型機リーズに装備された試作型フォトンライフル「アルシアン」の機能の一つ――バーストモード。

 三連射で正確に撃ち出されたフォトンの光弾は、闇に紛れていたファンネスの胴体を寸分の狂いもなく的確に捉え、瞬時に機能停止に追い込んだ。


『くそっ! ふざけやがって、このッ!』


 仲間を撃破され、激昂した最後の一機がフォトンセイバーを起動して突っ込んでくる。グレインがバーストショットを放った直後、わずかに生じる硬直の瞬間を狙った的確な一撃だった。


 しかし、グレインのリーズもまた、即座にフォトンセイバーを抜き放って迎え撃つ。まばゆい光を放ち、両機の光刃が激しくぶつかり合った。

 その火花が散る至近距離の瞬間、グレインは空いているもう片腕のアルシアンの銃口を突きつける。


『そうはいかねぇ!』


 それを警戒していたのか、敵機は機動性を活かして即座に後方へとバックステップを踏んだ。しかし、リーズの超反応からは完全に逃れ切ることはできず、左足にフォトンライフルのエネルギーが直撃する。


『づっ……!? ニスタリオの自警団より、遥かに強えじゃねえか……!』


 機体を揺らしながら、相手の通信から明らかな焦りの言葉が漏れ出た。


『そりゃあ嬉しいお言葉だ。こちらの励みになる』


 グレインは至って冷静に、余裕を持って返す。

 相手の一連の回避行動を見るに、ただの不逞の輩ではなく中々の手練れだ。この腕前と機体性能があったからこそ、ニスタリオの自警団も捕らえきれずに手を焼いたのだろう。


 だが、グレインはさらにリーズの出力を跳ね上げ、一瞬で機体を加速させた。


『なにっ――』


 敵機が驚愕の声を上げた瞬間には、すでに勝負は決していた。リーズはすれ違いざま、一閃のフォトンセイバーでファンネスの胴体を横一文字に両断していたのだ。

 通り抜けざまの急制動により、コックピットのグレイン自身にも強いG(負荷)がかかる。もしソラが仕上げてくれたあの特製スーツを着ていなければ、反動でコンソールに身体を強く打ちつけていたところだった。


『……っ! ふぅ。コイツ(リーズ)の性能を試す相手としては、少々物足りなかったな』


 頼もしい愛機の力を実感しながら、グレインは小さく息を吐いた。


 ◆


 その頃、もう一方の通路を担当していたステシアは、苦戦を強いられていた。


 ステシアは接敵と同時に、手にしたアルシアンを放っていた。しかし、視界も悪く障害物の多いアジトの中、センサーの狂いもあって彼女の放った射撃は、惜しくも敵機の脇をかすめていった。


『外した……! くっ、来るっ!』


 正面から対峙する2機のファンネスが、ステシアのラスタに向かって同時に突っ込んでくるのが見えた。

 ステシアは慌ててフォトンセイバーを抜き、迎え撃とうとする。


『うわ、うわわっ!?』


 容赦なく繰り出される敵2機のフォトンセイバーを、シールドとセイバーで必死に捌きながら、ラスタはジリジリと後退を余儀なくされる。


『やばいやばい、間合いが近いって!』


『なんだぁ? 大層な新型に乗ってると思ったら、その白いヤツ、中身は大したことねえな!』


 レイダーが勝ち誇ったように笑いながら、至近距離から実弾のマシンガンを掃射してきた。

 ステシアはラスタをサイドへスライドさせて回避を試みたものの、反応が一瞬遅れ、ラスタの左肩の装甲へ激しい着弾の衝撃を受けてしまう。


『くっ……!』


 初動であっという間に敵を各個撃破した隊長のグレインや、フィジカルと圧倒的な反射能力で相手を物ともしないレタリア。

 ステシアには、そんな天才的な才能も、特別な力もあるわけではなかった。


 でも――。


『やらなきゃ……! 私は、みんなの期待を背負っているんだから!』


 本当は、ステシアが「ごく平均的で標準的な能力のパイロットだから」という理由でラスタの専任に選ばれ、その理由を知らなかったが、

 その「期待」を原動力に自らを奮い立たせる。


 ラスタがマシンガンの猛射によって退避した先へと、すかさず1機の敵がフォトンセイバーを突き出してきた。


『……そこっ!』


 ステシアはラスタを急速後退させた。敵機の速度を上回るスピードと反応を見せるラスタの機動が、咄嗟の回避を可能にする。


『なにっ!?』


 驚愕したままの敵機に向かってラスタは左腕にハードポイントされたハンドキャノンを引き撃ち気味に連続で放つ。


 不意のカウンターに敵のファンネスは対応できず、右肩、脇、左肩へと立て続けに弾丸を叩き込まれる。突撃の勢いを完全に殺された敵機は後方へと吹き飛び、さらにステシアが放った最後の一撃がその頭部カメラを正確に破壊した。ファンネスは機能を失い、その場で力なく漂った。


『ちっ! 油断しやがって!』


 残された最後の一機のフォトンライフルが、ラスタへ狙いを定める。

 放たれたフォトンライフルの光弾に対し、今度のステシアは冷静だった。ラスタのシールドをきっちりと正面に構え、その弾丸を受け止める。


『私だって……やれるんだから!』


 ――「お前は射撃のセンスは悪くない。慌てずに集中しろ」


 以前、訓練中にグレインから受けた不器用なアドバイスが、脳裏を過った。

 敵機の猛射を盾でしっかりと弾き、視線を安定させながら、ステシアはアルシアンのエネルギーをチャージしていく。


『……そこだっ!』


 チャージを終えたアルシアンの銃口から、太く赤い光条が激しく撃ち出された。その一閃は、敵機が咄嗟に掲げたシールドごとファンネスの機体を貫通し、一撃で爆発へと追い込んだ。


 立ち上る煙の中、ラスタがゆっくりと武器を下ろす。

 こうして、アジト屋内における苛烈な戦闘は、レタリア達3人の完全な勝利によって幕を閉じたのだった。

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