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第二十二話 金剛石

 戦闘は始まる。

 その一瞬で、世界は一変する。


「覚悟!!!」


 ボルダンが、俺との間合いを詰める。

 大きな声出して間合いを詰めてくるのだが、コイツは戦闘ですらこんな声を出しながらじゃないと戦えないのだろうか。


 俺は後ろへと下がりながら、難なくボルダンの攻撃を避ける。

 少し味気なさを感じる攻撃だ。


「まるで、注目を集めたいような攻撃そう思わないか───新人」


 清水の中に混じる泥は、よく目立つ。

 例え流れに乗っていようとも。


「なっ、ばれた!?」


「気配が消しきれていない、これじゃあ及第点すらもらえないな」


 俺は腰を落とし、リズム良く二人の腹部に鉄棒の先をたたき込む。

 その動きに迷いはなく、彼らに己が敵と認識されているという事実をしっかりと突きつけた。


 二人は一撃を入れられてすぐに後ろに下がる。

 しかし、俺に余裕を与えないようにリンカとシャーミーが即座に間合いを詰め、攻撃を開始する。


 姉妹愛を感じる互いの事を理解し合った攻撃で、リンカの攻撃が繰り出されるとそのすぐあとにシャーミーの攻撃が向かってくる。

 俺はそれを鉄棒で受け流す。


 時間をかけるほどその攻撃は激しさを増し、俺の腕だけではさばききれなくなってくる。

 いくつかの攻撃が防御を越えて俺に向かってくるが、それは体を回して避ける。


「素晴らしい連携だ」


「お褒めにあずかり光栄ですわ」


「だが、俺を仕留めるにはいささか弱い。もう少し攻撃に密度を上げることを提案するよ」


「これでも、私たちの限界なんですよ」


 そうか。

 それは───


「言ってはいけない情報だ」


「え?」


 俺はシャーミーの攻撃を受け流すのではなく正面から受け止める。

 そして、全力で上に振り上げる。


 すると二人の勉強机と椅子のように噛み合っていた関係は一瞬にして崩壊の兆しを示す。どちらかがないと、不便が生じる。この場合は亀裂だが。

 隙を与えまいとリンカが空いた隙間を埋めるように攻撃を繰り出すのだが、俺はそれを避ける。


 すると、本来はここにシャーミーの攻撃が来るのだが攻撃を力任せに弾かれたシャーミーは攻撃の体勢に移れない。

 俺はそこで間髪入れずシャーミーに蹴りを入れる。


「ッ!!!」


「シャーミー!!!!」


 リンカが、その様子に我慢できず大きな声を上げる。

 しかし、その体は俺の方を向いている。申し訳程度の戦意の表れだろう。


「お前たちの姉妹愛は、実に素晴らしい。だが戦闘には少し不向きかもな」


 俺は勢いそのままに体をぐるりと空中で回る鞠のように回転させ、リンカにかかと落としを決める。

 優しさはない。別に骨折ぐらいならゼンに治させる。


「死の瀬戸際を経験しろ、若輩者よ」


 彼らには死体が足りない、死の経験が足りない。

 己が完膚なきまでに敗北するその瞬間が足りない。


「と、俺は思うんだ。ボルダン」


「気配完全に消したと思ったのですがッ!!!」


 頭上に現れたボルダンが剣を振り下ろす。

 俺はそれを、左足を支点にして右足をぐるりと後ろに回して回避する。


 いくら気配をうまく消せていても太陽によって生み出される影は消すことはできない。

 それが自然というものだ。


 ボルダンは華麗に着地を決め、俺への攻撃を再開する。

 最初と同じような見た目だが、決定的に違うのが、新人が未だに復帰できていないことだ。


 さすがに貴族様に顔はやばいよな、と思い腹にしただが思いのほか決まったらしい。

 ボルダンは一人でも負けん気を見せて、俺と一対一をすると決意したらしい。


 ボルダンの剣が俺の鉄棒に当たり、甲高い音が何度もこの空間に響き渡る。

 その頃には周囲の団員たちも一観客となり楽しそうにヤジを飛ばしていた。


 みなとても楽しそうに笑っており、どこかで賭け事も行われていてもおかしくなさそうだ。

 見世物のようになってしまったな。


 そうだな。

 少し観客たちに見せてあげようか。


「頭。失礼するぞ」


「はい?」


 俺はそう言ってボルダンの頭を強引に掴み、それを使って空中にシャボン玉のように浮上する。

 浮上というか、無理矢理登っただけなのだがどっちでも一緒だろう。


 そして、鉄棒を構えてボルダン目掛けて連撃をたたき込む。豪雨を連想させる程の連撃で、俺は鉄の棒の先をたたきつける。

 それによって砂埃が盛大に上がり、ボルダンを隠してしまう。


 正確に言うと鉄の棒を真上からたたき込むと死んでしまう可能性があるので、着地の時に背中を優しく蹴っておいた。

 しかし、砂埃によってそれが見えない観客たちは俺が連撃によってボルダンを倒したと思い込み、大きく声を上げた。


 空中での観客への配慮が終わった俺は地面に着地するのだが、すぐさまそこを動くことを強いられる。

 俺の着地したところには剣を構えたリンカが立っていた。


 あの攻撃から復活し、俺の着地場所を予測してここまで来たようだ。

 なんて邪魔くさい奴だ。


 だが。

 それでいい。



 それがいい。



「褒めてやるリンカ、お前が今までで一番嫌な奴だよ」


「感謝の花束を投げつけてやりますわ」


 リンカはそう言いながら、俺に横腹に剣をたたき込む。

 しかし───


「え?うそ!?」


 俺にもお前らの隊長としての誇りがある。

 部下に負けるようじゃ、隊長は名乗れないよ。


「今のを防いだんですの!?」


「それぐらいできないと、お前たちの四人を同時に相手にすることができないんだよ」


 俺は、落下しながらリンカの攻撃を受け止めてみせた。

 運良く右側を攻撃してくれたら助かったが、もし左だったら俺の横腹にあざができていただろう。運も実力のうちだ。


 俺は攻撃を無事に受け止め着地するが、リンカはその間に突き出していた剣を引く。


「だったら」


 ん?

 だったら何をする気だろう。まだ奥の手的な何かを隠し持っているのか?


 リンカは腰を深く落とす。

 剣を右手で握り、時間の流れを遅くするかのようにゆっくりと息を吐く。


「柊流───」


「なっ!?」


 コイツは今、なんて言葉を口走った!?

 なぜコイツがそれを知っているんだ!?これは誰にも伝授していないはずだぞ!!!


「我─────」


「そこまでだッ!!!」


 こうして、俺とアーテーとの間の模擬戦は鶴の一声によって終了させられる。

 声のした方をリンカと一緒に見てみると、そこには怒っているようで少し喜びを感じさせるニーカさんが立っていた。


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 それではまた次のお話で会いましょう

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