第十三話 反転攻勢
「ええ!そうなんです大臣、この書類に書かれている者はみなあの忌まわしき帝国と秘密裏に交友関係を構築している裏切り者なのです!」
俺は民衆を扇動する政治家のように、声を張り上げて大臣に訴える。
彼らは裏切り者だと、滅するべき者たちだと。
書類に記載している内容、俺の発言に大臣は激しく動揺する。
汗をだらだらと流し、小言を恐ろしく速い速度でブツブツとつぶやき、自分の世界に入っていく。
のではな取り乱した取り乱したもののすぐに落ち着きを取り戻して見せた。
さすがは大臣、皮の厚さが分厚いな。
「しかし、彼らが本当に帝国と関係を持っている証拠は?」
「そうですよね、本当に彼らが帝国と関係を持っているのか」
俺がでっち上げた嘘かもしれない。と誰もが一度は考える。
しかも、かなりの数の貴族だ。これほどの者が本当に関係を持っているということは簡単には信じられないだろう。
「私も証拠を出して差し上げたいです。しかし!私がここで証拠を見せたところでそれは果たして本当に証拠と言えるのでしょうか?」
その答えは簡単───言えない。
俺がその事を表わす書類を大臣に提出したところで、俺が作成したものである可能性があるのだ。
しかし、だからといって大臣にはそんな事はないと言うことはできない。
もしかしたら王国内で帝国陣営の反乱が起こる可能性を秘めてしまうのだ。俺のこの発言をありえないなんて一言で無視するのはかなり危険な博打なのだ。
その事実を大臣が知っていながら無視できるだろうか。
もし反乱が起きたとき、俺が他の有力な貴族に対してこの事実を告げた場合大臣は間違いなく失脚する。
ここで彼がこの話を無視する方法はないのだ。
できる事はこれが真実は確認をどうにかとるか、早々に対応策を練るかのどちらかだ。
さて、彼はどちらを取るのか?
「大臣どういたしますか?ご自慢の密偵に探らせますか?それとも早期に潰しておきますか?何かあってからは遅いですから」
俺は、煽るように大臣に質問をする。
本当はしてはいけないのだが、まあ大臣に意見をする心優しい騎士団員だと思っていただければ問題ない。
[後から今回の件で訴えられたりしてね。そうなったら、私はマスターを変えるわ]
なんて調子の良いことを、ゼンはペラペラと話している。
俺以外にマスターに適任な人材がいるか、間違いなくコイツはよそじゃ受け入れられないね。
これほどの問題児を誰が受け入れきれるんだか。
教会ですら放棄するね、絶対に。
「…………。エリスさん、少し席を外してもらっても良いでしょうか?呼び出しておいて申し訳ないと思いますが、彼と話がしたいのです」
大臣は苦し紛れの時間稼ぎのように、ニーカさんの退出を懇願する。
呼び出しておいて自分の立場が危うくなったら逃げようとする(俺とは話すが)。俺だったら、間違いなく断るね。ここで打って出るべきだ。
[だがしかし]
そう、だがしかし、ニーカさんはどこまでも優しいのだ。
誰にもその優しさを振りまく、無限の優しさを持っている。
「分かりました。外で待っています」
そう言って、ニーカさんは立ち上がり一度頭を下げて、部屋を出て行ってしまった。
全く自分の身が危ういと心配していたのにここで情を持つとは……。
今後の自分たちの行動に足枷を付けられないようにするには絶対に聞いて、弱みを得た方が良い場面だ。
国の二番目を操れるのだ。今度の大きく影響するだろう。
どこまでも優しい人だ。
俺とは違う。
「それで」
ニーカさんの退出───扉が完全に閉まる瞬間を目にした大臣は、紙束を机に投げる。
まるで、それを持っている事すら億劫と思っているようだ。
わざわざ用意してやったの酷いじゃないか。
そんな、危険物を手放すみたいな。
「これは、本当ですか?」
「私は信頼できる筋からの情報をアナタに提示しています。もちろん、信用しないのはアナタの勝手ですよ。しかし、アナタが信じるなら私は全力で支援しますよ」
「支援……ですか」
「ええ、国を救うためです───貴族狩り。好きでしょ、貴族の方は特に」
定期的に森に行って動物を狩る。
それが人間に変わるだけだ。普通の狩りよりも簡単に立場をあげる事ができる。
[性格が悪いわよ。少し落ち着いたら]
大丈夫、これでも俺は落ち着いている。
とても冷静だ。
「…………アナタを信用はできません。しかし、これが事実であった場合早期に対策をする必要があります」
「そうですね」
「ですので、アナタにはこちらで指定した貴族の一人から証拠を得てもらいますよ。私の部下を一人か二人連れてもらって、彼らの目の前で得てもらいます」
その部下を証人にして、この件の確実性を確かめたいのか。
そして、大臣自ら選ぶことによって不正の阻止と目障りな貴族の処断を並行して行う。
効率的だな。その貴族が周囲から嫌われているのならなお良い。
誰も気にしないし、幸福感すら与えるだろう。
大臣の出した折衷案だ。
信じないにしては事が大きすぎる。が、信じるにしても少し信憑性に欠ける。
彼が苦悩の末に導き出した案。
実に滑稽だ。愉快だ。満足だ。
「どうでしょう?とても良い案だと、私は思うのですが」
大臣の額に汗が垂れる。
交渉の最後。全ての交渉の価値を決める一手。
これが拒否されれば、交渉に行った者は無能とされる。
まあ、今回はあまり関係ないがそこは別に大切ではない。
「もちろん、そちらの案で結構です。とても良い話し合いができてうれしいです」
俺は満面の笑みを浮かべる。
まるで欲しかったおもちゃも貰った子供のように、純粋で無垢とはかけ離れた笑みを。どす黒い、漆黒に支配された邪な笑みを。
「それで、お話の方は以上でよろしいでしょうか」
俺は、話はこれで終わりかと大臣に聞く。
誘われた側が偉そうだと感じるかもしれないが、大臣からしたらこの方が好ましいだろう。
かなり疲れたはずだ。
今すぐにこの悪夢から解放されるのなら、されたいはずだ。
「はい、実行日については今日中に手紙を出します」
「かしこまりました」
そう言って、俺は椅子を立つ。
もうここにいる理由はない、いたくもない。
早々に出てしまおう、こんな陰湿な部屋からは。
ジメジメとしていて、おっさん臭い。ヘドロのようなものを感じさせる。
俺は、捨て台詞のようにそんな事を思いながら部屋を後にした。
扉が閉まる直前に、大きな大臣のため息が聞こえた気がしたが。
別にどうでも良いことなので忘れてしまおう。
今回の交渉は成功に終わった。
完璧ではないが、及第点は与えられるだろう。
と、どっと疲れを覚えた俺は、心のなかでゼンとハイタッチをするのだった。
成功は良かったが、少し譲歩をしたのだ。
今日は一日中寝ていたいな。
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