第十二話 性根の腐った者たちのダンスパーティー
「それで、今回アナタに言いたかったことはですね」
そう、大臣は机に置かれたお茶の香りを嗅ぎながら話し出した。
余裕が溢れている。というよりは、ニーカさんの苦しむ姿を想像して喜んでいるように感じられた。
全く性格が悪い人間だ。
今すぐ殴りたくなる。
[やめなさい、感情に身を任せると後悔するわよ]
いつぞやかのお前にみたいにな。
[その話を持ち出すんじゃないわよ!!!]
心の中でゼンと軽口を交わしながら、俺は大臣の発言の一言一句を聞き逃さないように耳を傾ける。
一瞬の油断につけいるために。
「今回の作戦の失態ですよ。王は姫のこともありアナタを信用していましたが、私ども貴族はアナタを信用できないんですよ。なんですか、多くの兵士を───殺した。その事実を化け物がやった?ふざけているのですか?ここは勇者の冒険譚を披露する場ではないのですよ?」
大臣は、ニーカさんを責めて立てるように呼吸を一度も入れずにそう言い切った。
相手の感情を逆なでするように、嫌がると分かっていながら、嫌がる事を狙ってしてくる。
性格の悪さがよく分かる。
この場で別にそこまで強く言う必要はない。
ニーカさんだって騎士として数年働いている。王への報告の場がどういったものかだって分かっているし、仲間の大切さだって身に染みて感じているはずだ。
仲間への情がないような人物が、ああもたくさんの騎士団から信頼されるわけがない。
また、兵士を殺したという発言は、ニーカさんがしたという言い方をしているようにも捉える事ができる。
というか、今のニーカさんならそう解釈するだろう。間違いなく。
それを分かっていて、そうなるように事前に準備しておき、今のこの場でそう口にしたのだ。
なってほしくて言ったのだ。
自責の念に潰されるように。
「しかし、私たちは騎士であるアナタたちを疑いたいとは思ってはいません。簡単に騎士という役職を開けてもらっても困りますからね」
大臣は、匂いを嗅いでいたお茶に少し口を付けて机に置いた。
まるでこの後の発言を渇望させるように。緊張感を最高点まで持って行くかのように。
一口。
それだけ。だが、それで十分。
「アナタには他の貴族たちの媚びを売るべきだと私は考えます。もちろん、私個人の意見ですし、それをいやだと言えばそれでお話は終わりです。その後にアナタたちどうなるかは、私は存じませんがね」
優しく笑みを浮かべながら、大臣は俺たちのその瞳で見つめる。
俺たちの奥底を見るかのように、その瞳でじっくりと、しっとりと。
心の中に入ってくる。
そう、ありえない事だが思ってしまう。錯覚してしまう。
ああ、しょうがない。
もうこうするしかないんだ。私にはそうすることしかできない。
[だめね、完全に洗脳されかけてる]
たくさんの事実と行動がニーカさんの心を侵食する。
まるでスポンジに水がしみこむかのように、しっかりとその奥底まで。全てに広がる。
「私だって提案した側です、アナタに邪な魔の手が向かわないように配慮しますよ。初めては大切な相手につかいたいでしょう?」
もうその笑みには優しさなんて感じない。
獲物を見つけた───否、捉えて食べるのが楽しみな肉食動物の目だ。
真っ赤に染まった、悪魔の形相だ。
見覚えのある、とても不快な瞳だ。
何度俺はこの目を見てきただろうか。
そして、それに晒される者の苦しみを聞いただろうか。
その瞳は───ただ不快。
見ていて不愉快な、モノだ。
「は、はい。そう……ですね……」
「ええ!そうでしょう。そうでしょう。ですから、今後の行動は───」
ゼン。
[何?]
行くぞ。
「───了解」
「大臣。そのとても興味深いお話の前にこちらの資料に目を通していただきたく思います」
俺は、そう言いながら一枚の紙束を取り出す。
とても貴重な紙を束で、大臣の前に晒してみせる。
俺の行動に大臣は酷く不快そうな顔をした。
そうだろう。俺だって気持ちよく交渉が終わりそうなところで邪魔をしてきたら実に不愉快だ。邪魔とすら感じるだろう。場合によってはつまみ出す。
だが、俺のこの行動は交渉でも、譲歩でもない。
脅しだ、脅迫だ、殺しだ。
大臣は、ペラペラと紙束の中に書かれたモノを見る。
最初が困惑顔で紙を進めておき、途中で一度俺の顔をチラリと見るが、やはり理解できないという顔をしていた。
「なんだね、これは。これだけの貴族が名前を書き起こしたのは素晴らしいとは思うが、私の話を邪魔するほどの価値があるとは思えない。紙の自慢でもしたいのか?」
「いえ、違います。最後までお読みください。時間はありますので」
今は早朝、使用人が汗水垂らしながら働き、貴族が気持ちよく寝ている時間だ。
いくらでも時間はある。有り余っている。
「無駄な時間稼ぎはやめてもらいたいのだが?」
「いえ、決して無駄ではありませんし、時間稼ぎではありません」
「そうか、ならもし無駄だと判断したら君にはそれ相応の処罰は受けてもらうぞ」
「ええ、どうぞお好きに」
俺は、先ほどの大臣のように優しい笑顔を浮かべてそう返事をする。
この情報を見て、はたして彼がどれほど精神を保っていられるか。
大臣は、疑い深そうに俺を見てから再び紙を読み進める。
そこにはずっと貴族の名前しかない。どれだけ読み進めても、思考を巡らせても貴族の名前しか存在せず、それ以上でもそれ以下でもない。
[大臣、かなり考えているわ。それはもう頭の中で処理しきれているのか分からないほどにたくさん。ここに書かれている貴族の共通点を探してる]
ふーむ、結構。
それでさ、話変わるんだけどさ。
[何?今忙しいんだけど]
相手をいじめるときってさ、ゆっくり痛めつけてじっくりする方が好まれるんだけどさ。
俺は思うわけだ、そんなに時間をかける必要ないんじゃないかって。
そんな、鍋の中に入れて一から煮ていくみたいなことするんじゃなくてさ。
大臣の手が最後の一枚の紙を見て止まった。
それは決して紙を読み終わったからではない。その一文で激しく混乱したからだ。
[大臣の動揺を確認。激しく動揺してるわ、このままいじめなさい]
分かってる。
「以上の者が帝国と密接に関係を持っている!!!?????」
─────熱々の鍋に全力でぶち込んだ方が面白いんだよ。
さあ───俺たちの時間だ。
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