第十一話 永久
秘書に案内されて、俺たちは王城の中を歩く。
俺たちの他のも王城で働いていると思われる使用人たちが廊下を行ったり来たりしており、早朝から忙しいようだ。
時間的にはほとんどの貴族が来てもいないし、起きてもいないと思うが、王家の朝食を作ったり、朝風呂の準備をしたりと仕事が多くある。
俺はやったことはないが(やりたくもない)、王城の使用人が一番忙しいらしい。前世での王城での知り合いにそう言われた。
なんでも「侯爵家の仕事の方が絶対に楽だ」と言っていた。
侯爵家の使用人の仕事が俺には分からないので、絶対にそうだとは言えないが、それほどまでに王城の使用人は忙しい。
しかし、忙しい割にあまり人を多く雇わない。
基本的に貴族からの贈り物として使用人は送られる。有能な使用人ほど王城で人気を集め、それを育てたとして名を上げられる。
なので平民からの募集ではなく、貴族からの贈り物たちの集まりだ。
名を上げられる術だが、使用人が失敗すれば逆に嘲笑されるのでなかなか危険な行動でもあるのだが、四大侯爵は多くの使用人を毎年王城に派遣している。その分、その名は確固たるものになっている。
別に使用人がいなくても、平気だとは思うがな。
名を確かなものにして、しっかりと王国での立場を確立させておきたいのだろう。
そんな事を思いながら歩いていたら、秘書がある一室の前で立ち止まった。
ここに彼がいるのだろうか。
「ヘルメー大臣。騎士兼リヴァイヴァル騎士団団長エリス・ニーカ様とその付き人が参りました」
中からどうぞ、と入室を促す声がする。
その返事を聞いて、秘書が扉を開ける。
開いた扉から鋭い殺気を感じて俺は立ちすくむ───という訳ではなく、普通に部屋に入った。
中は装飾が輝いていることもなく、かなり落ち着いた木造の家具が多く配置されていた。
かなり落ち着きを感じて、交渉の場としてはとても満足できるものが用意されていた。
「昨日ぶりですね。後ろの方は初めまして」
「どうも、今日もよろしくお願いします」
「お初にお目にかかり光栄です。アイン・イーノスです」
俺は、頭を下げながらそう言った。
俺の立場からしたら圧倒的なまでに目の上の人物だ。決して俺が余裕をぶっこいて偉そうな顔をしてはいけない人物だ。
『ヘルメー・フォン・ベネルクス』この国の全てを支配していると言ってもいい程の権力を持ち合わせ、王家の次に権力を持っていながらそれを個人で行っている天才だ。
王家もとい国が肉体なら、彼は脳、それかその全身を担当していると言える。
「どうぞ、二人ともそちらにおかけになってください」
ヘルメー大臣は、背もたれの付いた長椅子を指さしてそう言った。
そこに、一度礼を述べながら俺たちは座った。
別に何か仕掛けがあるわけでもないのだが、どうしても裏があるのではないかと警戒してしまう。
失礼だと思う人もいるかもしれない。しかし、交渉の場では目が合った瞬間から相手に全ての動きが見られていると判断した方が良い。
一瞬の油断が、一生の汚点のなる可能性もある。
そう、今回のような大きな問題が……ん?
俺の頭にビビビっと何かが走った。
それは全身を駆け巡り、最終的に隣のニーカさんに行き着いた(ように感じた)。
そういえば、なんで呼び出されたんだッ!?
[あほくさ]
今この交渉の席にいながら、俺はこの交渉の行き着くべき場所が全く分からないことに気づいた。
俺たちははたしてなんで呼ばれたんだろうか? 今回の任務による騎士団の存続危機?それとも騎士の称号剥奪とかか?
どちらも悠長な事を言っていられない事態なのだが、本当に俺たちはなぜ呼ばれたのだろうか。
ゼンさん、読んでしまいなさい。
[見てすらないのにイメージで名門のおじいさんを演じないで]
なかなか手厳しかった。
見たこともない人物を演じたんだ。少しぐらい優しくしてくれ。
[うーん、どうやら私たちは呼び出されただけみたい]
呼び出されただけ?
じゃあ、ニーカさん自身今まで何が起こるか分かっていなかったと言う事か。
やけに緊張していたわけだ。
激しい緊張に疑問を感じていたが、何を言われるか分からなかったからより一層緊張をしていたのか。
自分、もしくは自分の育てた騎士団がなくなるかもしれないんだ。きっと愛着もわいているだろう。
それが失われるのかも、とずっと悩まされていた精神的に辛いはずだ。
[えらく説明するのね]
まあな、大臣の第一の攻撃がこれだし。
精神を不安定にして交渉の席で正常な判断をしにくくする。判断を鈍らせるとでもいえばいいだろう。
俺がいなかったら、ニーカさんはかなり不安定な状態で交渉をすることになっただろう。
アーノさんをついてきてくれれば良かったのだが、騎士団の運営をニーカさんの代わりにしているのでさすがに厳しいだろう。
この大臣との交渉は、主に俺がニーカさんの支援をしながら行った方が良い。
大臣がこの交渉の前からこちらに攻撃を仕掛けていたのは驚いたが、俺が(というが誰でも良い)いれば精神の不安定は対応できる。
「前置きはいいでしょう。時間も私もアナタもないでしょうし」
「はい、ヘルメー大臣の時間をあまり使うわけにはいきませんから」
と、交渉の前の一言を終え。
この戦争の火蓋が切って落とされるのだった。
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