第三話 質的優位
「こちらが君たちの部屋になります」
アーノさんの部屋の後ろをついて行くと、本部の一番端の部屋に着いた。
どうして端だと分かるのかというと、もう廊下が続いてないからだ。
窓からは外に景色が見えている。
きれいな青空だ。
「え?物置感すごいんだけど。しかも君たちって、一人一部屋じゃないの?」
「無理ですよ、一人部屋なんて。今ですら四人一部屋でなんとか保てていたんですよ。それなのに急に三人なんて。あっフィネルさんは使用人部屋の方ですので、こちらに付いてきてください」
アーノさんは、ゼンの事を難なくいなして母さんを連れて去って行った。
ゼンの扱いをもう既に把握している。完全ではなくとも、ゼンの対処方法をもう己の中で確立していると、俺は感じ取った。
さすが副団長だな。
今まで見てきた人の数が俺とは違うのだろう。あっという間に対処法を思いつくとは。俺も後で聞いておかなくては。
「ああ!!! 王都に着いてから良いことと言ったらフィネルのお菓子しかないんだけど!!!」
と、泣き叫んでいるゼンは置いておいて。
「泣いてないッ!!!」
俺は、アーノさんの紹介してくれた部屋に入る。
部屋の中には椅子や机。二人分のベッドがあった。
俺たち用にすこし改装が加えられているようだ。
よくあの短時間でやったものだ。
「ゼン、物置きって言ったけど掃除は行き届いてるし、日当たりもそれなりに良いぞ」
「う~ん、でもすこしベッドが硬い気がする。うちの方が柔らかかったわ」
「文句言うなよ、ベッドがあるだけで素晴らしいことなんだからな。というか、俺の家の事をうちと言うな」
ゼンは未だに文句が止まらないが、こちらは急遽王都に来たんだ。
それなのに衣食住が保証されているなんて幸せなことだろう。普通王都に来ることすらありえないのだ。
部屋の窓から外を見ると、たくさんの家が見えた。
城壁の外側に勝手に建てられた家が元になっているのでぐちゃぐちゃとしていて見た目は悪いが、これも普通だと思えばそこまで気になるモノでもない。
悪いところと言うよりも、街らしさが出て活気を感じることさえできる。
無駄にきれいな部屋よりも、すこし汚い方が人の温かみを感じるのと同じだ。
「この後は好きにして良いと言われたがどうしようか」
いつもは母さんに行き先を伝えていたが、もうそれをする必要もないだろう。
まあ、母さんが言い出したので仕方なくやっていたが、正直鬱陶しいのが本音だった。
「アンタ、私が来てからフィネルに行き先を伝えていたこと、指で数えられる程度しかしてないじゃない」
「そう見えたかもな」
「そうとしか見えないのよ」
俺が不利になってきた。
最近ゼンと言い合いをするとき、必ずと言って良いほどの俺が不利になっている気がする。
舌が回らなくなってきているのだろうか。
ゼンごときに負けるなんて屈辱過ぎる。
「私もアンタとあってから、暴言が増えた気がするわ」
「あれ自覚してたのか」
「私を暴言発生装置かなんかだと思ってるわけ!?」
「そうかもしれない……!」
「ふざけるな!!!」
耳を塞いで、俺もゼンの爆音を回避する。
カーテンが声量でゆらゆらと揺れている。どれだけ大きな声出してるんだよ。
「はあ、機嫌直しにでも市場に行くか。お前も来るだろ」
今日はすこしゼンをからかい過ぎてしまったと、俺は仲直りに市場に行くことを提案する。
俺たちはよく喧嘩する方だが、ここが新たな土地という事もあり少し喧嘩の羽目を外し過ぎていると感じた。
俺もゼンも、落としどころが分からなくなっているのだ。
「そうね。王都になるお菓子を見ておきたいわね」
「見るだけじゃ我慢できないだろ」
「当たり前じゃない、そのことを見越してもうフィネルからお金をもらってるわ」
こ、コイツ俺の行動を予測して先手を打っているだと……!
なんて恐ろしい奴だ。案外コイツは敵にしてはいけない奴かもしれない。
そんな冗談を思いつつ、俺たちは部屋から出る。
わざわざこの本部に居続ける意味のないので、さっさと出てしまおう。
この部屋はこの本部の中でも奥の角にあるので、入り口までは少し時間がある。
どうせならこの本部こと屋敷の状態でも見ておこう。
視線を廊下の壁に向ける。
外は使い古された屋敷という印象だったが、部屋と言い廊下と言いやはり掃除が行き届いていて、かなりきれいな状態だった。
おそらく建てられた当初から大事に使われていたと予想できる。
おんぼろ屋敷かと思ったが、優秀な使用人でもいるのだろうか。騎士団の団員などを見て思ったが、やはりこの騎士団は数が用意できない分、量より質を重視されているのだろう。
ボルダンのすぐに連携を取れたそれといい、この屋敷の掃除の質といい騎士団の方針が屋敷の観察でよく分かった。
量より質の方針が成功しているのも、きっとニーカさんの指揮の賜なのだろう。
「上から目線で偉そうね」
「いいだろ、年上なんだから」
「アンタ11歳でしょ」
コイツ俺の年齢覚えてたのか。
俺はお前が長生き過ぎて覚えてないのに。
「というか、意図的に前世の歳を飛ばすな。ちゃんと加えろ」
「前世の歳って、アンタ言ってたっけ?」
そういえば詳しく言及はしてないな。
俺の前世を見ているのだからてっきり知っていると思ってたが、知らなかったのか。
「私ってアナタの魂に刻まれた記憶を読むから、アンタのここ最近の記憶と前世の死ぬ数ヶ月前ぐらいの記憶しか読めないのよね」
しかも記憶だけだから、得られるのはアンタが見た視界からの情報だけよと、彼女は続けて言う。
そうだったのか、初めて聞いた。
「そりゃそうでしょ、初めて言ったもん」
その初出しの情報をこのどこに誰がいるか分からない場所で言わないでほしい。
誰かにこの話について言及されたらどうするんだよ。
アンタも話してたじゃないの、とゼンからその通りのツッコミを食らうが、そう言った物は受け取らないでおこう。
自分のことは棚上げだ。
危ない会話のしながら、俺たちは入り口まで戻ってくる。
入り口には先ほどまであった荷物が全て片付けられていて、今はきれいな入り口という感じだ。
「どういう感じよ、それ」
俺は、どこかから聞こえた空耳を無視して入り口から出る。
まあ、入り口から出てもこの屋敷は壁に囲われているのでまだ門があるのだが、面倒くさいのでもう外まで時間を飛ばしてしまおう。
市場はこの屋敷の後ろに側にあったはずだ。
燦々と輝く太陽を視界に収めて、街道を歩き出す。
それなりに治安のいいだけあって、街道も整備がされている。
石畳の路面は歩きやすく、俺たちは軽快に一歩を踏み出すのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




