第二話 本部
後ろにいる騎士団の団員が全て本部の敷地内に入ったのを確認して、ニーカさんは馬を下りる。
それと一緒に俺も降りた。
別に一人で降りても良かったのだが、どうせなら見ていこうという事で、好奇心で乗せてもらったままにしてもらった。
ニーカさんの団員に向けての的確な指示は、見ていてとても楽しかった。
「私はすぐに王城に向かうから、後は副団長に従ってくれ」
「分かりました」
ニーカさんは、馬から下りてすぐアーノさんと少し話して、すぐに俺にそう伝えて再び馬に乗って出て行ってしまった。
忙しい人だ。騎士団の後片付けも必要だし、王への報告(貴族に暴言を吐かれに行ったの方が正しい気もする)も必要だ。
アーノさんに今後の動きを聞きたいが、騎士団の指示だしだけで忙しそうなのでゼンと時間でも潰しておこうと俺はゼンの方へと向かう。
ゼンはと言うと母さんから色々と甘味について聞き出し、そして作ることを約束してもらえて大変嬉しそうに顔が弛んでいる。なんならよだれすら垂れている。
「汚いぞ」
そんなゼンに、俺は臆することなく指摘する。
気分が良いので、少しぐらい言っても何も言われないだろう。
「ん!危なかった……三途の川で誰かが手を振っていたわ」
「命の危機に瀕していた!?」
と言うか誰だよ、その手を振っていた奴。
コイツに三途の川の案内してくれるほど親切な奴がいるのだろうか。
ゼンは、垂れていたよだれを拭きながら視線を前に移す。
そして、首をかしげた。
「どうした」
「ここで騎士団の本部よね」
「ああ、もちろん」
ここは騎士団の本部で問題ない。
ニーカさんからもらった地図と位置に違いはない。
それに使用人が騎士団の荷下ろしを手伝っているので確実に間違いないだろう。
「だったらなんでこの建物木造なのよ!!!周り全部石でできてるわよ!?なんでここだけすこし汚くて、木でできているのよ!!!」
と、ゼンは騎士団の本部に悪態をつく。
「別に良いだろ。俺たちの家だって木造だったんだし、違いなんてないだろ」
「だとしてもよ!ただの家と国の機関を一緒にするべきじゃないわ!世間体というものがあるでしょ!!!」
うん、まあその通りなんだけども。
それをここで言わないでほしい、見ろ。何人かから睨まれている。発言に気を付けてほしい。
「木造も、木造で良いところがあるだろ。温かみとか、木目の美しさとか……」
「汚くて木目は見えないし、この建物全体的に日当たりあんまり良くなくて温かみもへったくれもないし」
「あはは……そうとも言うな」
「そうとしか言えないわよ!!!」
ゼンが、現実を突きつけてくる。
正直この建物はお世辞にもきれいとも言えないし、騎士団に似合っているとも言えない。
が、騎士団の現状を知らしめるには十分すぎるほどだ。
ろくな建物も支給されず、それを立て直す資金をもちろん支給されない。
前世では、騎士団との直接的な関わりを持っていなかったのでよく知らなかったが、かなりひどい状況だな。
庭の草木はきれいにされているが、すこし視線を奥にやると騎士団の服を着た人が草を抜いている。
使用人すら足りていないようだ。
貧乏というか、もう生活が成り立っていることに恐ろしさを感じるほどだ。
「うーん、ここまで追い込まれているとは正直想定外だな。もう少し金に余裕は持っていると思っていたが……」
「だから希望的観測は良くないのよ。思っていたなんて言葉使うべきじゃないわ」
なんとも言えないな。
ゼンが言っていることは、とげはあるが紛れもない事実しか述べていない。言い方に問題があるだけだ。
「あんまりここの事を悪く言わないでくれると嬉しいです。これでもみんな大切に使っていますから」
俺とゼンが、騎士団の本部について色々言っているとアーノさんがやってきた。
どうやら指示だしは終わったらしい。
「すみません。こいつあまり物事の限度を知らなくて」
「…………ふんっ」
「いえ、事実ですから。そこまで卑下ししてもらわなくても良いですよ。先ほどの発言は、私の勝手な意見ですから」
自分が悪者にされた事に苛立ちを感じてそっぽを向いたゼンを尻目に、俺はアーノさんと話しだす。
ゼンにかまっていても何もないからな。母さんの所にでも行っておけ。
「確かに!!!」
あいつ……心情把握動かしてたのか……。
俺が心の中で言ったことを勝手に盗み見て、ゼンはシュタタと母さんの所に走り出していった。
「アハハ……、それで俺たちはどうすればいいのでしょうか?」
「はい、アイン君たちはまだ王国の方にしっかりとした登録がされていないので今日のところは部屋の部屋を教えるので後は好きにしてもらってかまいません」
「分かりました」
「ああ、でもゲレンゼの外には行かないことと日が沈むまで帰ってきてくださいね。夕食がありますので」
夕食はしっかりと支給されるらしい。
これほど金欠の状態でしっかりとした食事が出せるとは思えないが、体が命の騎士なのでしっかりと騎士団の方で栄養に配慮した物を出したいのだろう。
俺は分かりました、と承諾する。
ゼンは何でも食べるし、俺も好き嫌いもないからな。別に食事が母さんの物から変わったところで駄々をこねる歳でもない。
「そうだ、あのっ!」
「ん?なんでしょうか」
アーノさんがこちらを見る。
こちらを見ただけなのに、なぜだか心の奥底まで見られているように感じる。
「ニーカさんと話したいことがあるので、もしも時間が作れたら教えてもらう事って可能ですか」
アーノさんは視線を上へと向ける。
予定でも思い出して可能か判断しているのだろうか、どうしてもこの人か心が読みにくくてやりづらい。
「分かりました。もし可能なら部屋の方に伺います」
「あ、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、アーノさんにこれ以上質問がないか確認された。
俺が、もう何もないことを伝えると
「それでは部屋の方に向かいますので、あちらの二人を呼んでもらえますか」
アーノさんの視線が向かった方に見ると、そこにはまた目を輝かせて母さんに質問をしてるゼンがいた。
たかが甘味の事でそこまで話す事があるのだろうか。俺には全く分からない。
母さんもさすがに困っていて、あたふたとしている。
ゼンの方は全く気にせず、口を休めることなくたたみかけている。
「ゼン!母さん!部屋に案内してくれるって!行くよ!」
二人を呼ぶと、母さんまるで地獄に下ろされた一本の蜘蛛の糸にしがみつくかのように俺の方へと嬉しそうに走ってくる。
ゼンは、俺の邪魔をされて大変苛ついているご様子だ。
俺は、そんなゼンの恨みの詰まった視線を華麗に無視してアーノさんの後ろをついて行くのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




