第四十三話 八人目
一瞬にして数百メートルはあった距離を詰める。
ゼンとボルダンは息が合わないなりに連携を取っていて、化け物の攻撃をギリギリかわしているようだった。
ボルダンは化け物の注意を集め、ゼンが後ろから攻撃を仕掛け化け物を翻弄するという急に始まった割にそれっぽい戦いが完成していた。
互いに戦闘の経験があるだけあって、意思疎通も軽くならできるのであろう。
そこに、俺は止まることなく突っ込む。
カタナを出すよりも、魔神具の力によって堅くなって皮膚で殴る方が効率的なので、俺は化け物を殴り飛ばし少しの時間を作る。力技だが策を講じる暇はないので、許してほしい。
「ボルダン!アイツらを連れて撤退しろ!後は俺たちが終わらせる」
「しかし──いえ、了解しました!後は任せましたぞ、隊長!!!」
化け物との戦闘で相当疲労しているはずなのに、ボルダンはいつもと変わらない様子でそう答えて後ろに下がっていった。
新人ももう撤退の準備はできており、リンカを背負ってボルダンを待っているようだ。
彼らがここから離れたら、早急に魔神具を起動して奴を倒さなければ。
化け物のことが気になるが、あの黒マントと二人の死体についても色々と調べたい。
もし騎士団員の襲撃が化け物ではなく、黒マントの集団による──
「アイン!奴が起きたわよ!」
ゼンのその叫び声とも言える声で、俺は深い沼に落ちていきそうだったところをすくい上げられる。
戦場で考えにふけるとは、少し暢気すぎる。気を引き締めなければ。
今すぐ魔神具を使用して化け物との戦闘を終われせたいが、さすがにまだ彼らが近くにいるだろう。
ここで使用することはできない。もう少し時間を稼いでアーテーの彼らを離す必要がある。
「ゼン!遠慮はいらないから、全力で戦闘を再開しろ!!!」
「最初からそのつもりッ!!!」
先ほどまで剣を振っていたゼンは、剣での近接戦闘から剣の創造、そして射出する遠距離戦闘へと切り替える。
ならば、俺はこの色々と強くなった体で接近戦を行おうか。俺の武器もゼンの作った物なのでこの人外の力にも耐えられるだろう。
俺は即座に抜刀して、カタナを構える。
今は吹き飛んだせいで砂埃が酷いが、見えたらすぐにこのカタナをたたき込む。魔神具なしで勝てるのだとしたらその方がいいからな。誰にもばれる心配がなくなる。
しかし、そんな俺の甘い考えとは裏腹に化け物は今までからは想像できない速さで、砂埃の中から現れる。
ついさっきの俺の速さと同等。はたまたそれ以上の速度で俺を狙って間合いを詰めてきた。光を感じられない黒目でしっかりと俺を捉えており、眼力だけで俺を圧死させられそうだ。
大樽のような大きさの拳が俺目掛けて繰り出される。
それを受け流すことによってどうにか対処する。あんな攻撃まともに受け止めていたら骨と一緒に内蔵まで潰されてしまう。
いくら俺が頑丈になっていたって限度がある。限界を迎えてしまえば、俺は依然と変わらずぺしゃんこにされてしまうからな。
「この腐ったジャガイモ野郎ッ!無駄に動きが俊敏だな!」
「そんな軽口言ってないで──フンッ!少しぐらい攻撃してよね」
ゼンは、20本近い剣を創造して化け物に向かって打ち込む。
そのほとんどがはじかれるが、少しだけ、表面の皮に引っかかった程度だが剣が刺さった。
剣の射出速度は俺の目でギリギリ捉えられる程速かったのだが、そんな速度による威力の向上も化け物の前では、あまり意味を成していない。
それほどまで、あの化け物は『化け物らしい』のだ。
できるだけ回避を意識して、時に受け流し、俺は時間を稼ぐ。
ただの剣の、カタナの攻撃ではやはり効果的な攻撃にはならないので、魔神具を起動させたいところだが……。
「ゼン!そろそろできるか!!」
「問題ないわ!包囲から出たみたいだからそろそろいけるわよ!」
その言葉は、防戦一方だった俺への神からいただいた糸のようなものだった。
カタナで地面を叩き、化け物の視界を一瞬、刹那の間奪う。
そして、俺は大きく後ろへと下がる。
ここからは、俺の場の支配力と魔神具との相性の戦いだ。
「ゼン!」
俺が手を出すとそこにゼンが現れ、俺の手を力強く握る。
絶対に離さないという意味が込められているように感じる程、力強く。
「行くぞ──開け、神魔なる門。穿て大いなる剣。我が元の祖の力を使わせたもう──」
ゼンが神々しい光を発して、形を変えていく。
この薄暗い路地を、ゼンの光が全てを照らし出す。影は存在しない。闇は存在できない。
全ては、ゼンのよって滅される。
「いでよ──魔の剣『カラドボルグ』!!!!」
ゼンのまとっていた光が一層輝きを増す。
目の前の光景すらその光によって打ち消される。俺の視界が、ゼンに支配されたとも言えるだろう。
「さあ───今から何秒後にお前がこの世から消えるのかが、楽しみだな」
俺は、不敵に笑う。
やはり、人間誰しも圧倒的な力を手に入れた時は嬉しくて、つい笑みがこぼれてしまう。
この力の溺れないようにしないとな。
力に溺れる程度に人間が魔神具のマスターになれるわけがないのだが、それでもだ。
化け物が視界を取り戻し、俺に向かって走ってくる。
やはり……ゼンを使っている状態は一種の覚醒状態にでもなるのであろう。
あの化け物の動きがとてつもなく遅く見える。
お前はやっぱり、俺たちには勝てないよ。
この世界の理を凝縮させたような戦いがたった今。
─────始まったのだった。
☆☆☆
そうして、この世界に新たに魔神具の使い手が人知れず現れる。
彼を知る者はそれを喜び、悲しみ、怒り、嫌うだろう。
全ての者が、一人に対して良い思いをするなんてことはこの世ではありえない。
もちろん、あの世でも同様だが。
彼はその全てを受け止め、時に斬り伏せるだろう。
そうやって彼は、いままで死んでいった。心から死に、体が死に、存在が死んでいった。
彼が再び魔神具に己を侵されんことを。
願わくは、彼の者に幸あれ。
そして、災難あれ──
そう、彼女は心の中で思いふけるのだった。
深く、深くどこまでも暗いその場所で───
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それではまた次のお話で会いましょう。




