第十二話 若者
見張りを命じられて兵士の一人『コリア・ムーア』は、緊張に支配されながら扉を見張る。
騎士学園を卒業して配属された所は、国の運営する軍ではなく騎士が頂点に立つ騎士団だった。
先生が言うには、君の成績が優秀だったからだよ、と言われたがコリア自身全くそんな事は感じれていない。
悪くない成績だったが、それだけだった。良くもなく悪くもない中途半端だと、コリアは感じていた。
詳しい理由が知りたくても騎士団長と直接話す事は、できないのでモヤモヤした気持ちでコリアを騎士団で生活していた。
「新人、状況は?」
「は、はい。動きはありません。依然中で何かしているようです」
「そうか」
上官は、それだけ言って離れていく。
何も言われていないが、まだ見張りを続けろと言う意味だとコリアは感じ取る。
命令な以上コリアはそれに従うが、子供に見張りを付けるということに理解を苦しんだ。
三人もの兵士が子供相手にここまで隠れているんだ。兵士──騎士団の団員とはもっと華やかなものだとコリアは思っていたのだ。
それがこんな陰湿な命令が下されるとは、と少し残念思っていた。
しかし、そんな事を考えていたコリアの所に上官ともう一人の見張りが戻ってくる。
「新人、作戦の変更だ。さっさと突っ込んで礼をたんまりともらうぞ」
コリアは、その発言に自分が興奮しているのを感じ取る。
できるだけ冷静さを保ってはいるが、今にも大きな声で喜びを露わにしてしまいそうだ。
相手が子供と言うことで少し後ろめたさを感じていたが、初めて戦闘になりそうな指示が出て興奮を隠しきれない。
うずうずとして、今にも走り出してしまいそうな気持ちだ。
「はい!分かりました」
「よし、いい返事だ。それじゃあ──」
上官がそう口にして、剣に手を掛けて突撃の準備を開始したとき。
門番の休憩所から、その奴らが出てくる。
そして、コリアと少年の目が──合った。
「あっ」
それと同時、それかコリアが声を発する前に少年と後ろにいた少女が走り出す。
その動きに迷いはなく、まるで最初から逃げる気だったようにコリアは感じる。まるで、自分たちの存在がばれているようだった。
「チッ!ばれてやがる!新人!少年の方を追え!追うだけでいい、少女の方を俺たちが捕まえるから、少年の行動だけは常に追跡しろ!」
「りょ、了解しました!」
コリアは、そう返事をして走り出す。
相手は小さい子供だが、子供の方の動きの方がすばしっこく追うのは大変なのは故郷の村で経験している。
名も知らぬ少年の背中をコリアは、必死に追うのだった。
☆☆☆
ゼンと別れた俺は、人混みを猫のようにするすると抜け南に向かう。
気配を探っている感じ、一人俺を追っているようだ。その動きから俺を追うことだけで一杯一杯のようで、コイツなら問題なくスラムに連れ込めるだろう。
騎士団の団員の割に動きが鈍いし、俺の作戦に気づかないとは……。
これは新人か。それとも、なめられているのだろうか。
俺は、止まることなくスラムに進む速度を速める。
後ろの新人さんが俺を見失わないように慎重に速度を調節しながら進む。
時々通行人にぶつかって謝っている。根はいい人なんだろうが、兵士になった以上それなりの覚悟はできているはずだ。
新人で間違いないが、まさか兵士になっても人を殺すことにためらいにある人間じゃないよな。
スラムに行く理由を解説すると、そこでこの見張りを潰す予定だ。
数時間気絶してもらうだけだ。あまり長く気を失われると、明らかに怪しすぎる。
敵がこれだけなら、数時間戻らなくても怪しまれない。
それに、見張りの仕事だ。上層部も元々長期の任務を予定しているだろう。
まさか、日中の間だけ見張って夜はなにもなし。なんてことはないはずだ。
適度な気絶を、彼に送ろうじゃないか。
おそらくゼンの方も俺の路地に行け、の指示で俺の考えを理解できるだろう。
ご丁寧にフラグが立っている。見張りの奴らは功を急いでいる。間違いなく戦闘に入るだろう。
ゼンに殺すなと言っておいたので、おそらく昏睡状態に追い込んで終わってくれるはずだ。日が沈み始めたぐらいで目覚めるような衝撃がベストだ。
まあ、それは見張りの兵士がゼンに剣を向かなかったらの話だがな。兵士が剣を抜くということは、命を賭けたのだ。その行為を見て、ゼンが命を助けてはくれないだろう。
そっちの方はゼンと、可哀想な兵士二人に任せておこう。
俺は、この新人に年上として教育をしなければならないからな。忙しくなる。
視界に入ってくる建物が店などから、少し汚い木製の小屋に変わってくる。
スラムに入ってきたようだ、しかしまだ入り口の方なのでもっと奥に進むできだろうか。
発見を遅らせるなら奥に行きたいが、その分俺自身も中心に戻るまでに時間を使うことになる。それは、あまり好ましくない。
ここで仕留めよう。
俺は、そう決意して家の間───路地に進む。
そこまで狭くない、一応剣を抜いても問題ない場所を選ぶ。
今回の戦闘は敢えてカタナを使わない。
素手での戦闘───は危ないので、ナイフ一本だ。倉庫からの移動途中にゼンに作ってもらった物だ。断じて、カタナを忘れてきたわけじゃない。断じてだ。
「君、少しいいかな?」
路地を少し進んだところで新人が話しかけてきた。
奇襲を仕掛けて一撃でと思っていたが、まさか話しかけてくるとは。俺は新人程度倒せる存在だと思われているのか?
少し作戦の変更を余儀なくされてしまったが問題ない。この程度の修正なら作戦の遂行に影響はない。
「何でしょうか?」
俺は、右手を背中の後ろに隠してナイフを握る。
「リヴァイヴァル騎士団の者です。来てくれないかな」
「えっと、騎士団の方がなぜ僕の所に?」
「ごめんね、不安にさせて。でも来てくれないかな」
あれだな、初任務で緊張してるな。
人を連れて行くにしても騎士団であることを明かして何になる。相手を不安にさせるだけだろ。
いや、所属も分からない奴に付いてこいと言われるのも怖いが、騎士団につれて行かれると聞いて安心するかと言われたら、答えは否だろ。読者には、家に突然警察が来て「署までご同行願えますか」と言われた場面を想像してくれ。
いや、法治国家で法を盾に存在するような奴らに同行を願われたら、誰でも付いていくか。例えが悪かったな。
だが─────
「今からお前の教育で忙しいんだなッ!!!」
俺は、後ろに隠していたナイフを取り出し新人への教育を開始する。
新人がどんなモノか試させてもらおうじゃないか。
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それではまた次のお話で会いましょう。




