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第十三話 無計画の極み

 まずは軽く打ち合いをして、この新人の腕前を見てみよう。

 もしも剣の才能があるのだったらそこで話は終わる。まあ、実力があるのなら別に俺が教える必要ないしな。時間が経てば自然と強くなるだろう。


「なっ!き、君!危ないぞ!」


 そう言って、新人は後ろに下がる。

 あくまで避けるだけで抜刀はしないらしい。民間人には手を出さない面倒くさい人間か?


 戦場で死にたいなら良い心がけだ。街の殲滅作戦なんかじゃ効果的だろう。後ろからグサリだ。

 しかし、俺の教育を受けた者がそんなんじゃ俺の誇りが許さない。みっちり鍛えてやろう。


 その面倒くさい心がけもついでに壊してしまおう。

 戦場に光りを求める者は早死にする。戦場なんて所詮、泥をかぶった者ほど生き残る。どれだけ功績をあげようが、死んだら全てただの過去だ。


 ただの一兵卒が死んだところで、きっとこの国の管理体制ならそんな過去にすらされないだろう。

 精々家族や友人、恋人が泣いてくれるだけだ。まあ、そんな者がいるだけ幸せかもな……。


 なんだか、自分の発言でブルーな気分になってしまった。

 俺は、この気持ちを打破するためさらなる追撃を開始する。


「剣を向かないと死にますよ?」


 少し変な口調だが、これは俺の口調や性格を隠すためだ。

 変に記憶されても嫌だからな。俺の顔を見ても口調で違うと思ってもらうためだ。


 小さい努力も、いつか報われるはずだ。

 うん、普通に無理だと思うけど……。


「わ、私は市民に剣を向けるなど……」


「チッ……。剣を抜け新人!死にたく無ければ、己の強さを俺に見せろ!!!」


 いつもでもぐだぐだ面倒くさいので、少しキャラの方向性を変えてみた。あっと今にキャラ崩壊だ。

 これで動いてくれるといいのだが。


「は、はい!!!」


 そう言って、新人は剣を鞘から抜く。

 どうやら効果抜群のようだ。


「行きますよ!!」


 キャラの修正は怠らない。


 俺は、ナイフで新人の剣を打つ。

 さすがにこの程度で重心がずれるほどお粗末ではないようで、しっかりと受け止める。


 俺は、そこから隙を与えず攻撃を繰り出す。

 新人は、そこから反撃に移れないようだが確実に全ての攻撃を防ぎきってみせる。


 実に素晴らしいだろう。

 俺よりも才能があるよ、君。うん……本当に……。


「くそったれがッッッッ!!!!」


「なんか唐突にキレ始めた!?何なんだ君!?」


 もういいだろう。俺はコイツのせいでお怒りだ。

 自分の傷口を自分で削っただけだろ、という意見は受け取らない。受け取れないのかもしれないな。うん。きっとそうだろう


 俺は、心の中で弁明して戦闘へ意識を向ける。

 俺は、ぶち殺す気で戦闘を再開したのだ。ナイフは、首や肘の内側を狙って振られる。鎧が付いていない、もしくは狙い安いところを狙っていく。


 良く言うだろう?「練習するより実際にやってみた方が学べる」って。

 いや、テキトーに今つくったけどもそれっぽい言葉はあるはずだ。


 そう、実戦が一番経験値を得られるんだよ。


「クッ、速い……一体どこにこんな技術を……」


「遅いぞ!!!!!」


 俺は、攻撃をやめることなく次々と新人にナイフを振るう。

 それをもしも全て防いでいたら俺はコイツを殺していたかもしれないが、少しずつ新人の体に傷ができていくのを見て、俺は冷静さを取り戻す。


 フェイントに引っかかるのが玉に瑕だが。たまにそのフェイントにも対応できているので、実戦で学べている証拠だろう。

 騎士学園の教育が良いのか騎士団に良い教育係でもいるのか分からないが、この対応速度はそれなりの鍛えられているのだろう。たくさんの動きを吸収してきた人間だ。


 かなり大事に育てられているらしい。

 騎士学園で優秀な成績でも取っていたのだろうか。


 この新人の腕前も分かったし、そろそろお開きにするか。

 実力もあるし、学習能力に問題もない。俺が教えなくても勝手に学んでいくだろう。


 それに、俺はゼンの方を見に行かなくてはいけない。アイツから目を話すとろくな事がない。

 少し変わったものを見せて終わろうか。


「いいぞ、新人。だが、終わりだ」


「本当に何を言ってるんだ、君!?私たち騎士団に敵対する気かい!?」


 うーん、少し。と言うか全然違うが、わざわざ応える義理もないのでそのままさよならしようか。


 俺は、飛んで後ろに下がり腰を深く落とす。しっかりと、深々と。

 そして、駆け出す。まるでネズミのようにすばしっこく、俊敏に、狡猾に。


「速い!?」


 彼が俺の速さに驚く頃には、俺は彼の背中を取っている。

 単純な身体能力による移動だ。少し賭けの要素も入っていたがどうやら成功したようだ。それに、新人は俺の事を見失っているらしい。その一瞬で片は付く。


 新人は軽装ではなく重そうな鎧を着ていた。それは自分が兵士であることを明確にするためだろう。しかし、鎧は皆が思う通りとてつもなく重い。両足でしっかりと保たないと簡単に倒れてしまう。


 こんな説明をされたらかなりの人が俺の行動を予想できたのではないだろうか。

 俺は、回し蹴りを膝に入れる。下手に体を攻撃するよりも関節に一撃入れた方が効果的だ。


 新人は、案の定バランス崩れて倒れてしまう。

 とっさに手が出れば良かったのだが、あまり急な事で対応できず後ろに倒れる。痛そうだ。


「弱いぞ、新人。もっと───って」


 新人の顔を見たら、がっつりと白目になっている。衝撃で気絶してしまったようだ。

 どうやらメンタル的なものが弱い人間だったようだ。見込みがあるのに第二位の騎士団なのはそう言った理由からだろうか。


 しかし……俺はこの後どうすれば……。

 予定ではこの後この新人と軽く話す気だったんだが……。


 俺は、予定とかなり違う行動をされたせいで戸惑いを露わにしてしまう。

 まあ、別に問題ないな。


 俺は予定を変更して、少し早いがゼンのところに移動しようとする……。

 しかし、そこで思い出す。


「え、こんなにバチバチに戦闘してどうやって起きた後の言い訳をしてもらえば良いんだ……」


 完全にやらかした。

 久しぶりの教育という単語に興奮した結果がこれだ。


 あー、っと。

 最終的に血迷った俺は、その辺りに力っている木の板にガリガリと音を立てながら文字を書き留める。


『ごろつきに襲われていたところを助けました』


 これでどうにかなってくれ。

 ……まあ、たぶん、無理だよなぁ。


 去り際に新人君の側頭部にデコピンをして立ち去る。

 額ではないデコピンをデコピンと呼べるのか、謎だが、後はどうにかしてくれることを祈るだけだ。


 この世の何らかに。



               ☆☆☆



 少年の後ろ姿を、それはじっと見守る。

 好戦的で暴力的な人が多いスラムを、慣れた顔で歩いている少年はとても目立っていた。


 それを、ただ黙って見守る。

 スラムとは無関係を装って、この世界からは無関係を装って、それは無口に眺める。


「本当にぃ、こういったヘマはしないでほしいんですけどねぇ」


 目の前には、すうすうと寝息を立てる一人の若者。

 先ほどの少年よりも圧倒的に成長しているはずの彼は、少年に大敗をしておきながら心地よさそうに眠っている。


 そんな若者に、すうっと右手を額に添える。

 すると、彼を包み込むような白く暖かな光が手の額に浮かび上がり、若者の頭の中へと入っていく。


 彼の頭の中へ、穴が空くわけでもなく扉が開くわけでもなく。

 網を通り抜ける水のように、音も立てずに通り抜けていった。


「やはりぃ、若い頃の彼はダメダメですぅ」


 足で木の板を叩き割りながら、路地のさらに奥へと消えていく。

 それは頬を赤らめ、唇を下で嘗めながら、無関係に消え去った。


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 もちろん、感想等も送っていただければ自分が大変喜びます!!


 それではまた次のお話で会いましょう。

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