第九話 選定
「まるで最終回みたいな質問だな」
俺は、少し茶化すようにそう返す。
できるだけゼンを逆なでしないように。
「そうね。アンタの返答次第じゃ、このまま最終回になるかもね」
そんな俺の返しに、ゼンは冷たい表情のまま冷酷に告げる。
ベッドに乗ったままだが、動こうと思えば一瞬にして俺の首を切れるだろう。
俺は、正しく敵地いると言っても過言ではない。
今の俺の言動は、俺の命運を握っている。自分の発言が自分の命運を握っているなんて当たり前だけれど、ここまでそれをはっきり感じる事はそこまで多くない。
俺は、できるだけ身動きを取らず。
最低限、口のみを動かして会話を開始する。
「真面目に答えよう」
ゼンが、なぜここでその話を持ち出してきたのか分からないが、ゼンからしたら自分のことを全て知っているかもしれない人物と一緒にいるのだ。
もしかしたら弱みすら握られているかもしれない。そう言った不安からだろうか。突然に話を振ってきた。
「そう、いい判断よ」
ゼンは、己を上の者と認識しているようで上から目線で話を始める。
交渉とかなら絶対にやってはいけない行為だが、今の状況的にゼンが絶対者であり、俺の拒否権がないことが分かっての行動だろう。ついでに、ちゃっかり足を組んでいた。
「まず、私は前世のアナタと一緒にいたの?」
「ああ」
別に隠しておかなければいけない情報ではない。
俺は、はっきりとゼンの質問に答える。
今の俺に隠す事はできないのだが、別にそれが絶対に隠し通せないわけではない。
おそらく隠したらゼンは、ここで会話を終わるだろう。そう、知らないならいいわ、そう言って彼女なら会話をやめるはずだ。己が─────
己が嘘をつかれていると自覚して、彼女は傷を負いながら話をやめるだろう。
ゼンとは、そう言った生き物───人間だった。
前世の関係について話を戻すと、俺とゼンは必要最低限の会話しかしないぐらいの仲だった。
はっきり言って不仲だ。
今のゼンとするような会話は一切ない。
おそらく1分以上話したことは数えられる程度しかない。
その程度の仲だ。
「じゃあ、私の事は全て知ってるの?」
「いいや。お前の本来の姿と能力その他多数だが、全ては知らない。確実に」
俺は、これもまた隠すことなく言い切る、できるだけ、最後に力を込めて。
俺は、お前を知っている。だが、全ては知り得なかった。
前世の俺では、お前に歩み寄ることをできなかった───歩み寄らなかった。
だから、俺はお前の全ては知らないだろう。きっと、お前も俺の事を知らなかっただろう。
「そうなの。だとしたら、私の全ては確実に知ってはいないと?」
「その通りだ」
「だったら、なぜアナタは私を初めて知ったような対応をしたの? 私の事は知っていたんでしょ?」
「それは……」
俺は、くちごもってしまう。
明らかにやましいことがあることが分かっただろう。アホでも分かる証拠だ。
この程度の質問で口ごもるとは、俺も落ちぶれたのか。
はたまた、この質問に動揺しているのか。
「ふーん。質問を少し変えてみましょうか」
ゼンは、そう言って足を組み直す。
見せつけるように、気持ちを焦らせるかのように。
わざわざ丁寧に、俺の目を見ながら。
いや、俺の目は見れていない。彼女は、俺の後ろを見ているのだ。
少しでも裏───いや、これを言うのは。
無粋だな。
しかし、心情を揺さぶる作戦か。
この程度で揺さぶれるほど柔な精神はしていないつもりだったが、質問を変えるとは何になるのだろう。
「私は負けたの?」
「─────ッ!」
そうきたか……。
俺がなぜ発言を拒んだのか。その理由を探し、自分に言いにくい事があると予想。
そして、己の嫌な事をイメージ。
その結果、自分の負けた姿を想像したと言うことか。その精神状態でその質問にたどり着くとは。
それに、敢えて負けたことだけを強調し、『誰に』『いつ』『どこで』を聞いてこない。
おそらく大方の予想が付いているのだろう。
…………。
「ああ、お前───いや、俺が負けた」
「言う気になったのね。それなら、そのときのこと具体的に言ってもらえるかしら?」
「ああ、もちろんだ」
俺は、ゼンに促されて前世のゼンとの最後の部分の説明を始める。
☆☆☆
俺は、王都防衛戦でゼンの力を使っての戦闘をほとんどしなかった。
そのときのゼンと俺の関係は最悪だったからだ。
俺は、ゼンに対して戦う力を求めた。ジュウに対抗する唯一の手段として、ゼンを使おうとした。
ゼンはそれを断った。それが道具のようで嫌だったと言って。そのときの俺には理解できなかった。じゃあ、お前はなんだと。道具でないなら、お前はなんでもないだろと。
冷酷にも、そう思った。思ってしまった。
そう言った感情をゼンに対して感じてしまった。
だから、しなかったというよりかは、できなかったという方が正しい。
ゼンに拒否されたので、俺も魔神具を使用せずに前線で戦った。指揮官ですら前線で戦う戦場。落ちぶれた、没落して、愚者の舞う戦場。
そのときの俺は、死ぬしか選択肢がなく友情なんてものを求めていなかった。絆に有用性なんてものは、みじんも感じていなかった。
友人も死んでいたしな。精神状態が、お世辞にも指揮官として保っておくべき状態を維持できていなかった。混乱───半狂乱状態だった。言い訳にしかならないがな。
その結果、俺はカタナ一本で帝国との戦闘を行った。
まあ、ただの刃物で何もできなかった。
それで俺は最後までゼンを使わなかった。
俺もゼンも、意地になって最後まで己でやりきろうとした。己を守り抜こうとした。
☆☆☆
「それで、死んだのさ」
俺は、説明を締めくくるようにそう言い放つ。
これで説明は終わりだと言う意味を込めて。
「それで、今度は仲良くしておこうと?」
今の説明を受けてゼンは、さらに俺に質問する。
俺の思っていたことを全て包み隠さず話した。俺のゼンに対して抱いていた邪な感情も全て。
今の説明では、そう感じるだろう。
俺も予想はしていた。だから、俺は可能な限りゼンにばれないように立ち回ろうとした。
ゼンから記憶を読まれないように、己の中でも禁忌として。
深い深い海の底よりも深い所に置いておいたというのに……。
「そう思ってもおかしくないだろう。そう思われると思って俺は話してなかったしな」
「じゃあ、その感情を認めると?」
「ああ、そうだな───だが、はっきりと否定しよう。今の俺はそんな事は思ってないと」
どの口が言うんだとか、心の底では思ってるんだろとか言われても───思われてもいい。
だが、俺自身は否定しよう、俺は誓った。俺に、俺自身に誓った。
俺は、親友や愛する人守るべき者を守り抜くと。
「その対象に私もいると?」
ゼンは、目を青く光らせながら俺に問う。
己の覚悟を解いてくる。
一度『物』としてみた私を、守るべき『者』として見るのかと。
「ああ、もちろん。お前は、俺にとって大切な人だからな」
俺は、この質疑応答が始まる前にしたゼンに笑顔よりもさらに強く笑ってみせる。
この笑みに俺自身、どんな意味があるのかよく分からないが。そのときの俺は、そこで笑って見せたのだ。
否、俺が意味も泣く笑う訳がない。思い出したのだ。振り返ってしまったのだ。
あの日、初めて彼女が俺を認めた日のことを。
あの─────美しい笑顔を。
「あっそ。アンタの心も読んでたし嘘ではないみたいね」
「ああ、これは俺の本心だ。核心だ。それは一生変わることのない事実だ」
「ふ~ん。あっそ」
「俺は、お前の信頼に足る人物だと認めてくれたのか?」
「まあ、いいでしょう。でも、マスターの登録はまだよ」
マスター。
それは、俺がゼンに答えたときに出た本来の姿を使用する上で必要称号のようなものだ。この世界だ と別名『適応者』という奴だ。
それなしでは、本来の姿の使用を許されない。
可及的速やかにほしいわけではないが、それがあればゼンに本当に認められたと言えるだろう。
彼女らからしたら、本来の姿は全裸と同じようなのだ。別に見られて恥ずかしい感情がわくわけではないらしいが。
「ガードが堅いな」
「女なんてこんなものよ。私を口説いて見せることね」
「お前の場合、飯をおごれば一瞬で落ちそうだけどな」
「ハッ! そんなことたまにしかないわ!」
たまにあるのかよ。不安でしかない要素なんだが。
気づいたらコイツは他の奴のところに行ってるのか。
なんだその都会の尻軽女みたいな奴。
「嘘よ、そんな都会に対する偏見を見せないで」
「お前の話のはずなんだがな」
なぜこんなにも、他人の事のように会話を進められるのだろうか。
間違いなく、俺はゼンの事を指していったのだが。
「なんのことかしら。それより話は以上よ。さっさと行きなさい」
と言うことなので、俺は扉に手を掛ける。
ん? コイツは来ないのか?
「先に行ってて。すぐに行くから」
「そうか? なら先に行ってるぞ」
少し不審に感じたが、少しぐらい時間を取っても良いだろうと思い、俺は先に出る。
かなり大切な話をしたし、少しぐらい心を整理する時間を取ってやろう。すぐに来るといっているしな。
優しさに溢れる俺は、何も言わずに部屋を出る。
俺は理解者だからな、女心も分かるのだよ。
……多分。
☆☆☆
アインが出て行ったのをみてゼンは、ベッドで横になる。
おもむろに顔をリンゴのように火照らせながら。
「ああ~。恥ずかしくて死にそう」
そうつぶやく。
心に思ったことを口に出す。
聞こえていないかと不安になるが、心情の位置は遠くに行ったので大丈夫だと確信する。
そこから少しの間、ゼンはベッドの上に横になったまま時間が進むのを感じる。その時間は、ものすごく速く感じれたし、遅くも感じることができた。
すぐに行くと言ったので、そこまでの時間はかけられない。ゼンはすぐに体を起こす。
部屋を出ようとしたゼンの頭にある疑問が浮かぶ。
「でも、結局彼が何者なのか……この私でも見えなかったわ」
そのままゼンは、それだけつぶやき部屋を後にする。
考えても分からないと分かっているからだ。
鼻歌を歌いながら、気分の良さそうに部屋から出て行く。
バタバタと、ゼンは急いで階段を降りる音が外からかすかに聞こえた。
その部屋には、ただ日が差し込む。
お昼時の、明るい暖かに日が部屋に差し込み、ベッドを暖める。気持ちの良い温かみを与える。
そして、そのベッドの上にはずっと─────疑問が残される。
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