第十六話 強い人
新しくダルクを加えて、俺たちは森の中へ突入にした。
夜の森は、先ほどの道よりも見にくい。
それに、草も生い茂っているし木の根っこなどが足に引っかかる。
道とは、比べものにならないほどに動きづらかった。
「そんな所でも、爆速なんだから。ゼンってすごいよな」
俺たちが困っている中で、ゼンだけがものすごい速さで森を突き進んでいく。
なので、ゼンには先行してもらって偵察をさせている。
この広い森に中で迷子にならず、目的地の場所を見つけて確実に戻ってこれるのは、きっとゼンだけだろう。
ダルクは、先行させるよりも殲滅の方が得意だ。
「そうだな。あんな嬢ちゃんがここまでの強者とは恐れ入ったぜ」
ダルクも、ゼンの能力には驚いている。
街の警備兵だと、あんな規格外な奴と一緒に行動する事なんてないだろう。なので、ダルクからしたら恐ろしい存在のはずだ。
「しかし、あの嬢ちゃんでもこんなに広い森を探索できるのか?街の何倍もあるって言われてるんだぞ」
ゼンが、本当に偵察を成功させられるのか。
アイツの力が不明瞭なので、ダルクはそこまでゼンが信じられずにいる。
まあ、少ししたら身に染みて感じられるだろう。
アイツなら、確実に成功できるだろうしな。
それにしても、いつまで経っても夜の森には慣れない。
この静けさは好きだが、どこから何が出てくるのか分からない。そのくせして、気配はたくさんあるのでどれが敵かよく分からない。
そこをゼンは、心情把握で心を読み、相手の勢力などを判断できるのでとても便利だ。
だから、森の探索や夜戦ではとても重宝する。
一部隊に一台、ゼンの時代が来るかもしれない。
いや、来るだろう。
「来ないわよ!ていうか来させてたまるもんですか!」
ゼンが、草むらから突如現れて、大声を上げながら俺にツッコミをいれる。
いいツッコミだ、たぶん(お笑いの事はよく知らない)。
「私は一人よ!どれだけ私が有能でも残念だけど、それはありえないわ!」
「お嬢ちゃん。そこは有能であるところは自分で言っちゃいけないところだぜ」
ダルクが残念な子を見る目でゼンを見つめている。
ついでの、思っていたことも口から出ている。
そんなダルクに、ゼンはフンッと言いながら顔を背ける。
残念ながら、ダルクの仲良くする気はないようだ。
「で、何か見つかったか?」
俺は、話を切り替えゼンから報告を受ける。
「ここから少し行った所に盗賊団の拠点があったわ。でも……」
「でも、なんだ?」
「まるで、見つけてもらう事を前提にしているような明るさだったわ」
敵の拠点全体が明るく照らされていた、という事だろう。
森の中の拠点だ。どこから敵が来るか分からないから明るくすることに問題はないが、奴らはミを日占めるべき盗賊だ。居場所をばれると街から兵士が送られる可能性がある。
盗賊が森の中で明かりを派手に使っているのは怪しいな。
罠なのか?
誰かが、後ろから糸を引いている可能性……。
「ありえると思うわ。何かの作戦が現在進行形で動いている可能性だって──」
「おいおい、何の話だよ。何がありえるんだ?」
俺とゼンが敵について思案していたら、間にダルクが入ってくる。
いつもの癖で、ゼンの心情把握を使っての会話をしてしまった。
ダルクからしたら、特に会話をしていないのにどんどん進んでいき、何の話かよく分からない状態だろう。
この癖は直す必要があるな。
俺とゼンだけならいいが、誰かが居る場合はいちいち説明する必要がでてきてしまうから、面倒だ。
「誰かが、後ろから手を引いている可能性があるかもしれないんだ」
「ふーむ、それがありえるかもしれないと……ん?なんで嬢ちゃんはそれが分かっ──」
「時間が惜しいな。行くぞ」
「えっ。わ、分かったよ」
ダルクが、余計なことに気づこうとしていたので、無理矢理終わらせる。
そこを意識されると、説明のしようが無い。精々『俺たちは、固い絆で結ばれているんだ!』ぐらいしか言えない。
「キモいわね」
「ん?なんか言ったか嬢ちゃん?」
「いいえ、何でも無いわ」
ゼンが、俺に聞こえるぐらいの声量でボソリとつぶやく。
わざわざ、俺にだけ聞こえる声で言うとは、性格の悪い奴だ。おまけに、冗談で言ったのにマジなトーンでキモいって……。
いや、気にするだけ無駄だ。
コイツに優しさを求めるなんて行動が、間違っているんだ。
今は、作戦中だ。
そっちのことを考えよう。
「じゃあ、盗賊団の拠点の近くまで寄ってみるか。ゼン、案内を頼んだ」
俺は再びゼンの先導をお願いする。
場所もバッチリ分かってるし、敵の接近にいち早く気づけるのはゼンだけだ。ただの気配だけなら俺たちでも分かるが、相手が敵かの判断は心が読めるゼンが一番得意だろう。
「はいはい」
ゼンはそう返事をして、ガサガサと出てきた草むらを戻っていく。
その動きには迷いがなかった。
草むら以外の道で行ってほしかったが、いいだろう。
森の中の行進なら致し方ない。
「嬢ちゃんって、結構強いんだな」
ダルクは、それだけ言う。
何が強いかは、言わなかった。一言も言わなかった。ダルクの瞳の少年のような輝きを感じたが、見なかったことにしておこう。
これは、彼女のためにも黙っておこう。
俺は、女心が分かる男だからな。
☆
森の中で煌々と光る場所を目視する。
かなり遠くからでも、ここにある事が分かってしまうほどに明るく光っていた。
まるで、ここに居る事を誰かに知ってもらいたいかのように。
「こりゃすごいな。ここまで明るく照らしているとは……」
ダルクは、この光景を前にして驚きを隠せずにいた。
思った事が口に出ているのが、その証拠だ。ただ純粋に驚いている。
しかし、それほどまでにも明るく照らされているのだ。
思わず、思った事が口から溢れるほどに、そこは明るいのだ。
「そうでしょ。私も最初は驚いたけど、ここに居るのは全員盗賊よ」
その光景をゼンは、冷静に解説する。
決して美しいわけではないが、ここまで明るいと目が背ける事を拒む。ただ、ずっと見ていたいという気持ちに駆られる。
ゼンが丁寧に解説してくれているが、それが頭の中に─────
「聞いてるの!?」
心地の良い気持ちだった俺をゼンは、ぶっ叩いてくる。
かなりの力でぶっ叩く。
「痛いだろ!」
「じゃあ、私の話を聞きなさい!アホみたいな顔して聞くんじゃない!」
ダルクは、その光景に苦笑を漏らすが、やられているこちらからしたら痛い。
笑う余裕すらないほど痛い。具体的に言うと、足の小指を全力でタンスに当てたような痛さだ。
「痛そうね」
「そりゃあ痛いと思うぞ、嬢ちゃん」
「そのことじゃないわよ」
ダルクが困惑したような顔をする。
ゼンが、心情把握を使って俺と話したせいで、ダルクとすれ違いが起きている。
心情把握を使うのはやめてやれよ。ダルクの仲間外れ感が否めないぞ。
そんな敵拠点の目の前でも、気の抜けた俺たちは真面目に話し合いを始める。
今回は、しっかりと作戦会議だ。
「周囲の見張りは、大体十数人ね。内側のいくつかの小屋にたくさん詰まってる感じよ」
詰まっているという言い方に扱いのひどさを感じるが、ゼンからしたら俺に紹介されてない人間は全てなんの感情も抱かないので、その言葉のひどさすら感じていないのだろう。
「すごいな。そこまで分かったのか……ん?なんで家の中に居るって分か──」
「それで、相手の武装は情報と同じか?」
俺は、ダルクの発言を遮って話を進める。
デジャブだな。
「いいえ、全体的に見ると三割ぐらい重装備だったわ」
────やはりか
少年からの情報では軽装が多かったらしいが、三割が重装備か……かなり手強いな。
全体の数が多いので、三割と言っても十数人はいるだろう。
情報に間違いはないのだが、重装備の奴が三割もいるとは盗賊にしては豪勢だな。
たかだか盗賊程度が用意できるほど重装備のフルプレートアーマーは安くないし、整備も簡単ではない。
そんな盗賊の装備に対して、こちらは三人だ。
そう考えると、重装備の相手では三対三でも苦労するのが普通だろう。
それが、十数人か……。
ダルクを突っ込ませれば……なんとかなるか。多分、彼なら大丈夫だろう。
「そんなに強いの?ほんとに死んじゃうわよ」
ゼンは、ボソリと俺に耳打ちする。
ダルクを思っての行動、と言うよりも死んだときに俺が悲しむんじゃないかと思っての行動だと思われる。
「大丈夫だ。アイツは強い」
俺は、ゼンの顔を見ないで言い切る。
できるだけ力強く、はっきりと。
「そうなの?アナタがそう言うなら、信用するけど……」
ゼンは、未だに信じられていないようだったが、渋々俺が言ったので納得してくれたようだ。
そこまで強く見えないだろうか。
たしかに、猫背だし、槍もボロボロだし、前髪が目にかかっているし一見弱そうだが、そこまで弱く見えるのだろうか。
俺には、その心がよく分からない。
「私には、アナタがなぜそんなにダルクを強者と認識しているのかが、良く分からないわよ」
なんてことを、ゼンに言われてしまうほどに、俺の認識は理解してもらえなかった。
「ほら、作戦会議を続けなきゃ」
「そうだな」
俺は、ゼンに促されて会議を再開する。
話の脱線が過ぎるな。
作戦の前に緊張でガチガチよりいいが、たるんでるのも問題だ。
「そこまで広くないし、拠点の全体図なんかもいらないだろうし……」
というか、今からそんな物用意できない。
ゼンにやらせれば作れるだろうが、今は時間がないのでなしで実行に移す。
「後は、この後の行動でいいか……ダルク」
「ああ!」
ダルクが、元気よく返事をする。
お前は、初戦闘の新兵か。その姿でそんな返事されても、反応に困ってしまう。
「お前は、正面から突っ込む、以上!」
「いやいやいや、適当過ぎるでしょ!アンタ真面目にやる気あるの!?」
ゼンに言われたく無い言葉、ナンバー3ぐらいの順位のツッコミを言われた。
いつもやる気のかけらもない、お前がそれを言うのか。
「大丈夫だよ。ダルクならできるから」
「う、うん」
先ほどのツッコミから見るに、未だに俺の言うことを心から納得できていないようだ。
あれだけ俺に質問しといて、まだ信用できないのか。用心深い奴だ。
それに、誰かが正面で敵の注目を集めてもらわなくては、その作戦はやりにくい。
というかダルクの性格上、難しい指示は出すだけ無駄なので単純な方が良いのだ。
「ダルクが正面で注目を稼いでいる間に、俺とゼンで裏から敵の拠点に侵入する」
簡単に説明すると、ダルクが囮で、俺たちが本命だ。
作戦としては工夫がないが、人も居なければ情報も無いので、これぐらいが俺の限界だ。
「とりあえず、これで行動してもらう。合図は俺が出すから、それまで各自準備してくれ」
「「了解!!」」
この作戦の準備にあまり時間は掛けたくないが、どんな作戦でも準備の時間は、たとえ数分だけでも確保した方が良い。
それだけで、心に余裕が生まれる。
それに、俺も用意したい物があるしな。
俺は、少し離れた木にもたれかかっているゼンに声を掛ける。
ゼンは、つまらなさそうに空を見ていた。何か見えるのだろうか。
「ゼン、お前に作ってもらいたい物があるんだ」
「ふ~ん。ねえ、質問。いい?」
ゼンは、藪から棒にそんな事を言い出した。
ダルクについてだろうか。聞かれても俺は個人の話だからあんまり話す気は無いが。
「違うわ。私の事」
「お前の事?」
ゼンの事とは、一体何のことだ。
自分の事なんて自分が一番知ってると思うのだが。
「アナタは私のこと、何だと思う?」
「え?は?何だと思う?どういう意味だ?」
何だと思うとは、一体何のことだ?
自分の正体とかか、全てを裏で操る黒幕だとか言いたいのか?
「で、何を作れば良いの?」
「いや、そうじゃなくて、どういう意味──」
「何を作れば良いの?」
これ以上ヒントを与える気は無いと?
ここから先は俺が全て考えて答えを出せ、ということなのだろうか。難しすぎないか?いや、今までも思い出せばもしかして……。
「ねえ。何を作るの!」
ゼンが、少しキレ気味にそう言ってきた。
おっと、忘れていた。
「カチューシャを」
「分かったわ」
ゼンは、手短に素っ気のない返事をして、あっという間にカチューシャを作ってしまう。
ポンッと、ゼンの手に平に赤いカチューシャが置かれる。正しくは、出現するだろうか。
カタナほど難しくなかったようで、一瞬にして出来上がった。
飾りが一つも付いていない、ただの赤いカチューシャが俺に渡される。
ポイッと投げられ、俺は慌てて受け取る。
まさか投げてくるとは思わなかった。
「ありがとな」
「気にしないで。それじゃあ、考えておいてね。」
そう言い残して、ゼンをはウインクをしてから帰って行った。
いや、帰っていったと言うよりも離れていったという方が正しいのだが、雰囲気に流されて思ってしまった。
考えておいて……か。
うーむ。
そんな事を考えていると、槍を振っているダルクを見つける。
その槍裁きは、お世辞にもうまいとは言えないものだった。見て呉れ通りの槍裁きだろう。
「ダルク、これお前にやるよ」
「ん?……カチューシャか!ありがとう」
「良いよ。それに、そのカチューシャはゼンの物だしな。後でお礼を言っておいてくれ」
「ああ、分かったよ」
ダルクは、カチューシャを大事そうにポケットに入れる。
その丁寧さは、宝石を扱っているかのようだった。
「しかし、彼女は強いですね」
「ああ、お前以上だよ」
俺は、遠くに見えるゼンを見ながら言う。
「そこまでですか」
ダルクは、少し悲しそうに返事をする。
あんな若い女の子を同格まで下がったと思っているのだろう。しかし、アイツの場合強さのベクトルが違う、ダルクは今でも強者だろう。
「そんなに落ち込むなよ。今回の作戦での成果待ってるぞ」
「はい、お任せください。ご要望以上の成果をあげて見せましょう」
ダルクは、力強くそう言い切る。
心強いな。ダルクの今後に期待しよう。
まあ、あの盗賊団の中で傷をつけられる者なんて、いないと思うが。
盗賊の方にも、ダルクを楽しませる強者がいることを期待しよう。
ダルクに渡したい物は渡したし、二人と話せたしそろそろ良いだろう。
「ダルク、付いてこい」
「はい」
ダルクは、静かにそう返事して、俺の後ろを付いてくる。
ザッザッと、ダルクの足音が森の中に響く。
それに気づいて、ゼンがこちらを向く。
ゼンの場合、心情把握か足音か詳しくは分からないが、そんなこと気にしなくて良いだろう。
「行くぞ」
「了解」
ゼンは、ゆっくりと俺に近づいてくる。
そこからは、まったく足音が聞こえず、実に静かだ。
ゼンは、そういったところからダルクが、弱いと思ったのだろう。
「よし」
俺は、一呼吸置き
「お客を迎えに上がろう」
作戦開始の合図を出す。
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それではまた次のお話で会いましょう。




