第十五話 未来を変える思惑
俺たちは、母さんにばれないように窓から出て行く。
窓からの外出は経験(つい最近だ)があるので、そこまで手間取らずに出られた。
窓からの脱走なんて、人生でそこまでしない経験だろう。
もし、窓からの脱走をよくしている人が居るのなら会ってみたいものだ。
「そんな、しょうもない事考えてる暇があるのなら、もっと速く動いてくれる?」
なんて冷たい言葉をゼンから掛けられながら、俺はそそくさと家の敷地から出る。
優しさのかけらもないゼン言葉に、俺は深く傷つきそうだ。
「早くしないと、大声上げるわよ!」
「やめろ!ばれるだろ!」
それを大きめの声で言い合う俺たち。
ツッコミ不在のオチがつかない、悲しい現場だ。
早急にダルクと落ち合って、ツッコミをやってもらわなくてはいけない。
そんな最初から、茶番全開の俺たちだが、作戦は特に問題なく進んでいる。
最初の難所を無事に越えた。
次は、西門まで行ってダルクと合流しなければ。
おそらくダルクなら、門の前の見やすい位置に立ってくれているだろう。
しかし、盗賊団に勘づかれないように明かりをつけていないので、土地勘と少し利き始めた夜目でなんとかする。
ゼンは、暗がりでもくっきりと見えているので恐ろしく速い速度で先頭を走っているが、俺には、そんな機能ないのでなんとなくで走っている。
たまに転びそうになるが、そこは持ち前の身体能力でうまく対応している。
「遅いわよ。速くして!」
「分かったから、そんなに急かさないでくれ!」
こんな会話をもう5回はしている。
走ってる速度並みにせっかちなゼンと、そこまでせっかちでもなければ、ゼンに追いつけもしない俺。
悲しいが、これは覆らない現実であり、あと何回かこれを言われなくてはいけない。
一桁で済むといいな、なんてことを考えながら、俺はゼンに付いて行くのだった。
☆
「そろそろね」
「ああ、そうだな!」
語尾に力を込めて俺は、そう返す。
計15回!15回も俺は、コイツに文句を言われ続けた。
ここに来るまで走っていたのだ。
なので、10分ぐらいしか経っていないはずなのに俺は、なぜ、こんなに文句を言われ続けているのだろうか。
俺は、決して悪くないと思うのだが、そんな事を言ったらゼンは、怒り始めるので黙っておく。
こういったとき、ゼンの心情把握ははじき返してくれるだろう。
「ふ~ん、そうね。どうかしらね」
なんてことをゼンが言った気がしたが、気のせいだろう。
なんで、無視するのよ!と、ゼンが怒っているがそれもまた気のせいだろう。
しかし、走っただけなのにかなり疲れた。
か・な・り・疲れた。
「チッ!なんでわざわざ二回も言うのかしら?」
「大事だからだよ!」
コイツのことだなぜ言われているのかぐらい理解してるだろう。
なんなら楽しんでいる節すらある。絶対に。
それにしても、ここまで俺を苦しめたんだ。
一発ぐらい、殴られる覚悟はあるだろう。
「きゃー、襲われる~」
「棒読みで言うんじゃねぇ!殴られると思って無いだろ!」
「ハッ!当たり前じゃない」
こ、こいつ……。
ほんとに一回殴った方が、良いのではないのだろうか。
きっとコイツなら俺の拳を止める、いや、なんなら止める前に殴り返してくると思うが、それでも!
一発、コイツを殴らなければ!
「なんか、感動的なシーンでありそうね」
そんな、今の雰囲気をぶち壊すような発言をゼンはする。この場面は結構重要というか、大事な場面になると思っているのだがそんなことないのだろうか。
思った事をそのまま口に出すのが、ゼンの悪いところだ。まあ、そこが良いところでもあると思うのだが。
ちなみにだが、俺は黙っていてほしいと以前から思っている。
「ほら、どうでもいいことを考えてるうちに、門が見えてきたわよ」
「どうでもよくない!」
俺は、ゼンにそう反論してから、視線をゼンから前方に移す。
そこには、かがり火で明るくなっている西門が見えた。
ここから見た感じ、ダルク以外にも兵士がいそうだ。
2・3人分の人影が見える。
しかし、門の前に立っているのは一人なので、おそらくあれがダルクだろう。
槍を持って立っているが、少しせわしなさそうだ。何かあったのだろうか?
もう盗賊が攻めてきたのか?
しかし、奴らの狙いは俺たちのはず。だとしたら一体にどうしたのだろうか。
「ゼン、ここからダルクが読めるか?」
「ええ、問題ないわ」
ゼンは、そう言って目を閉じる。
俺が全て言い切らなくても、察してくれるのでありがたい。
何が言いたかったのか分からなかった人に補足しておくと、今のは、心を読んでほしかったのだ。
まあ、読めるかという発言からある程度の予想はつくな。
それにしても、目を閉じながら走っているのに速度が落ちない。
ゼンだからできる芸当だろう。
全盛期の俺ならもちろんできたけどな。
本当だぞ!
「ん~、男の子がいなくなったみたい。それで、ダルクは焦っているのね」
男の子というのは、昼に会ったあの子だろう。
俺が、約束をした男の子だ。
しかし、いなくなった……。
お母さんの事が心配で?いや、だとしても盗賊の恐怖を一度味わっていながら、そんな事をただの少年ができるのか?
これが、あの少年の英雄譚だったとしたら、きっと少年は才能を開花させて、盗賊たちを倒してしまうだろう。
しかし、現実を創作物の出来事に当てはめるなんて、ふざけている。
力というものは、尊い犠牲の対価か長い努力の末に手に入れるものだ。
才能なんて言う、奇跡的なもの。信じるだけ無駄だ。
だが、少年の不在……。
俺が信頼できず、自分でたすけに行ったのか?
それでは少し現実的ではない。
一体どういった理由でいなくなったのだろうか。
「あら、その奇跡的なものによって今ここに居るのによく言うわ」
ゼンは、俺の横につき、いらない事を言ってくる。
奇跡を信じないと言う俺自身、その奇跡のようなものを経験しているのだ。
そのくせして、未だに信じないなんて頑固な奴だろう。
意志が固いと言えば、聞こえは良いんだがな。
「その通りだな。だが、俺は奇跡なんてものは信じない」
「そうなの?」
「ああ」
「あっそ」
ゼンは、そんな乾いて返事をして離れていく。
どうやら、話したい事はもうないようだ。
それに、もう門が目と鼻の先にあり、ダルクがこっちに向かって走ってきた。
こちらに気づいたようだ。
「おーい!大変だ!」
「どうしたんだ?」
何が大変なのか、俺たちはもう知っているが、ややこしくしたくないので知らない風を装っておく。
ここで、余計な時間を使いたくない。
「男の子がいつの間にかいなくなってて、たぶんお母さんを助けに行ったんだと思うんだが……」
「確証はない、と?」
「ああ」
ダルクが、少しうつむいている。
しっかりと見ていなかったことに責任を感じているようだ。
しかし、ダルクから逃れるとは。
ダルクは年を取ったただの街の守兵だが、腐っても兵士だ。それの目を盗んで逃げるとは素晴らしい少年だな。
「大丈夫だよ。もし、あの子が盗賊の所に行ったのだったら、今から会えるはずだ。急いで向かうべきだろう」
「そうだな……。よし!先導は任せてくれ。いくら何でも子供に先を行かれるほど落ちぶれちゃいない」
胸をバンッと、たたきながらダルクはそう口にする。
少しでも大人としての威厳的なものを取り戻したいようだ。
「最初に死んじゃいそうな人ね」
そんなダルクに、ゼンはかなり残酷な一言を溢した。
まるで、ダルクの未来を予知しているかのように、そう溢した。
───しかし、そんな未来はありえない。と、俺は信じている。
☆
森の中を駆ける人影が、二つ。
その二つの人影は、森の歩き方を熟知しているようでとても速い。
あっという間に、足場の悪い森を突き進んで行く。
「そろそろですか?」
「はい。もうまもなくです」
質問者の声は、大人と言うよりも子供のような高い声をしている。
その質問に返答を返した声は低く平坦だ、大人──男性である事が容易に想像できた。
しかし、この子供の落ち着いた声に男は違和感を隠せなかった。
子供とは思えないような身体能力に、冷静さ。しかも、この作戦を考えたのまでこの子供だと聞いていた。
この作戦は、男の所属する盗賊団の団長の憂さ晴らしだが、存在を活動拠点の都市クリークに知らしめるには、ちょうど良い作戦だった。
「見えた──見えました。あちらです」
男は、慣れない丁寧な話し方に悪戦苦闘しながら、子供に説明する。
この子供は、あの団長が先生と敬うほどに人だ。なにか粗相が合ってはいけない。
なので、男は重役攫いの時よりも緊張していた。
気に障るような事はしてしまえば、男の首は簡単に飛ぶ。
きっと、物理的に。
なので、男はビクビクしながら子供との会話をしている。
会話に余裕はまったくない、そのせいで歩き慣れたこの森でたまに転びそうになっている。
「あれですか。明かりをあんなに焚いて……ばれますよ?」
子供の落ち着いた声とともに、木々の間から、まぶしいほどの明かりが見えていた。
この深い森の中でも拠点を発見しやすくするための工夫だったが、気に障ったように聞こえ、男の頬に汗がつたう。
「も、申し訳ございません!すぐに対応を──」
「いえ、今回はこの方が……ふふ」
謝罪をした男を子供は遮って、意味深長に微笑む。
男は、その笑みに恐怖を抱く。
幼い子供が見せるような無垢な笑顔とは、比べるのもおこがましいほどだ。
それは、獲物が殺せると喜ぶ獣のような冷えた笑みだ。
今すぐここから離れてしまいたい気持ちを抑えて、男は子供を拠点まで送り届ける。
拠点に入ったら、すぐに団長が飛び出してきた。
その顔には、喜びと焦りが感じられた。
この少年に会えた事に対する喜びと、出迎えが遅れた事に対する焦りだろうと、男は思う。
団長のこのような表情はなかなか見られるものじゃないので、男は団長にも違和感を抱いていた。
どうして団長がここまでこの子供を大事にするのかを、よく理解できていないのだ。
「ウォークライ、お前の見張りの仕事に戻ってくれ」
「了解しました」
そう言って、男──『ウォークライ・ダルマン』は、子供の横から離れる。
異質な雰囲気を放つ子供から離れられて、ウォークライは全身から力が抜けるのを感じる。
あの子供と少しの間一緒に居たが、何も読み取れなかったことに衝撃を受けながら。
ウォークライは、その場を逃げるかのように後にするのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




