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不気味の実験  作者: 瀬戸内 泉


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3/9

超記憶症候群

私は超記憶症候群(ハイパーサイメシア)という能力を持っている。

25歳の時からの記憶を、日付ごとにすべて記憶している。

例えば10年前の今日、何をしていたの?と質問されれば、私はすぐさまこう答える。


「朝6時に起きて、食パンとヨーグルトを食べてから会社に行き、会社帰りにA太とB美とカラオケに行って採点で93点を取った日です。」


内容は映像として、脳内で再生されるように鮮明に思い出される。

追体験しているといった方が、より厳密かもしれない。

食パンの上に薄く乗せたマーガリンの味すら覚えている。


この能力は一見するとメリットが多いように思われるだろう。

しかし実際はデメリットの方がはるかに大きいのだ。

良かった出来事以外…すなわち "忘れたいような嫌なこと" も、すべて覚えているのだ。

毎日生きているだけで記憶が増え続けていくから、時々脳がパンクしているような錯覚を覚える。


話を実生活に落とし込んでみよう。

この能力で一番興ざめするのが、時々起こるデジャヴ(≒繰り返し)だ。

たとえばドラマや映画を見ていたとして、そのどこかが何かの作品に似ていることに気づく。

人間が作る創作物だから、作者が感じた事象を起源にしており、致し方ないことなのだろう。

普通の人なら違和感を感じないかもしれないが、私のような特殊能力を持つと気づかなくてよいことまで気づいてしまう。


しかしこの視点で物語を見てみると面白い。

新たな創作物でも、純粋にすべての要素が新しい素材で組み立てられたものは無いように思えてくる。

組み立てているパーツ各々は、作者の記憶のどこかから運ばれてきたものなのだ。

そうして目新しいものと、見慣れた何かの境界線が曖昧になっていく。

現実とはそのような夢現(ゆめうつつ)かもしれないと感じてしまう。


そうは思いつつも、何かに似ている感じがあまりにも鮮明なときは、靄が胸中に広がっていく。


今はまっている火曜日のドラマが、まさにそうだった。

何かの物語と似ているようで違っている。

何だろう?

何故だろう?

思い出せそうで、思い出せない。


そのドラマの中では、恋人どうしが大抵ケンカしあっている。

毎回絶妙に彼氏がウソをついている。

彼氏は彼女の親友と浮気をしていたのだ。

彼女の方は不快を抱えながらも、信じて裏切られるの繰り返し。

よくあるパターンなのだろうが、このセリフや展開が何かにとても似ていて心がざわつく。


あぁ、なにかと似ていて思い出せない。

非常に脳に負荷がかかっているようで眠くなってきた。



◆ ◆ ◆



夢の中で、鮮明な映像が再生された。


10年前の今日、カラオケにいった帰り道、

私は当時付き合っていたA太を殺害し、B美に容疑の目がいくよう工作したのだ。

二人は浮気していた。

いや、私が浮気相手だったのだろうか。

全ての記憶が押し寄せて、夢か現実かわからない。


目覚めると鉄格子に囲まれた窓から差し込む光が暖かい。


「あぁ、ちょうど10年前の今日だったのか…だからこんなにも鮮明に…。」


月光に照らされて、境界線がぼやけ空間に溶けていくようだ。



了











彼女は本当に超記憶症候群だと、思いますか?

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