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不気味の実験  作者: 橘泉


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2/2

第二話 或る女

S駅の駅前ロータリーには大手コーヒーチェーン店Sがある。

ちょうどロータリーの角の区画にあり、2階席まである設計だ。


私はその店の2階にある、窓側に面したカウンター席がお気に入りだ。

商店街を見下ろすように配置された大きな窓にある、一番右側の席。

そこが私の定位置である。


いつも決まってソイラテのショートを頼む。

イソフラボンの摂取は現代に生きる女性にはもはや必須である。

2階を選ぶのは会話目的の客が少なく、静かだからだ。

ボックス席もあるがカウンター席をあえて選ぶのは、電源補充ができるからだ。

ただ時間を潰すのではない。

何に対しても合理的に淡々とこなすことが好ましい。



さて、この席にいるとまるで下界を見渡す神のような視点を体験できる。

例えば、ちょうどここから右斜め下にある大手ハンバーガーチェーン店の1階カウンター席には、可笑しな男がよく座っている。


その男はいつも人間観察をしているようなのである。

本人は気づいていないのだろうが、じっと人間を根目回すような独特な視線は遠くから見ていても吐き気がする。


そして私は目撃した。

その日、男はわざと店の前に財布を落とすと、そこを通り過ぎる人々の挙動をずっと観察し、なにやらほくそ笑んでいる。

変態以外の何ものでもない。

実に気持ちの捻じれた男ではないか。


少しの気持ち悪さを感じる一方で、私はなぜかその男の魂胆が手に取るようにわかってしまった。


この男は待っているのだ。

善良で無垢な人間を。

そう、例えば、財布の中身も見ず交番に届け出るような善良な人間を。


そしてその心根の純粋さを探り、揺さぶり、試したいのだろう。

善良な人間の心の許容範囲の限界を見つけるために、財布を置くという稚拙な方法で人選しているのだ。

この可笑しな男は、幼稚で狂った好奇心の衝動を抑えきれずに、財布を置いたのだ。



ならば、私が演じてやろうではないか。

ちょうどソイラテも、そろそろ飲み干す頃合いだ。

今日は清潔感のある簡素な装いをしているから、外見的にも印象操作しやすいだろう。



私は軽やかにコーヒーショップ店を出て信号を渡ると、ハンバーガーショップ店の前を足早に通り過ぎるフリをする。

そこで足元に落ちている財布に、その時に気づいたフリをして即座に拾い、中身も見ずに交番へ届ける。

横から食い入るように見つめる男の目線に気づかないフリをしながら。


さて、この男の好奇心と恐怖の境界線はどこにあるのか。

恐らくこの後、交番に届けたあたりで偶然を装って近づいてくるだろう。

それから人間関係を構築するためにお礼と称して距離感を近づけてくるだろう。


はたして、その後どの段階で、"フリ" をやめようか。


久しぶりに手ごたえのある実験が出来そうだ。

胸の高鳴りが止まらない。

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