チャプター03 悪い夢を見ただけだ
「うわっ」
ボクは弾かれたようにベッドから飛び起きた。
一瞬混乱して、慌てて周囲を見渡す。
痛みの残る脚に恐る恐る手を触れたが、そこに傷はなかった。
さらに混乱が深まる。
ついさっきまで、あの深い森の中でモンスターと戦っていたはず。
怪我をして、今までに感じたことのないような強烈な痛みで。そして咲良さんに助けられて。
「あれが、夢……?」
口の中がカラカラだった。
リアリティがある、なんてレベルではなかった。
本物の恐怖に、ボクはまだ身震いしていた。
改めて部屋を確認する。
六畳間の寝室。
2DKの古いアパート──そうだ、ボクのアパートだ。
長年暮らしている、慣れ親しんだ自分の部屋。
ボクはここで眠っていたのだ。
徐々に意識がはっきりしても、違和感は拭えない。
腕に走った鋭い痛み、巨大なモンスター、襲われたときの恐怖──どれもが鮮明で、生々しくボクの身体に染み付いている。
何だかざらざらする。
混乱したボクは重い体を引きずるように台所へ行き、冷たい水をコップ一杯飲み干した。
少しだけ、気持ちが落ち着いた。
「うん、夢。夢だよね。夢だ」
自分に言い聞かせるように、何度もそう呟く。
寝室には昨日まで存在しなかった巨大なVR機、『コクーン』が部屋の真ん中に鎮座している。
──『アポカリプスプラネット』専用の最新機種だ。
ずっと待ち焦がれていた機器がついに届き、興奮しすぎたせいであんな変な夢を見てしまったのかもしれない。
ボクは、そう考えることにした。
そうだ、よくよく考えてみれば、この世界にモンスターなんているはずがない。
2120年。世界を見渡せば、戦争をしているところもあるけれど、日本は至って平和だ。
2000年代後半に登場した、脳神経に直接データを送ることができるVR機器の発明と、その技術を独占することで、日本は世界でも有数の経済大国になっている。
「それが情報災害で滅んで、ゲームが融合して、300年経った世界?」
──塵界。
口に出して、その現実感のなさに途方に暮れる。
やっぱりありえない。
あの終末感漂う、ビル群が樹木に押し潰された光景だって、いかにもゲーム的な風景だ。
ましてや、人間が咲良さんのように高速で動くことなんて、現実にはあり得ない。
人間が人間の限界を超えて動くことができるのは、VRの中だけだ。
現実は現実。
それが、ボクらが生きている現実だ。
「……よし、じゃあゲーム、やってみますか!」
気を取り直してコクーンへと近づく。
昨日はVR機がようやく届いたのに、セットアップだけでかなりの時間がかかってしまった。
多分、その疲れで変な夢を見たんだろう。
──世界を席巻したVRゲーム『ロストアビス』を生んだ、新進気鋭のゲーム会社、ユミルゲームス。
その最新作である『アポカリプスプラネット』のベータテスターに合格できたのは、本当に幸運だった。
時計を見ると、まだ朝の四時だ。
セットアップで疲れて変な時間に寝て、嫌な夢を見て、こんな時間に起きてしまった。
初夏の空はもうすっかり明るくなり始めているが、登校するにはまだ時間がある。
どうせ明日からは夏休みで、いくらでもプレイする時間はあるけれど──それでも今すぐ少しでもゲームを進めてみたかった。
ボクは深呼吸して、期待に胸を躍らせながらコクーンの中へ乗り込んだ。
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【投稿スケジュール】
5月3日 4・5・6話
5月6日 7話
5月9日 8話 以降 毎週土曜日 21:00頃配信




